第14話 狂気戦士の黒い過去
「一旦止めれば落ち着くかなーと思ったんだけどダメか〜」
「マジでその停戦の旋律って1回しか使えないぽんこつ魔法だよね!」
「速さしか取得のない光魔法に言われたくないかな」
「〜っ! まじむかつく!」
ミカエルは頬を膨らませながらガブリエルと女の子の喧嘩を始める。
パラドは殺意を溢れんばかりにタスキへと向けている。
「…いや、何でもいいから先に止めてくれよ」
「死ね! 傀儡が!」
「タスキ様!」
最上階の入り口からレミリアと合流したヒメリアが戻ってきていた。
「姫様いいところに! とりあえず俺に支援魔法を! それと行きます、下着共鳴」
その勢いのままパラドを殴ると、見事なまでにパラドは最上階奥へと吹っ飛んでいく。
しかし、パラドの硬さも生半可なものではなく、ヒメリアの支援魔法に下着共鳴を上乗せしたタスキの拳でも流血するほどだ。
「アントの時と同じだ…殴れて後数発。アントより硬い奴なんていんのかよ。仮にも人間だろあいつ」
「安心しろ。その数発はない」
タスキは自分が後ろに回り込まれている事に気付き、即座に距離を取ろうとする。
パラドは右腕を上げ、手刀を作りそれを振り下ろす。
何かに気が付いたタスキは後ろではなく咄嗟の判断で右へと飛び退けると、振り下ろした先の壁に切断面が大きな現れ、城が少し崩れる。
「魔力に対する高い耐性、強靭な肉体。そして、空間をも切り裂く能力。魔王様の力はやっぱり違ぇなぁ!」
「魔王の力? どういう事だそれ」
「どうせ死ぬんだ。知る必要もない」
パラドはそう言うと手刀をあっちこっちに振り回し次々で切断面を作り出す。
バランスが悪くなり城が崩れ出すとミカエルはレミリアとヒメリアを連れて脱出。
ガブリエルは連れの女を抱え脱出をする。
「いい加減にしろ!」
タスキは強く地面を蹴りパラドにタックルを仕掛けると、そのまま壁を突き破り外まで落ちていく。
3階程の城から落ちた程度では全くダメージにならないパラド。
いくら強化されていてもダメージ、何よりも蓄積された疲労が表れ始めるタスキ。
「ぜっ…はあ。本当に同じ英雄なのか? スペックが違いすぎる…」
「ああ、同じだ。だが違うのは覚悟の重さだ。俺は強さの為ならどんな犠牲も構わない」
「その先にあるのが真の強さってやつだとは思えねぇ…なあ!」
タスキとパラドはがっちり手をぶつけ、取っ組み合いになる。
「真の強さ? お前に強さの何がわかるんだ。力よりもパンツ、ただの布を追い求める欲の塊が力の何を知っていると言うんだ! 俺は強くならなければならないんだ…強さが全て、その為なら…」
「力だとか、強さだとか知らねぇし! パンツはただの布じゃねぇ! 芸術のひと品だ! それとなぁ…俺みたいな素人でも今のお前の追い求めてる強さは…。そんな風に強くならなきゃとか思って続ける強さの探求じゃ超えられねぇ壁があんだ…よ!」
タスキは最後の声を勢いに強くパラドへ頭突きをする。
パラドもそれに立っていられず倒れ込むが、当然額が裂け、血が吹き出すタスキも反対へと反動でそのまま倒れ込んでいく。
「(何言ってるんだ、この弱者は…。義務感で求める強さじゃ超えられない壁だと? そんなものがあるはずがない。俺はあの時から強さを求め続け、そして示し続けてきたんだ…)」
×××
俺は5歳の時まで、ただ普通に生きる子供だった。
普通の家庭のように生活をし、幼稚園へ通い、スポーツクラブに所属し、塾へも通い。
何不自由のない、ごく一般的な家庭に生まれた。
あれは6歳になる少し前だった。
夜中、聞き慣れない物音に気が付き目が覚めた俺は物音のする方へと足を進めて行った。
その物音の発信源が両親の寝室からしている事に気が付いた。
とてつもない違和感に襲われていた俺は父親と母親に呼びかける事も出来ずに、足音を殺し寝室へと少しずつ近づいた。
「父さ…っ!」
俺は寝室の扉の隙間から覗き込みながら父親に小さな声で呼びかけようとすると、その先の思わぬ光景に言葉を失った。
荒らされきった部屋、そして見たことのない一人の男。
その足元で倒れる血だらけの父親と母親の姿だった。
「…?」
男は俺へと気付き、寝室の扉へと近付いてきた。
俺は逃げる事しか出来なかった。
朝まで逃げ続け、隠れ続け、異変に気付いた近隣住民の通報で俺は助かった。
だが、両親を失ったあの時の俺はこう思ったんだ。
「俺が弱かったから父さんと母さんは殺されたんだ」
と、ただそれだけが頭の中をグルグルと。
それからというもの、俺はひたすらに戦い続けた。…いいや、あれは殺し合いだ。
同級生を毎週のように血祭りにあげ、後ろ指を指す奴らを片っ端から半殺しにし、気が付けば俺は施設へと移されていた。
だが、そこでもやることは変わらない。
俺はこの世界に来るあの瞬間までずっと殺し合ってきた。
そうだ、だから俺は…
×××
「守りたいもんの為ならいくらでも強くなれる! それが強さだろ!」
そのタスキの真っ直ぐで眩しい瞳がパラドをまた苛立たせる。
「失ってからじゃ遅いんだ! わかんねぇようだから教えてやるよ。対価はてめぇの命だ」