第12話 乱入戦士の魔王疑惑
「タスキ様! 血が!」
ヒメリアがタスキに駆け寄り治癒の魔法をかける。
かなり深く抉れていたが、ヒメリアは補助系統の魔法に関しては右に出る者がいない事で有名で、その治癒の的確さと迅速さは目を疑うほどだ。
「助かりました。けど、どうするかな…あれ。氷の壁をいくら厚く作ろうがあの威力じゃ意味がない。どうしたらいいんだ。風魔法っていうくらいだし防御は手薄なんじゃ…」
「その可能性はあるかもしれません。風魔法の防御には矢よけの風膜というのがありますが、その名の通り矢を退く程度ですので。強化されてもそれ程の防御力にはならないかもと思います」
「そうか! それはいいこと聞いた!」
タスキは大木のような立派な氷の柱を作り出し、それを持ち上げるとヒメリアに身体能力の強化を施してもらい。
まるでチョークを投げるような感覚でそれをウルフへと投げつける。
「いやいや。避けるまでもないねぇ。風魔法、矢よけの風膜。強化。強化風魔法、破壊の暴風壁」
ウルフを囲むように風の膜が現れ、それへと触れた氷の柱はかき氷のように粉々に飛び散る。
矢を退く程度の風から強化をされたとは考えられないような防御魔法。
もはやそれは防御ではなく、攻撃にすらなるんじゃないかとタスキは嫌な汗をかく。
「あれどうにかなる気がしないぞ…おい」
「君の力じゃもうどうにもならないよ〜。まあ、だからと言って逃がしてあげる気もないんだけどさ」
「姫様だけでも逃げてくれ」
「何を言ってるんですか!」
「勝負にも負けて、大事なものも守れなかったなんて情けない終わりを俺にさせないでほしい。お願いします」
タスキの表情は諦めた様子ではないが、余裕なんて微塵も存在しないのがよくわかる程息苦しそうである。
それを見てヒメリアは何も言えず、その場から逃げる事しか叶わないのだ。
「大事なお姫様だけ逃がすなんて意外とかっこいいとこあるね〜。悪いんだけど、君もお姫様も当然外の女騎士ちゃんもみーんな、今日が命日だからさ」
「今日が命日になるのは俺だけで十分だ!」
「もうダメだよ〜。これで終わりだからさ」
「何が…?体が動かない」
会話の合間に拘束の為の魔法をタスキに発動していたのだ。
そして、先程と同じようにウルフは風魔法でトドメをさす準備へと取りかかる。
「こりゃ万事休すってやつだな…。悪かったな、ミカエル。魔王退治上手くいかなかったわ」
「ばいばい。変わった少年」
自分の最後を覚悟し、目をぐっと瞑り体をこわばらせる。
彼が最も頭に思い浮かべた後悔は、もっとたくさんの異世界女子のパンツを握りしめたかった。だった。
そんな事を考えながら等々ウルフの魔法が放たれた。
タスキが目を開くと自分が宙に浮いていた。
「死ぬと本当に空飛べるんだな、驚きだわ」
「死んでないし、何勝手に諦めてんの?」
「うわっ、ミカエル」
「うわって何だし! 失礼なんだけど!」
「あ、いや悪い。それで諦めるなって逃げるって事か? 少なからず俺じゃ手も足も…」
「出るよ? 恥ずかしいから絶対無理だったんだけど…ほら」
ミカエルがタスキへと黒にピンクの柄が入ったパンツを差し出す。
「これもしかして…」
「他に誰のがあんだし! うちのパンツだし!」
「これを使えば…」
「天使である私と下着共鳴出来るって事だよ。ちなみにうちの魔法は光魔法だから役に立つと思うから、ほら早く!」
「あ、ああ! いくぞミカエル! …下着共鳴」
ミカエルに抱えられたまま空中から光の矢を無差別に放ちまくるタスキ。
光の速度なだけあり、ウルフは躱すことも出来ない。
当然、光は風で防げるようなものでもないためウルフも追い込まれる。
「いやぁ、光魔法は厄介だねぇ。でもこれで死んでくれないかなぁ! 強化風魔法、疾風の巨槍」
「光魔法! テレポーテーション!」
光魔法には自分を光に変換し、瞬間的に移動する事の出来る魔法すらある。
攻撃力こそ低いものの、速さに長けた魔法種である。
「ミカエル! 俺を下ろせ!」
「りょーかい! ちょっとはかっこいいとこ見せてよね!」
タスキは地上へと綺麗に着地し、ドヤ顔をしながらミカエルに振り向く。
「今の俺、最高にかっこよくないか?」
「自分で言わなきゃかっこよかったんだけど…まじバカなの?」
「知ってる。光魔法!」
タスキが弓を放つ体勢になるとウルフは「させないよ」と、風魔法で攻撃を仕掛けてくる。
だが、タスキのそのポーズはフェイクでテレポーテーションで後ろへと回り込む。
「これでフィニッシュだ! 光の…」
タスキがトドメの一撃を放とうとすると、ステンドガラスに突然影が現れ、それがステンドガラスを砕く。
そして、その何かがウルフを壁へと押し込みタスキの一撃は見事にはずれる。
「答えろ。タウロスはどこにいる」
「え、なんだしあいつ。めっちゃ禍々しい魔力でまくってんだけど…」
「は? そんな悪そうな奴がどうしてウルフを」
「この魔力の感じ…そうだ。あれ魔王と完全に一致してるんだ」
「なんだお前ら、俺の邪魔をするなら誰でも容赦なく殺すぞ」