第11話 戦闘開幕の先制合図
「クソ! あいつよくも俺の大事なパンツを…っ」
「タスキ様落ち着いてください! 私のパンツなら城に戻ればいくらでも!」
「ないだろ」
「…え?」
「あの時、あんな恥ずかしそうに俺に手渡した初めて脱ぎたてのパンツはこれだけなんだ。他のパンツがいくらあってもこれと同じ価値にはならない。これは俺と姫様の大事な思い出(のパンツ)なんだ!」
「タスキ…様っ!」
「(下着共鳴が発動しない。やっぱり綺麗に形を保ってなきゃなのか)」
タスキは逆の手で握っていたレミリアのパンツを握り締めようとするが、同じように切り裂かれる。
「…っ」
「これで君はお手上げだよね〜。さ、投降してもらおうか」
「しねぇよ、そんな事!」
タスキは自分の前に氷の壁を作り出し、ヒメリアの手を取りそのままウルフに背を向け距離を取り始める。
走りながらも立て続けに氷の壁を生成する事で足止めをはかっているのだ。
「タスキ様! 一体どうやって…」
「アントを倒しに行った時にもらったレミリアのパンツがまだポケットにあったんだ!」
「そうなんですか! それではこのまま外へ一時撤退するのですね!」
「いいや逃げない。むしろこの城の中で床から天井まで壁を作り続けて逃げた方がよっぽど安全だろう。このまま最上階まで走り抜ける!」
そう言うと、タスキはヒメリアの手を離し突然振り返る。
「先に行っててください! すぐ追いつきますから!」
「な、何か考えがあるのですね!」
静かにタスキは頷き、それを確認したヒメリアは階段を駆け上がっていく、その直後にタスキの前の氷が砕かれウルフが姿を現す。
「ええ?」
「はずれだ、スタートに戻れよクソ野郎!」
氷で作り上げた拳をウルフに直撃させ、廊下の奥へと押し返す。
そして再び砕かれた場所に氷の壁を生成し、タスキもヒメリアの後を追う。
「タスキ様、今の音は」
「あいつが追いついてる気配がしたから追い返したんですよ! とりあえずこれである程度時間稼ぎにはなるはず」
「タスキ様…」
×××
タスキとヒメリアは城の最上階へと辿り着くが、そこはまるで教会のような光景だった。
綺麗に整えられた身廊、並んでいる椅子もとても綺麗に手入れされておりホコリや蜘蛛の巣が被っていたりしない。
祭壇の奥には大きな十字架が建てられている。その十字架の奥には綺麗で大きなステンドガラスがある。
天井は花柄の中央を一段高くし空間を広々と見せる構造の所謂、折上天井というタイプのものだった。
「ここがあいつの城の最上階? 随分と神聖なもんだな」
「本当ですね。こんな場所を好む人が魔王の眷属なんて信じられません」
「そうだろう? 僕のお気に入りの場所は気に入ってもらえたかな」
「なんだよ、あんまり足止めの効果はなかったか?」
「そうだね〜。もう少し厚い壁だったら大変だったけどねぇ」
「そうかよ。ご生憎様、まだ魔法は上手く使えなくてな」
タスキは何かを感じ取るとすぐさま図太い氷の柱を作り出し、ヒメリアを抱えすぐさま身廊の端へと飛び込む。
それと同時に作り出された氷の柱が大きな音を立てながら砕け散るのを見てヒメリアは驚き、タスキは予想通りという風だった。
「そうだよな。お前は風を操ってるだろう。能力か? 魔法か?」
「どっちも、だね。僕は風魔法使いだけど能力でその威力や速さを強化するんだよ。だけど、魔力の消費は本来より抑えられる。いい能力だろ? 君の能力は…」
「脱ぎたてパンツを握る事だ」
「…え?」
「脱ぎたてパンツを握る事だ」
元から少し間の抜けた顔ではあったが、それが更に酷くなるほどタスキの能力は異端なのだ。
何より真顔で脱ぎたてパンツを握る事を能力と豪語する姿は誰が見ても頭がおかしいと思うのが自然だろう。
「そ、そうかい。変わった能力だね」
「そうか? とりあえず、これでお前とまともに戦える。さっさと決着にしようぜ」
「随分と勝ち気だね。それでも僕には勝てないよ。君じゃぁね」
「トラップの準備は出来てんだよ!」
その言葉を合図にウルフの下から魔法陣が現れ、先程の柱よりは細いが先の鋭い無数の氷が天井まで届くほどの長さでたくさん伸びる。
それを全てウルフは素早く躱すが、その回避した先に氷の拳が現れる。
「こっちが本命だよ!」
それがウルフへと直撃し、ウルフは壁へと強く叩きつけられる。
防戦一方だったタスキのこれが最初の一撃である。
「風魔法、疾風の槍。強化。強化風魔法、疾風の巨槍」
タスキは咄嗟の判断でそれを回避しようとするが脇腹を掠る。
それとほぼ同時にタスキの後ろの壁にはまるで大砲が撃たれた後のような大きな穴が出来ていた。
「なんだよあれ…。速さも威力も次元違いすぎないか」
「あれが…魔法の強化…」
「ふぅ。君があまりに抵抗するからおじさん少し本気出しちゃったよ…。それで? まだ、続けるかい?」
その時のウルフはもはや出会った時の冴えないおっさんというにはあまりにも強大過ぎた。