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第1話 下着泥棒の英雄再生

「君! もう諦めるんだ!」


社会的にも物理的にも崖っぷちに立たされているサラサラの茶髪が風になびく美少年が俺。

どうしてこんな事になっているかというと数時間前に遡る……。


×××


俺、万都 大鋤(ハンツ タスキ)はロシア人の父と日本人の母から生まれたハーフで、天然パーマが上手く決まったサラサラの茶髪に緑色の瞳。

さらにスポーツ万能で身長が高い。同級生の女子からは絶大な支持を得ている。

しかし、そんな俺だって完璧じゃない。勉強は並程度、それはまだマシだろう。一番の欠点といえば……。


────女性のパンツを盗んで嗅ぐのがたまらなく好きな狂人という所だろう。


最初は干してある物や更衣室から盗む程度だった。

だがそれが次第にエスカレートしていき、俺は気が付けば学年一のスポーツ女子からパンツを、それも真正面から盗もうとしていた。

パンツを盗むまでは上手くいった。

しかし、興奮の余りその場で嗅いでしまった時点で俺は社会的に終わってしまったんだろう。

今までの評価、信用が総崩れし即座に通報された俺は逃げている内に現在、つまりこの崖っぷちに立たされている。

左ポケットにはスポーツ女子から剥ぎ取った脱ぎたてでまだ生暖かいパンツが入っている。

それをぎゅっと握りしめ、俺はまだ死ねないと強く思う。


「まだ未知のパンツが世界にはたくさんあるはずなんだ。それを盗んで嗅ぐまでは死んでたまるか」


俺は強い意志を貫くためにポケットのパンツを取り出し臭いを鼻で大きく息を吸うように嗅ぐ。

そこからは女子特有の臭いだけではなく、スポーツ女子ならではの汗の染みたしょっぱい臭いも少しする。


「よし。 もうひと頑張りしますかね」


俺は取り出したパンツをポケットへ戻そうとしたが上手く入っておらず、突然吹いた強い風によりパンツは崖の下へと飛んで行ってしまう。


「(手放して……たまるか!)」


そんな考えが頭に浮かぶより早く俺は飛んでいた。当然落ちたら死ぬだろう。

ただ、その時の俺にとってはそんな事はどうでもよかった。

必死の思いで剥ぎ取ったパンツを手放してしまうくらいなら死んだって構わない。パンツを盗んできた人生。


「(死ぬ時だって、パンツと一緒だ!)」


両手で優しくパンツを包み込み抱きしめるようにする。自分が頭から落ちているのに気が付くなり頭すらも丸め、パンツに傷一つつけない体勢を取る彼のパンツへの熱意は尋常なものではない。


「パンツと死ねるなら本望だよぉぉぉぉお!」


ゴツッ。


×××


「う……うぅ。俺、崖から落ちて頭打った気がすんだけど」


「うん、それで微塵も間違いないね」


女子高生のようなピンク髪の女子が椅子に体育座りの体勢で足の爪にマニキュアか何かを塗っているようだった。大鋤は正直全く好みじゃない、と思いながらも

短いスカートから顔を覗かせていたパンツを凝視する。


「今君が考えてるのは、あのパンツどう盗むか、でしょ?」


「ああ。そうだ。だから盗ませてくれ」


「……君がいい性格してるのはわかったけど、こんなのが英雄に選ばれたってのは微塵も理解出来ないかも」


「え?英雄?俺は下着泥棒なんだが」


「うん、自覚あるんだね。本当に微塵も英雄らしさのない人だね君は。」


彼女は大鋤が理解できない事を次々と口にしながら、1度は驚いて手を止めていた足の爪への行為の続きをする。

大鋤は何かを思い出すように自分のポケットから体中を探り、挙句の果てにはズボンやパンツの中すら覗き見始める。

そして、大声をあげた。


「なあぁぁぁぁい!」


「っ?な、何がよ。いきなりビックリさせないでよ。……本当に君がいると微塵も集中出来ないよ。」


「パンツがないんだ!必死に剥ぎ取り、必死に守った、あの子のパンツが!」


「もっとこう、感動的な事言えないわけ。」


彼女は一旦作業をやめ、頭を抱えながらため息を吐いた後に椅子から降りる。

そして、大鋤の前に立ち見下すようにして続ける。


「当たり前でしょ?君は今魂だけの存在なんだよ。服を着てるのは私が君の裸なんて微塵も見たくないから。パンツなんて微塵も必要ないものまで取り入れるわけないじゃん。」


「パンツが……必要ない……?」


「そうよ。自分で履いてるもの以外のな……んて?」


突然と大鋤の体から溢れ出るオーラのようなものに彼女は唖然とした。


「(この力……魔王クラス、いや神にも匹敵するんじゃ)」


「訂正しろ……。」


「は?」


「パンツの存在を否定したことを訂正しろ!」


「ま、待って! 謝るわ! ごめんなさい、そうねパンツは必要よね。(このままじゃ私の貞操が!)」


大鋤から溢れ出ていたオーラが徐々に消えていく。


「そうだよな。わかってくれればいいんだ」


パンツを不要と言われただけで魔王、神にも匹敵しかねない力を発揮する大鋤に少しばかり恐怖心を抱きながら彼女は話の続きを始めた。


「それでね、君には君がいた世界とは別の世界。そこに迫る危機を救ってほしいの。」


「嫌だよ。俺はパンツを盗んで生きていきたいんだ」


「どうしたらそんなに微塵も慈悲のない人間になれるのか聞きたいんだけど……。はあ。その世界にはケモ耳女子とかもいるんだけどなぁ。」


「パンツは履いているのか?」


「当たり前でしょ」


そう返されると、いきなり立ち上がる、右の袖をまくり肩をほぐし出す。


「了解した。パンツ盗むついでにちょっくら、異世界救ってくるわ」


「(うわ、なんてちょろい奴)」


何も躊躇せずに扉の前に立ってから少し疑問が浮かんだのか、振り返り少女に尋ねる。


「俺の異能力ってなんだ?どうせあるんだろ、お決まりだし」


「ま、まあね。あなたの能力はパンツを盗んだ相手と同じ属性の魔力が使えるよ。ただ相性でその強さは変わるからくれぐれもがっつかないように」


「それは心配ないな、俺は初対面のレディーには紳士だ」


「(なんで私には微塵も紳士じゃないのかしら)」


扉の光へと大鋤が飲み込まれてから思い出したように彼女は最後に言い放つ。


「あと君のステータスはかなり高いのと、感情でかなり変わるからねー! って微塵も聞こえてないよね」


×××


「────っ! ここが、異世界。」


街並みこそ大鋤のいた世界とは少し違えどあまり変わり映えはしない。

ふと、路地裏に気が付き近づく。


「おい、あんたもしかして王女だろ〜? こんな所で何してんだ〜?」


「俺らといい事しようぜ〜」


「や、やめてください!」


ナイフによって切られた長いスカートから見えた純白のパンツに反応する大鋤。

そして、今にもパンツへと刺さりそうなナイフに気が付きストレッチをしながら歩き出す。




「よし、いっちょパンツ(ヒト)助けと行きますか」


これが万都 大鋤の異世界ファンタジーのスタート地点。

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