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今にも落ちてきそうな月の下で  作者: 秋辺野扉
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エピソード8

自動ドアが開き、昔は聞き馴染んだチャイムが鳴る。


しかしスピーカーが壊れてるのか、どこか調子が外れたメロディだ。


「…………」


隣から小さくだけど、メロディに合わせた鼻歌が聞こえる。


少しは元気が出てきたのかな? それとも僕に気を遣ってくれたのか。


それくらいの余裕は出て来てくれたのはよかった。


「それじゃあ探してこうか」


「今日は一緒に探そ」


「わかった」


と短く会話を交わす。


僕と望はこういう時、二つのパターンに別れる。


二人で一緒に探すか、二人で別々に探すか。


別々だと、どっちが多く探せたか、いいものを探せたか。


そんな勝負になったりする。


だけど、二人一緒に探す場合は、望がそれを求めてる時が多い。


つまり、一緒にいたい時。


やっぱりまだ落ち込んでるみたいだった。


それがわかってるから。


僕は何も言わずに隣にいて、探した。






「で、見つけたものは」


「シーフードラーメンと」


「デカ盛りヤキソバ」


「あとは新品のタオルに」


「エナジードリンクが二本、と」


「すっごい、たいりょー」


「運が良かったね」


「日頃の行い、って訳じゃないけどね」


と力なさそうにだけど笑う望。


日頃の行いはともかく、運が良かったのは事実だ。


いつもは探してもジュース一本とか、賞味期限がかなり昔に切れたパンだとか。


酷い時にはドッグフードとかもなくなってる時あるし。


「全部で800円くらい?」


「かな?」


どちらともなく、二人同時にサイフを取り出し、小銭をレジへと置いた。


これは相談して決めた訳ではなく、僕と望の二人が自然にしてきた行為だった。


別にお金を払わずに持って行っても咎める人はいない。


資本主義、お金を使って売買するというシステムが崩壊してるからだ。


これから地球が滅亡するって言うのにお金なんてあっても意味なんてない。


まぁ、世の中にはそれでも後生大事に溜め込んでる人もいるけど。


とにかく、今の時代じゃあお金なんて持つ意味も使う必要もなくて。


勝手に持って行っちゃうのが普通かもしれなくて。


こんなのただの自己満足にしかならなくて。


「じゃ、行こうか」


「うん」


僕と望はそういう自己満足を大事にしていた。


人から見たら、ただのちっぽけな自尊心だと言われるかもしれないけど。


だからこそ、なのかもしれない。


地球の滅亡っていう確定事項に対して、ささやかな意地を通そうとしてるのかもしれない。


なんて言うのは、格好つけた後付けだ。


ほんとは僕も望も。


勝手に品物を持って帰るなんて出来ない、ただの小心者なだけだった。


「おやおや」


「今時珍しい子達だねぇ」


静かな足音と声と共に二人の老夫婦が現れた。


「あ、こんばんわ」


「こんばんわぁ」


「君達、よく出来た子だねぇ」


「今のご時世、勝手に持って行っても構わないっていうのに」


「まぁ、構わない事はないでしょうけど」


「それでも。むしろだからこそ、ちゃんと金を払う」


「こういう世の中ほど、その気持ちを忘れちゃいかん」


「今は酷いですからねぇ。泥棒に強盗に。真面目な人の方が少なくて」


「そんな中、感謝の気持ちを忘れないのは大事です」


「人が人であるために、な」


「はい、僕達もそう思います」


実はそんな深い事は考えてないんだけど。


とは言えず、素直に頷く。


「そっちのお嬢ちゃんは君の彼女か?」


「え? あ、あの……かか、彼女……っ?」


「いえ、違います」


恥かしそうに、嬉しそうに。


慌てふためく彼女を見る事なく否定する。


そう断言しておく。それだけはしておく。


僕と彼女の関係を聞かれれば答えに困るけど。


それだけは絶対に違うと言い切れる。


「僕と彼女は友達です」


彼女が月ではないように。


僕と望は恋人同士じゃない。


僕と望は恋人同士なんて有りえない。


地球に月が落ちる事はあっても。


それは絶対にない。


「そうか。ま、それも今の内は、と言った感じかの」


と言ってからかうように笑う。


この老人、さっきは深い事を言ったような感じだけど。


意外とこっちの方が素なのかもしれない。


対する僕は、


「…………」


そう無言で返す。つまり、無視した。


「そ、そんな……私と大地君が彼女なんて……そんな……」


「……もちろん、これからそうなる予定だけど。確定だけど」


「でも……他の人から言われると、照れるっていうか…………んひ♪」


なんて気持ちが悪い笑い声を出してる望も無視して。


「ふふふ。お嬢さんもがんばんなさいねー」


「仏頂面ですましてるけど、あれは満更でもない顔よ」


「え? お祖母ちゃんもそう思います?」


「わかるわかる。何年生きたと思ってるの。あの顔はムッツリの顔だね」


「そうなんですよ。大地君ったらずーーーーーっと私の事見てたくせに」


「それなのにぞっこんだって認めないんです」


「まぁ、そうなのかい? でも男はそういうのがイケてるって思ってるから」


「お祖母ちゃんもまだまだ若いですね。イケてるなんて言っちゃって」


「でもわかってますから、私」


「大地君ってすっごく優しいんです」


「気取らない優しさっていうか、自然な気遣いっていうか」


「ははは。すでに尻に敷いてるようじゃな」


「それでいいそれでいい。女房は黙って旦那を尻に敷くのが夫婦円満の秘訣じゃ」


「…………」


僕を置いて望と老夫婦は盛り上がっている。


望はその容姿と人懐っこい口調と性格からか、人受けが良かった。


「お嬢ちゃん達には良い事あるよ」


「お天道様が、今ではお月様もかい」


「その二つが見守ってくださるんだ。良い事したら、いつかそれが自分に返ってくるよ」


「あ、あはは……そうですかね?」


「…………」


望はそうやって乾いた笑いしか出来ず。


僕も無言のままだった。


「私とこの人はず~~~~っと、真面目に生きてきたんだ」


「だから、今こうやって生きてられるんだよ」


「命があるでけ良しとしなけりゃなぁ」


「………………」


そんなはず、ある訳がなかった。


良い事をしたら、良い事があるなんて。


真面目に生きていれば。


命があるだけで良いなんて、ある訳がなかった。


だったら、何で……。


「っ…………」


歯を一度噛みしめて、緩める。


違う。


僕は僕を否定する。


少なくとも彼らが言った中で、正しい言葉があった。


『お天道様とお月様が見てる』


『良い事をしたら、いつかそれが返って来る』


それは、逆を返せば。


『悪い事をしたら、いつかそれが返って来る』


そういう事だから。


つまり……。


「これ、見つけたものでよかったらどうぞ」


「いいよいいよ、お嬢ちゃん達で食べな」


「わしらは老い先短いからな。月が落ちて来る前に寿命でおっ死んじまうかもしれんし」


「私達は蓄えがありますから。こういう時にもったいない病があってよかったです」


「そう、ですか」


「それに、わしらは年寄にはそんな油っこいもんは食べれそうにないからのぉ」


その一言で大きな笑い声が起きる。


「…………」


僕もとりあえず、口元だけ笑っておいた。

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