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今にも落ちてきそうな月の下で  作者: 秋辺野扉
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エピソード2

「ん?」


疑問符を出しながらレンズの倍率を調節する。


きっかけは何だろう。


月は昔からより魔力を持ってると言うし、興味を持つのは当たり前とも言える。


もしくはねだったわけでもないのに父親が何故か望遠鏡を買って来てくれて。


使わないのも申し訳ないと思ったからのような気もする。


とにかく僕の趣味とも習慣とも言えるのは寝る前に月を観測ならぬ観察する事だった。


「ん??」


もう一度疑問符。


その習慣に何か違和感を生じる。


例えば、いつも何気なく歩いてる通学路の途中。


見かける花の色がいつの間にか赤から黄色に変わってるだとか。


自分の知らない傷が家具についてて、ある日それに気づくとか。


普段は気にしてない、視界にただ入れるだけの情報なのに。


ふとした瞬間に気づく。その変化に。


何だ? 何が違うんだ?


そうは言っても、僕だって毎日意識して見てるわけじゃない。


何となく。ただそう思ったからでしかなくて。


自分のフィルターが何も通さなかったのかもわからないけど。


昨日とは絶対何かが違ってて……。


もう一度、レンズを調節して。気づく、思い当たる。


「昨日より大きくなってる?」


言葉通り、今日の月は昨日よりも大きく見えた。


実際に大きさを計ったわけではないけど。


ただ何とくなくそんな事に気づき。


ただ何とくなくそんな事を思った。


そして途端に拍子抜けする。そんな事かと。


思い当たって、思い上がった。


ただ月が地球に近づいてるだけじゃないか。


遠ざかる事もあるんだから、近づく事だってあるだろう。


違和感の正体もわかったし、これでぐっすり眠れそうだ。


なんて考えながら僕はベッドに入ったわけだけど。


ただそれが思い上がりでもなく、とてつもなく重い現象に繋がるとは。


むしろ僕の方が思い当たらなかった。

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