エピソード13
何故逃げ出したのか、自分でもわからない。
彼女が正気だったから?
彼女が僕を恨んでたから?
僕の気持ちを利用されたから?
彼女への罪悪感なんて意味なかったから?
自分の気持ちを見透かされていたから?
わからない。わからない。わからない。
ただそこにいたくなかった。
だから。
僕は、逃げた。
ドアを開ける。階段を降りる。
転ぶ。這う。立ち上がる。走る。転ぶ。立ち上がる。走る。転ぶ。這う。転ぶ。立ち上がる。転ぶ。這う。這う。這う。立ち上がる。転ぶ。走る。転ぶ。這う。逃げる。
ビルを抜ける。
ビルを抜けて。
外に出た。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
夜が僕を見つめてくる。
月が僕を見つめてくる。
大きな月の瞳で僕を見つめてくる。
呼んでる。僕を。
僕の心と身体を。
手招きしてる。
優しく手繰られる。
一歩踏み出す。
その白へと。
「ねぇ。大地君」
瞬間。
彼女と出会った。
月を背にした彼女と。
重力に従い、地上へ落ちてきた彼女と出会った。
「私の事、ずっと覚えててね」
「絶対」
「死ぬまで」
「死んでも」
「忘れないでね」
「じゃないと」
「許さないよ」
普通に考えれば絶対聞こえないその言葉を、僕は聞いた。
それは多分、彼女の声はよく通るものだったからだろう。
「………………」
爛々と、朗々と、煌々と輝く。
大きく、巨きく。
美しくも恐ろしい。
けれど美しい。
今にもぶつかりそうな。
空の窓を突き破ってきそうな。
「月が落ちてきた」
彼女の頭から流れる、血だまりに浮かぶ月を見ながら。
僕はそう呟いた。




