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村娘は騎士になりたい  作者: ほろ苦
1/3

その一

読んで頂きありがとうございます!

「頼む!!一生の頼みだ!!どうしてもサナの元に行きたいんだ!」


 兄が両手を合わせて深々と頭を下げて頼み事をしている。

 私は目を細め顔を引き攣らせていた…


 私の暮らしている村は小さな村である。

 主に農業をして、隣街の王都に売りに行き生計を立てている家ばかりのド田舎だ。

 村は結界で守られているが、外は魔物がたまに出没するので村の若い男たちは戦士や護衛の仕事をして者も多い。

 私の4歳年上の兄ラインもその一人だ。

 兄は私より少し背が高く細身で決してマッチョな武闘派ではない。

 私が幼い頃両親が他界して、親せきのおじさんの家に引き取られ兄は親せきのおじさんの子だ。

 優しくて面倒見が良くて、私の自慢の兄

 そんな兄がこれほど真剣に頼み事をしてきたのは初めてだった。


「明日の騎士試験、俺の代わりに参加してくれ!頼む!サナとサナの両親に話がつけばすぐに行くから!」


 サナとは兄の恋人で騎士試験がある王都とは正反対の方向にある街に住んでいる。

 聞けば、そのサナの親がサナにお見合いをさせようとしているらしく、それが明日、騎士試験の当日だった。

 それなら、騎士試験パスすればいいじゃない?と思うがそうはいかない。

 この試験は義務化されており、貿易護衛免許試験でもある。

 コレをすっぽかすと兄は無職になってしまう。

 そんな無職の兄にサナを嫁がせる親はいないだろう…

 じゃーサナを諦めれば?

 なんて私には言えなかった…もう付き合って5年、サナも草食系の兄に痺れを切らしていたのだろう。

 だから、お見合いの話を受けたのだと私は悟った。


「兄ちゃん…私が兄ちゃんに変装して行くとして大丈夫なの?」

「ああ、予定ではその日は筆記試験のみだし、正直点数なんであってないものだ。実質次の日の実技だけで免許がもらえるようなものだから黙って座って適当にテストを受けていてくれればいい。」


 兄は真剣な眼差して私に説明した。

 私はしぶしぶ兄の幸せ?のため、一肌脱ぐ事に決めたのだ。


 私ことレオン22歳独身は小さい頃両親を亡くし、ここロロ村の親せきのおじさんの所に引き取られた。

 親せきのおじさんはひとり息子ラインと二人暮らしをしており、奥さんは他界していた。

 おじさんは農業で生計を立てていて生活は決して裕福ではなかったが、息子の長男ラインが16歳で貿易護衛免許を取得して、私も大きくなりおじさんの農業を手伝って今ではそれなりに幸せな毎日を過ごさせてもらっている。

 私には今まで育ててもらった恩がある。

 兄の騎士試験日の当日、おじさんに内緒で兄と出かけ、私は兄の服装とフード付きマントと双剣を受け取った。


「かならず明日までにはそっちに行く。レオン、頼む」

「一日ぐらい、兄ちゃんになりきってみせるわよ。兄ちゃんこそ、しっかりね!」

「ああ」


 そういうと兄は騎士試験がある王都とは全く別の方向の村を目指して駆けて行った。

 私はそんな兄の健闘を祈りつつ見送り、少し森に入り兄の戦士装備風の服装に着替える。

 大体予想していたがやはり少し大きい。

 まぁ所々簡単に補正すれば、なんとか違和感がない程度になった。

 セミロングのブラウンの髪を一つに束ね、今まで持ったことがない双剣を腰に携えフード付きマントを羽織って王都を目指した。


 王都までの道のりはよく整備されており距離もさほど遠くない。

 所々、国が護衛騎士を配置してくれているので魔物に襲われる事無く、なんの問題なくたどり着いた。

 王都内は私が暮らしている田舎村とは違い人が多くガヤガヤとにぎわい活気づいている。

 色々お店など見て回りたいがぐっと我慢する。

 王都で行われる騎士試験は二日間に渡って行われるので、私はとりあえず兄に教えてもらった宿舎を訪ねた。

 兄の説明通りの場所にたどり着くと古ぼけた今にも壊れそうな建物で私は恐る恐るドアをノックする、

 すると髪の毛ボサボサ髭ボサボサの怪しいオジサンがヌぅっと顔を出した。


「あ、あの、ロロ村から騎士試験を受けに来たラインです」


 女の声だとバレたくない私は少し低く小さな声でフードを深くかぶり話しかけるとボサボサオジサンは小さく頷き中に入れという仕草をした。

 私は恐る恐る中に入ると、今にも壊れそうな建物の中は想像を裏切らず薄暗く埃と蜘蛛の巣となんだかわからないものが転がっており、空気が悪い。

 私は何処を歩けばいいのか戸惑っているとボサボサオジサンが宿屋風のカウンターの奥に回りこみ私に話しかけた。


「ここに名前」


 そういうと宿帳的なものを広げてペンを転がす。

 私はいそいそとカウンターに向かい名前を記入するとボサボサオジサンが鍵を転がした。


「好きに使え」


 そういうとカウンターを出て奥の部屋に消えて行く。

 騎士試験は国の義務なので宿代などを免除してもらえるらしいが、その宿を選ぶ事はごく一部の権力がある者しか出来ない。

 私はこの何とも言えない宿に今日一晩泊まるしかないので、諦めて鍵を手に取り部屋番を確認する。

 どうやら部屋は二階にあるらしいので、色々な障害物をよけて204の部屋に何とかたどり着き鍵をあけて部屋に入った。

 その瞬間、埃煙が舞い上がり私は顔を歪め一直線に窓に向かい今にも壊れそうな窓を全開にあける。

 ありえない…人が寝泊りできる所ではない…

 窓の外に顔を出し深いため息のような呼吸をして部屋を見回す。

 一回のロビーのように床に不思議なものは転がってないが全体的に真っ白…埃だ。

 掃除道具か何かないかと少し探してみたが、部屋には置いてなさそうなのでとりあえず布団だけ干して騎士試験会場に向かう事にした。


 古びた宿から騎士試験会場は中々遠く、慣れない都会?に迷子になりながらもなんとか会場に着くことが出来た。

 兄の様な末端の戦士は本気で騎士になろうとしてなく、ただの貿易護衛免許目当て組Dランクの試験を受ける事になる。

 周りを見ると屈強の戦士にいかにも貴族っといった偉そうな騎士見習いまで様々だ。

 この日行われる試験はAからDランクまで様々だったらしい。

 あまりキョロキョロ周りを見ていては怪しまれると思い私はそそくさとDランクのテストがある部屋に潜り込んだ。

 部屋に入ると受付があり、名前だけで受験番号をもらうと75番と書いてあったので指定の席に座る。

 周りは決して品のいい者だけでなく、若者からお年寄りまで様々だった。

 その中に数名女性もいたので少し驚いた。

 テスト用紙が配られテストが始まると部屋は静まり返りカタカタペンを動かす音が響く。

 私は問題を読んでチンプンカンプンな言葉に首をひねりマークするを何度か繰り返しているとガラガラと扉を開ける音がした。

 遅刻して来た人がいるのかな?と横目で覗くと明らかに只者ではないオーラ全開の騎士が部屋に入り周りを観察している。

 少し目にかかるぐらいの明るいブロンズ色の前髪の隙間から鋭い眼光で試験を受けている者を観察している騎士は身なりからしてかなり位が高い騎士なのだろうと素人の私でも分かった。

 視線が自分に近づく予感がして急いで答案用紙に視線を移し問題を解くフリをする。

 こちらを見ているのか見ていないのかわからないが深くフードを被っている私に視線が突き刺さっている気がするが気のせいだろうか…

 騎士の足音で動き出した事がわかり、だんだんと自分の傍まで近づいて来たことに私は自意識過剰になって焦ってしまった。

 わ、私に用はないはず…落ち着け自分!

 私の位置に近い通路で足を止めた騎士を意識しつつ手に汗をかきながら問題を解いていた。

 そんな蛇に睨まれた蛙状態が一時続き、騎士が移動して受付に何か耳打ちをして部屋を出て行く。

 なにもやましい事はしてない(こともないが…)

 テストの時間が終わり、答案用紙を回収され、さてあのボロ宿に帰るかと思ったが受付の人から呼び止められた。

 嫌な予感が…


「すみません。75番さん、ちょっといいですか?」

「…はぃ…」


 カンニングとかしてないからね!

 悪い事してないからね!

 身代わり受験はしてるけど…

 しぶしぶと受付の人の元に向かうと小さな紙を手渡された。


「貴方には、この後適正検査を受けてもらいます。ここの会場に行って下さい」

「…適正検査??」

「はい。本来最初の試験で受けているものですが、稀に能力の急激な変化がある場合があります。それを再度確認するものです。先ほどS級騎士様が視察された際、気になる点があったようで。」


 マズい!きっと、さっきの騎士は私がただの村娘だとわかってしまったのだろう。

 きっと余りの力のなさに再検査的なモノを要求したのだとすると…

 このままでは兄が無職に!!


「ちょ、ちょっと待って下さい!その、それは…明日ではダメでしょうか?」

「明日ですか?」

「はい!今日はどうしても都合が悪くて…お願いします!!」

「そうですか…では明日、かならず受診して下さい。かならずですよ」


 そう念を押され私は大きく何度も頷いた。

 よ、よかった…兄のプータロウはなんとか免れた…

 明日なら兄が来るはずだから問題ないと、私は冷汗を拭いながら試験会場をあとにした。

 試験を受け終わった人ごみをすり抜けあのボロ宿に帰ろうとしていると少し離れた所で争い事が起こっていた。

 私は関わるまいと遠目に見るとギャラリーの奥にいかにもガラが悪そうなマッチョ系戦士と華奢な騎士見習いが睨みあっている。

 周りがヤジを飛ばして煽っているせいもあってマッチョ騎士が気の弱そうな騎士見習いにケチを付けているように見えた。


「あ?いい気なもんだよな―おぼっちゃまは!そんな綺麗な格好して、なんの苦労もなくここにいるんだろうからなぁ!!」

「…」


 騎士見習いは何も言わずタダそのマッチョ戦士をビクビクして睨んでいる。

 騒ぎを聞きつけた警備騎士達がちらほらと集まって来るがあまりのギャラリーの多さに近づけないでいた。

 私は大変だなぁーと傍観者としてその場から離れようとすると一瞬明るい光が辺りを包み込みバリゥっと耳に突き刺す音が鳴り響く。

 私の直ぐ横に立っていた木が真っ二つに割れてバチバチと放電しながらゆっくりと倒れた。

 なにが起こったのか解らず呆然と立ちその木を見て青ざめる。

 こんなん当たってたら死にますよ…

 周りの静まり返り、その間に警備騎士が騒ぎが起こっている元へ駆け寄り間に入り事は争い?は終わった。


「…おい、お前」


 ふと我にかえり、呆然と立ちすくんでいた私に話しかけた人物に目をやるとグレイの長い髪を一つに束ねた青年が不機嫌な表情を浮かべて私を見ていた。

 その容姿はラフな格好なので騎士ではなさそうだが、胸元に不思議な紋章が3っ付いている。


「…大丈夫か」

「え、あ、大丈夫です。ただビックリして…」


 私と背が同じぐらいの青年はぐっと私との距離を詰めてフードの中の顔を覗き込む。

 私は女だとバレるのを恐れて視線を逸らし身を少し引くと青年は少し考え「ふーん」という顔をした。


「そっか…ならいい」


 そういうとポケットに両手を突っ込んで去って行った。

 なんだったんだろう…?

 とりあえず、今日一日が終われば私は任務完了だ。

 そう思いいそいそとボロ宿に戻り干していた布団を丁寧に埃をはたいて取り込み1階ロビーに転がっていた雑巾になりそうな布を一枚拝借して自分が一晩寝る部屋の掃除をせっせと始めた。


 チュンチュン


 小鳥が朝を知らせる鳴き声で私は目が覚めた。

 見慣れない天井の模様にあのボロ宿に泊まったことをふと思い出す。

 頭がボーとするが起きて現在の時間を確認しなくてはと時計を見るとまだ早朝だった。

 顔を洗い服を着て私は腕を組み考える。

 おかしい…兄が来ていない…

 もしやサナの元に向かう途中魔物に襲われたとか…まさか…

 大抵の低級魔物は護衛騎士が排除してくれるがたまに上級魔物が現れる事がある。

 その時は国のS級騎士様たちが駆除に当たってくれるが極稀に市民がそれに巻き込まる。

 普通レベルの戦士なんてひとたまりもない…

 私は頭を振って嫌な妄想を消し去り朝食を食べに行くことにした。

 き、きっと色々遅れているだけよ!

 そう自分に言い聞かせて、都会の朝食を楽しもうと露天を見回りマッシュした卵が沢山入っているおいしそうなサンドと良い香りのコーヒーを買ってベンチに座って食べた。

 美味しいものを食べると幸せな気分になる。

 そんな幸せな時間を満喫してボロ宿に帰ると丁度兄が宿に入ろうとしている後ろ姿を発見して私は駆け寄る。


「兄ちゃん!遅い!!」

「レオン…」


 その表情はどんよりと暗く…これはもしや…


「…駄目だったの?」


 私の言葉に静かに頷く兄は情けなく肩を落とし俯いた。

 男と女…まぁ色々あるだろうから深くは聞かないが私は黙って兄の肩をポンポンと叩く


「さ!気持ちを切り替えて!あと一時間で実技試験なんでしょ?兄ちゃん着替えて!」


 兄の腕を引っ張って部屋に戻り、私の着ていた衣服を兄に着せて持ってきた自分の服に着替える。

 フラれたショックでヘロヘロになっている兄だが、この実技試験に合格しなければ職も失ってしまうので私は兄に喝を入れて試験に行くよう促した。


「兄ちゃん!無職になったらうちは大変なんだから!頼むよ!」

「…あぁ行ってくる」

「帰ってくるまで待ってるね」


 すっかり村娘の姿に戻った私は手を振ってボロ宿の玄関で兄を見送った。

 それから部屋に戻ろうと振り返るとボサボサオジサンが私を見て固まっている。

 私は気味が悪くなり避けるように遠回りして二階に上がろうとするとボサボサオジサンに引き止められた。


「お前…女だったのか」

「え!?」


 昨日の変装して筆記試験を受験したのが私だとバレてはいけないとなんとか誤魔化そうとした。


「な、なんの事です?わ、私は今朝ここに来たラインの妹ですか…」


 つじつまはあってる…と思う。

 ボサボサオジサンはぼりぼりと頭を掻き出してなにか考え出した。

 そして奥の部屋に戻ったかと思ったら、すぐに出てきて私の布の塊を投げた。

 私はなんだかよく解らないがそれを見事にキャッチして広げるとどう見ても男物の衣服である。

 たった今やっと落ち着く女物の服が着れたのに…どうしろと?

 へんな目でボサボサオジサンを見るとボサボサオジサンは真面目な顔をしていた。


「一時したら奴らが来る。それに着替えて男のフリをしてろ!うちの従業員として振る舞え、いいな?」

「え?なんで!?」

「…自由を奪われたくなければ言う通りにすることだ」


 理由がよくわからず、どうするべきか悩んだがボサボサオジサンがあまりに深刻そうに話していたのでとりあえず着替えて男のフリをすることにした。

 着替えて一時するとボサボサオジサンが予告したとおり、2人の騎士がやってきた。


「ガルガン殿!いらっしゃいますか!?」


 ひとりの騎士が大きな声でボサボサオジサンことガルガンさんを呼ぶ声が宿中響く。

 ガルガンさんはめんどくさそうに頭をボリボリかきながら騎士達の元に近づく。


「キラ様より、この宿にいる客を連れてくる様命じられました」

「どこに居ますか?」


 私はどうしてこんなことになったのかわからず、1階ロビー奥の炊事場の物陰からドキドキしながらその様子を伺っていた。


「あ?あの兄弟なら出て行ったぞ?帰ったんじゃねーか?」


 その言葉を聞いた瞬間、騎士達の表情はサーと青ざめていく。


「そんなはずは…ルギア二階を捜索しろ!私はキラ様に連絡を入れる」

「は!」


 焦っている二人の騎士の様子から私?を探す事はとても重要らしい。

 やはり、なりすましで騎士試験(筆記)を受けたことはそんなに重罪なのだろうか…

 私は自分が軽い気持ちで行った事を後悔した。

 バタバタと必死に私?を探している騎士たちに怯えていると一旦外に出ていた騎士が戻り一階を捜索し出した。

 私は逃げるべきかどうか悩んだがガルガンさんに言われた通り従業員のフリをふることにした。

 バンっ!と乱暴に調理場の扉が開き騎士と目が合う。


「…お前は?」

「え…あ、ココで働かせていただいている者ですが…」

「…」


 疑ってる…そりゃそうだろう。

 私はガルガンさんから借りた帽子を深くかぶって俯いていた。

 すると騎士の背後からガルガンさんの声がする。


「おい!アロー、今日の買い出しまだ行ってないのか!?全くお前はグズで使えねーなー!!」


 蔑むような目で罵声を飛ばすガルガンさんに私はビクリっ怯え、買い出しに行けと言われたので騎士に会釈をしてその場を去って外に出た。

 おそらくあれはガルガンさんが私を逃がす為の演技だろう。

 だって買い出しなんて頼まれてないし…何を買っていいかもわからない…

 私はこのまま騎士たちに捕まって牢屋にでも入れられるのだろうか…

 兄ちゃんどうなったのだろうか…

 村で待つおじさん…きっと悲しむだろうな…

 私は落ち込みながら街をフラフラと歩き、一時間ぐらい経っただろうか、諦めてボロ宿屋に戻ることにした。

 そろーと宿屋の扉を開くと騎士たちは帰っており、薄暗く汚れたロビーは静まり返っていた。


「あのーただいま戻りました…」


 私の声が小さく響くと奥の部屋からガルガンさんがぬぅっと姿を現す。


「…大丈夫だったか」

「すみません。なんだかご迷惑おかけして…あの…私自首した方がいいのでしょうか」

「…自首って…悪い事でもしたのか?」

「え?いあ、その…」


 俯ぎモゴモゴしている私を見てガルガンさんはぷっと噴き出した。


「お前は何も悪くない。そうだなー運は悪いかもな」

「え、あ…でも」

「兄の騎士試験で替え玉したぐらいじゃ騎士は動かない、こっちに来い」


 え?そのせいじゃなかったの!?

 ガルガンさんが奥の部屋に私を案内すると表の薄暗く汚れたロビーとは違いガルガンさんの部屋は予想外に整えられ壁中本で埋め尽くされていた。

 小さなソファとテーブル、デスクの上には何冊も分厚い本がページを開いたまま置かれ何かの研究資料みたいなものが乱雑に広がっている。

 ガルガンさんはソファに腰をかけるよう私に促し、コーヒーを入れ出した。

 私はゆっくりとソファに座りガルガンさんを観察する。

 背丈は兄より少し大きく、ボロボロの汚れた服を着ているが決して小太りとかそんな体系ではない、むしろ実は鍛えているのではないかと思わせるスタイルに思えた。


「お前、ロロ村から来たって言ってたよな?名前なんていうんだ?」

「レオンです」

「そうか、お前は自分がなぜ騎士に追われているのか解ってないという事は無自覚って事だな」


 無自覚?なんの事だろうと首を傾げる。

 ガルガンさんは淹れたてのコーヒーを二つ用意して一つは私の前に、もう一つは自分のデスクに置いてデスクチェアに腰を下ろした。

 ガルガンさんの部屋中にコーヒーのいい匂いが広がる。


「まず、お前は魔力保持者だ。全く自覚がないようだが」

「へ?」

「それもかなり希少種の魔力…だと思う」

「あのー何かの間違いでは?なんでそんなこと解るんですか?」

「ある程度のレベル以上の魔力をもつ者は相手がどれほどの魔力があるのか見えるんだよ。まぁ見えるというか感じるというか…薄ら色というかオーラというか…」


 それが私に見えると?

 S級の騎士様に見えると?ガルガンさんにも??

 私は生まれて一度も魔力があるなんて感じたことはない。

 平々凡々の村娘その1の自信だってある(なんの自信だろう…)

 やはり何かの間違いだと思いコーヒーを口に含むと鼻からいい香りが抜け美味しかった。


「俺はお前を見た瞬間また珍しいのが来たな、と思っていたが男なら騎士になるだけだ。なんの問題もない。だが、お前は女だ」

「…私が女ではダメですか?」

「いや、お前がどうこうじゃなくて、その魔力の持ち主が女なのに問題がある」


 いまいち意味が解らず目を細め考える…が、意味わからん。


「で?」


 ガルガンさんは解ってねーな頭悪いなコイツといった表情をして小さくため息をつく。


「ある程度の魔力レベルを持った者と希少種の魔力と掛け合わせた子孫は更なる優秀な魔力を保持して生まれる傾向がある。希少種の魔力を持った女は国に保護され、それなりの魔力者と番になる事を強いられるって事だ。保護といっても俺からしてみりゃあれは監禁だがな」

「…子孫…番!?」


 持っていたコーヒーカップを落としそうになった。

 背中にジワリと変な汗がでて血の気が下がる。

 私は…監禁されるのか…

 カタカタと小さく手が震えだしコーヒーが零れそうになった。


「…まぁ、保護の必要がない強者は例外だが…」


 そんな…私は何も出来ないただの村娘として今まで育ったので強い訳ない。

 絶望的な気分になっている私を見てガルガンさんは少し考え出した。


「可能性はない事はないな…」


 そう小さく呟くとガルガンさんは本棚から何か本を探し出す。

 あれでもない、これでもないと分厚い本を何冊か出しては床に投げ一冊の色あせた緑色の分厚い本をひろげブツブツと読みだした。

 私はその様子をキョトンとして眺めているとガルガンさんがニヤリと笑って私を見る。


「これなら使える。おいレオンちょっと手伝え」


 ガルガンさんは本棚の隅の置いてある置物を持って手前に倒す。

 するとデスクがズズズとずれて地下に降りる階段が現れた。

 ガルガンさんがその階段を降りて私にも来いと促す。

 私も下に何があるのか興味があるので少しワクワクしながらついて行った。

 ガルガンさんの部屋の隠し地下部屋は薄暗く色々な瓶や薬、魔法陣に水晶玉?のようなものが沢山おいてあり、私はガルガンさんは只者ではないと確信する。


「お前の魔力を隠す薬を作ってやる。あまり完成度が高くないので副作用がでる可能性があるがないよりマシだろう?」

「副作用って…どんな?」

「それはわからねーな。文献じゃはっきりと書いてない。あまり効果も長くないだろうが、この薬で魔力を隠し遠くに逃げるなりするといい」


 そういうとガルガンさんは薬を本を見ながら調合を始めた。

 私はその様子をぼんやり眺めながら考える。

 たぶん…兄は騎士たちに捕まっているだろう…

 もしかしたら、おじさんも騎士に捕まり…

 私が逃げることで一生牢屋暮らしとか…

 最悪だ…私のせいでそんなことになるなんて…

 顔色がどんどん悪くなり青ざめていく。


「おい、この針で指の先を刺して数滴血をよこせ」


 手際よく薬を調合しているガルガンさんが私に針と小さなビーカーを渡す。

 私は受け取り尖った針の先をジッと見て指先に刺したら痛そうなので躊躇った。

 その様子を横目で見ていたガルガンさんは小さくため息をついて私に近づき私の両手を両手で握り込む。


「一瞬ちくっとするだけだ。こんな事で怯えていたらこの先お前生きられないぞ」


 ゴツゴツとした大きな男の手の感触にたじろぎ、数十センチに近づいたガルガンさんの顔をまじかで見るとボサボサな髪と髭で隠れているが少し見える肌艶からもしかしたらオジサンといった歳ではないのかもしれないと感じた。

 そんな事を考えていると指先にチクリと小さな痛みがはしる。

 ガルガンさんは問答無用に私の手を操り指先に針を刺したのだ。

 刺された指先をぐっとつまみ真っ赤な血を2滴ビーカーに落とすとガルガンさんは私の指先を自分の口に近づけた。

 まさか…咥えて止血する気じゃ…

 私は顔を真っ赤にして力いっぱい手を引いてガルガンさんから離れ一歩下がった。

 ガルガンさんは一瞬固まったが、何もなかったようにビーカーを持って薬の調合に戻った。

 最後の仕上げに片手をかざし小さな呪文を唱えると調合された薬が仄かにひかり、緑色の液体が完成する。

 どうやら、これが魔力を隠す薬らしい。


「ほら」


 薬を小瓶に移し蓋をしてガルガンさんが私に差し出すとそれを受け取った。


「…効果はどの位ですか?」

「そうだなーもって2か月ってところかな」


 2か月…

 私はその小瓶を眺めながら、これからどうしようかと途方にくれていた。

 そんな私を見てガルガンさんは頭をボリボリかいて重たい口を開いた。


「…逃げる以外にもう一つ方法がある」

「え?」

「お前が魔力を使えるようになって、S級騎士になれば保護されることなく自由に生活が出来る」

「で、でも私魔力の使い方なんてわからないし…」

「俺が教えてやってもいい。ただし条件付きだ」


 私が魔力を使えるようになってS級騎士になるなんて想像出来なかったが、このまま兄やおじさんを残して逃げる事はしたくない。

 ガルガンさんの予想外の提案を私は受け入れて、S級騎士を目指す事にした。

 ガルガンさんの条件は二つ。

 一つは薬を飲んで魔力が隠せている間だけという期限。

 二つめは男装して宿の手伝い?を住み込みでする事

 魔力の使い方教えてやるから、ぼろ宿を綺麗にしろということらしい…

 私はこの日から毎日魔力の特訓とぼろ宿の清掃に励むことになった。



最後まで読んで頂きありがとうございます!この小説はテスト勉強中、行きずまり、やや現実逃避気味に書いた小説です^_^;そんなことする暇あったら勉強しろよーとか、思っちゃいますが書きたかったんだからしょうが無い!

一話目のボリュームが多いのもそのせいです(>_<)

最後まで、お付き合い頂ければ幸いです!


読んで頂き、ありがとうございます!

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