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第四話



ストーの家があるスラム街に行くと、ちょうど家からストーが出て来たところだった。

私に気付くと「あんたか!」と笑顔で駆け寄ってくる。


「おはよう、どうしたの?朝早いのね」


「ギルドで今から仕事なんだ、採取のな。

近くの山だから二日がかりになるけど報酬が良くて」


「あ、ライム鉱山?あそこたまに厄介なモンスター出るからバディ組んで行きなよ」


私の言葉に大人しく頷いて、ストーは去って行った。


「おはよう、今日はどう?」


家に入ると、奥さんが笑顔で「調子は良好よ」と微笑んだ。

洗濯物を畳んでいた奥さんは、私に答えると手を止める。

そして深く頭を下げた。


「ありがとう、シルベリアさんのおかげで私も旦那も本当に、救われたわ」


「気にしないで、って言ってもしちゃうのね」


「ええ、恩は死んでも忘れない」


力強い瞳に、私は笑いかけた。


「なら、何かで困った時相談に乗ってちょうだい?

私も色々困った問題を抱える事多いから」


「それくらいなら喜んで!」


「その時には美味しいお菓子を持って来るわ」


にっこりと微笑むと、奥さんは「そうね」と悲しそうに笑った。



今日は特別する事も無く平和だと思いつつ、ギルドに顔を出すべきか部屋でゆっくりするべきか迷っていた。


ギルドの酒場に行っても良いなと思い立ち、私はセントラルパークを北上する。


人々が今日も賑やかだと思いつつ、様々な出来事が頭を駆け抜ける。

私の中で燻る火種は、いつか自分の中で爆発しかねない。

復讐と言う炎を糧に生きている私は、いつか暴走しかねないのだ。

平和で居ようとすればする程に、私は規格外なのだと思い知る。

そんな勘違いと考え過ぎを忘れるには、エリオスに構ってもらうのが一番だと言う事を女は覚えていた。


「やっほー、メロディー。

ギルマス居……」


ギルドに入った正面のカウンター席で、真っ青な顔をしたエリオスが女の胸を揉んでいた。

そして瞬間私と目が合ったエリオスはハッとして自身の両手と私とを交互に見た。

ギルドのメンバー達ははらはらとその状況を見守る。

先に動いたのは女だった。


「やあだぁー、ギルマスってばあ」


濃い化粧でガチガチに固めた無理やり声を作った女は、私をちらっと見ると「恥ずかしいー」と身をよじった。


「なっ」


「…楽しそうね、エリオス」


私は自分が真顔になっているだろうと言う事がよくよく分かった上で言葉を発した。


「ギルマスってばあ、朝から欲求不満過ぎですよお」


「違うっ!違うぞシルベリア!」


「なにがどう違うってんです?その手が何よりの証拠でしょう?」


「そうですぅー」


ぷくっと頬を膨らませるが、あまり可愛く無い。

私はあまりよく分からないながらも、エリオスを取られたと思い女の方へと視線を向けた。


「ふえぇ、シルベリアさん…怖ぁい」


「何が怖いのよ、私はギルマスの見境いの無さに切れてるだけよ」


「目が怖いですう」


「どうしようも無いわね」


私が笑みを浮かべると、エリオスが動く。

隠れていた奥の右手はどうやらこちらの女に掴まれていたようだが、乱暴に解くと私の前にやって来た。


「シルベリア、誤解をするなよ」


「誤解?何かしら、昼間っから女の子の胸を鷲掴みしてたギルマスの何をどう誤解してるって?」


ぎろりと睨み上げると、ギルドのメンバー達がすくみあがる。

その後ろでは「やっぱり怖いですぅー」と女が目を潤ませている。


「シルベリア、俺はお前一筋だ」


その言葉にメンバーはどよめく。

一瞬絆されかけたが、私はため息を吐き出した。


たまに帰って来て素直に甘えられる人だと思っていたけれど、改めて考えてみればエリオスはギルドのマスターなんだ。

私だけじゃ無くて、みんなを守る立場の人だったと思い出した。

私はじっとエリオスを見詰めるとギルドを出た。

最後に女がエリオスの腕を掴むところを見たけれど、それ以上見る事も無く私はギルドを出た。


ちょうど扉を潜ろうとしたところで、聞いた事も無いエリオスの大声がギルドに響いた。


「待て!!!」


「っ!」


びっくりして足が止まった。

ギルドに居た全員が、エリオスに視線を向ける。


「ベス、今日1日ギルドを空ける。

適当に回しておけ」


「了解」


一歩、また一歩と私に近づくエリオスに、何か言いたいのに言えないまま距離を縮める。

そして我に帰ったのか、後ろから女が呼ばわるがエリオスは振り向きもしない。

そのまま私の手を取ると、エリオスはギルドの裏にある自分の家へと歩き出した。

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