第一話『村の一大危機にゃん!』のその⑤
第一話『村の一大危機にゃん!』のその⑤
「そして……、いよいよ本命の主役登場。自分のことを『ウチ』と呼ぶ化けネコのミアン、ってとこかしら。
一度は命を失ったものの、イオラの木に宿る村の守護神、精霊イオラ様のお力で復活を果たした妖体なの。とはいってもね。実体波を纏う為、見かけ上はほとんど普通のネコ姿よ。毛むくじゃらの身体の上側は茶色地に黒の縞模様。下側は白い毛がふさふさしている女の子。普通でないところといえば、そうね。幼児相応の顔なのに、身体がふっくらふわふわなところかしら。一緒に暮らしているミーナという親友からも、『もわんもわん』とのいわれようで、名前も『モワン』と覚えられてしまう体たらく。その上なんと、ベッド代わりにもされているという気の毒極まりない身の上なの」
(聞き慣れた声の解説にゃ。……にしてもずいぶんとまぁ手厳しい評価にゃん)
声のする右隣を振り向いてみたら、友にゃちがひとり、膝を抱えてのお座り姿勢。
「ミストにゃん。あんた、いつの間に」
「ふっ。驚いた? ……そしてついでに」
『こんなもんじゃ、まだまだ足りないわ』といわんばかりに、ミストにゃんの解説は次の標的へと移っていくのにゃ。
「これからここへ墜ちてくるのはね。『アタシと一緒に行こうわん!』の地獄への招待者。『あんな妖精がどうして存在するのかしら? 理不尽だわ』と憤慨したくなるくらい迷惑千万な妖精ミーナよ」
「あのにゃあ」
(ひどいいわれようにゃ。でもにゃあ。必ずしも間違いとはいえにゃいから、反論しにくいのにゃん)
「妖精の身勝手さは十分承知しているつもりよ。わたしもそうだから。でもね……。
もっと理不尽なことに、それでいて最長老の木に咲く花の化身。つまり、精霊イオラ様がお造りになられた妖精だっていうから、世の中、なにかが狂っているとしか思えないわ。
ねぇ、そうじゃない?」
「ウチにあいづちを期待されてもにゃ」
「そうね。一緒に暮らしているのだもの。当然よね」
「でもにゃ、ミストにゃん。ミーにゃんって心優しいところもあるのにゃよ」
「そう……かもしれないわね。まぁ陰口はこれくらいにして、と。
身体は赤みがかった白で背中の二枚翅は黄色みがかった白。人間の女の子を小っちゃくしたような姿よ。短めの髪で色は水色。身に着けている霊服もイオラ様のような一枚霊布ではなく、わたしたちと同じ霊服だわ。色が上下とも自由自在に変えられるのも同じ。今のお気に入りは緑色みたいだけどね」
ミストにゃんが、ふぅ、とひと息つく。どうやら、解説は一段落したみたいにゃ。
「で、どうなの? ミアン」
「どうにゃの、って? にゃにがにゃん?」
「しらばっくれなくてもいいわ。蹲ってさっきからわたしたちのウオッチングばかりしていたでしょ?」
(にゃあんかずいぶんと批判めいたお言葉にゃん)
「あのにゃあ。これはウオッチングでもにゃんでもにゃい。おネムでもしにゃいかぎり、ここに蹲っていれば自然とにゃにかしら目に飛び込んでくるものにゃ。でもって、心を持つ生命体が視界に映ったものに関してにゃにかを考えたとしてもにゃ。それは無理からにゅことと思うのにゃけれども」
「確かにそれも一理あるわ。でもね。その気があってもなくても結果が同じなら一緒、って見方をされちゃうことだってあるのよ。……まぁいいわ。で、どうなの? 逆にウオッチングされる側に回った感じは? あんまり気分のいいものじゃ」
『ないでしょ?』って続けたかったのかもしれにゃい。でもウチは……。
「嬉しかったにゃよ」
「えっ? 嬉しかった?」
「ミストにゃんが、ウチのことをそんにゃにも見つめてくれていたにゃんて。ウチの美をそんにゃにも理解してくれていたにゃんて。涙が出るくらい嬉しかったのにゃよ」
「そ、そう。……ごめんなさい。てっきり、噛みついてくるとばかり。
そうよね。ミーナとは違うんだわ」
「ふにゃ? にゃんのことにゃん?」
「ううん。なんでもないわ。わたしがウオッチングする相手を間違えたっていうだけよ。
それよりミアン。いつまでここにじっとしているの?」
「ミーにゃんが帰ってくるまで、と思っていたのにゃけれども……。
遅いにゃあ。にゃにかあったのにゃろうか」
「本当にね」
ウチは、『首をすくめ、前後の足を真っ直ぐに』の、全身を縦に伸ばす姿勢で大きにゃあくびを。
「ふわああんにゃっ、と。
それじゃあ、ウチもみんにゃと混じって」
「右往左往する気であればつき合うわ」
「にゃら」
すくっ、と四つ足で立ち上がるウチ。もちろん、叫んにゃ声は。
「大変にゃああぁぁ!」
たったったっ! たったったっ!
ぱたぱたぱた! ぱたぱたぱた!
自分の頭近くを飛んでいるミストにゃんを連れとして、ウチは動き始める。ところがにゃ。幾らも経たにゃいうちに周りに居る友にゃちの動きが、ぴたっ、と、とまる。良く良く見れば、みんにゃがみんにゃ、ミストにゃんさえも見上げた格好。
「どうしたのにゃん?」
ウチも自分の目をみんにゃの視線の先に合わせる。理由は一目瞭然にゃ。来るべき時が来た。たにゃそれにゃけのこと。
(さぁてと。どうにゃることやら)
そして……ついに終りの時が。
びゅうぅぅん!
「うおぉぉっ! 墜ちてきましたですよぉ! 大変なのでありまあぁぁす!」
ミムカにゃんの慌てた声が、みんにゃの心へまた新たにゃ火を点けたのにゃ。
「大変だってぇ! そりゃあ大変だぁ!」
「うわああ! 大変だああぁぁ!」
「にゃにゃんと! 大変にゃあああ!」
「そう……。大変なのね」
「大変ですかぁ。ふぅむ。大変なのですよねぇ。
ふぅむ。ということは……大変ですねぇ」
ウチも混じって誰がにゃにをいっているのか、さっぱりにゃん。現場は既に大混乱。まるで申し合わせたかの如くみんにゃがみんにゃ、盛んに自分らが居る狭い範囲をぐるぐると。むやみやたらと動き回るせいにゃろう。仲間同士、あっちこっちでぶつかり合っては共倒れ。まさに狂乱のるつぼと化している。不思議にゃのは危機が迫っているのに誰ひとりとして、この場から逃げ出そうとはしにゃいこと。
(頭のレベルが揃った仲間で良かったにゃあ)
ちょっと嬉しい気分に浸った直後にゃ。
ずばばばああぁぁん!
轟音と共にウチの視界は真っ白に。多分、他の友にゃちも、と思う。
『ミーにゃん同盟はここに全滅したのにゃ』
意識が遠のく中、『最後を締め括る言葉はこれにゃあ』とウチは思ったのにゃん。
「プロローグに引き続き、第一話も終了!
いやあ、めでたく全滅にゃあ!」
「あれっ? これでおしまいわん?」
「理不尽極まりにゃいミーにゃんの情け容赦のにゃい爆撃。
これでは誰も無事でいられにゃいのにゃよぉ」
「無事ではいられないかもね。でも滅びることもないわん」
「みんにゃ霊体にゃもん。どんにゃにミーにゃんの力が強くたって核まで破壊するにゃんて出来るわけがにゃい」
「そうそう。にゅるにゅる、って引っついて、あっという間に」
「は無理と思うにゃ。にゃあ、みんにゃあぁ!」
「そうともぉっ!」
ばたばたばたっ。ずらぁりぃ。
「うわっ。ミーにゃん同盟勢揃いだわん!」
「ぷんぷん! そんなの決まっているじゃないか」
「本当にいい加減にしてもらいたい」
「全くぅ。困った子ちゃんでありまぁす」
「友だちになったのが身の不運、ってとこかしら」
「まぁいいじゃないですか、ミストさん。滅びは誕生への入り口とか。
幸せになる為の第一歩と考えれば」
「ミリア。だったら勝手に滅べば?
出来ないでしょ? そんな」
「ではご一緒に」
どっががあぁぁん!
「こらぁっ。ミストん! 一番煽っちゃいけない相手を煽るなんてぇ」
「そうだったわね。ごめんなさい、みんな」
「とどのつまりが……、みんな、ばらばらかぁ。
とほほ。いつになったら、元の身体に戻れることやら」
「神のみぞ知る、か。出来るだけ短い時間であって欲しいが」
「折角登場したのにぃ。残念でありまぁす」
「本当に残念です。あともう少し強力なモノを造ってさえいれば……うぐっ!」
「ミリアにゃん。あんたはちょっと黙っていにゃさい」




