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第九話『覗き見の世界にゃん!』のその①

 第九話『覗き見の世界にゃん!』のその①


 そして翌日。起きたら朝半……朝と昼のちょうど真ん中にゃ……をとうにすぎていた。

(幾らにゃんでも寝すぎにゃん)

 ミーにゃんが居にゃい。イオラにゃんの話では朝早くから出かけたのこと。

(宝玉の探索にゃろうか。ミーにゃんにしてはずいぶんと張り切っているにゃあ)

 ……というわけでにゃ。ウチも張り切って精霊の間をあとにしたのにゃん。


 イオラにゃんの想い出話にゃ。

 はるか大昔のこと。惑星ウォーレスから湧き上がってきた『死の灰』と呼ばれる灰黒の噴煙が、天空の村に襲いかかってきたのにゃ。空は真っ黒に染め上げられ、あわや大地も、という古今未曾有の危機に見舞われたのにゃけれども、実際に大地へと降り注がれたのはほんのわずか。イオラにゃんや森の精霊らの尽力が功を奏した結果にゃん。


 ……と話がここまで進んだところでにゃ。イオラにゃんが、『えへん! すっごいでしょ?』といって鼻高、肩までそびやかしたもんにゃから、『遅ればせにゃがらの登場じゃにゃい? もっと早く動けにゃかったの?』と初動態勢の不備を指摘、苦言を呈したところにゃ。イオラにゃん自身も後ろめたさを持ち続けていたのかもしれにゃい。虚を衝かれたかの如く黙り込んにゃのも束の間、猛烈にゃる勢いで、『責めないでよ。あまりにも急な出来事だったのよ。しょうがなかったのよ。判ってよ、ミアンちゃん』と、語尾に『よ』が続きっ放しの弁明を聴かされた挙句、泣きつかれてしまう羽目に。興奮気味にゃのを鎮めるのに、それはそれは苦労したのにゃん。特ににゃ。この時のイオラにゃんは、『上は茶色地に黒の縞模様の毛並みで、下は白い毛がふっさふっさ。でもって全体的にはウチよりも色白』という、今は亡き、ウチのお母にゃんそっくりのネコ姿。本物にも泣きつかれたことがにゃいもんでどうしていいか判らず、困ってしまったのにゃん。『いいすぎたのにゃ。ごめんにゃ』とか、『イオラにゃんは悪くにゃい。いい子にゃ』にゃどと、思いつくかぎりの言葉を尽くしてにゃ。やっとこさ、その場を収めたのにゃん。

 まっ、それはそれとしてにゃ。


『死の灰』の猛威が静まったあとにゃ。精霊や霊翼竜らの奮闘努力の甲斐あって、天空の村は空も大地も見事にゃまでに浄化されたのにゃ。見上げれば透き通った青空が、地に目をやれば緑豊かな大地が、どちらも見渡すかぎり拡がっている。いつもの村の景色に戻っていたのにゃん。

 でもにゃ。残念にゃがら、全てが元通り、ではにゃい。度重にゃる浄化にも耐えて残ってしまった、『死の灰』がもたらした害もあったのにゃ。それはにゃにかといえば……。

 一つの意志が生まれてしまったのにゃん。天空の村に災いを為す邪悪の意志がにゃ。その意志は、良性の細菌を悪性へと変異させるばかりか、新たにゃ悪性の細菌を、更には、奇っ怪獣にゃる霊体まで生み出すのにゃん。しかも、陸、空、地中、問わずにゃ。

 その意志は霊力あるモノにとり憑くことで、自らの姿を具現化することが出来るのにゃ。と、ここまで聴けば、『にゃら、現われた個体を滅すれば』と誰しもが思うに違いにゃい。ところがにゃ。そうそう物事は上手くいかにゃい。滅びる寸前に、意志のほうは、するり、と個体から逃げ去って、天空の村のどこかへと隠れ潜むのにゃ。でもって、こりることにゃく、力を得る次の機会を虎視眈々と狙い続ける、といった次第にゃ。

 まぁ簡単にいえば、しつっこいのにゃん。嫌われるタイプにゃのにゃん。

 天空の村の精霊らもにゃ。その意志、及び具現化した姿を忌み嫌ってか、こう呼ぶのにゃん。

 霊魔の『霊亜』。……レイアとにゃ。


(しっかしにゃあ。あれはどういう意味にゃのにゃろう?)

 夕べのことにゃ。イオラにゃんに、『明日、マザーミロネにゃんのところに行ってみようと思うのにゃ』と話したのにゃん。でもってこの精霊について尋ねてみたらにゃ。『向こうへ行くのなら直接マザーちゃんから聴いてみたら? そのほうが絶対に面白いと思うの』といわれ、お預けを食ってしまったのにゃ。

 ただ……、一つにゃけ教えてくれたことがある。でもにゃ。イオラにゃんがどんにゃ思いを込めて、あんにゃことを喋ったのかまでは……残念にゃがらウチには判らにゃかった。


 昨日、ミストにゃんに、『今日みたいに霧の園で待っているから』との約束をもらったのにゃけれども、予定の刻限よりもだいぶ遅れてしまったのにゃ。にゃもんで、『怒って帰ってしまったかもにゃ』と合流を危ぶんでいたところ、いやはや、友にゃちとは有り難いものにゃ。ちゃんと待っていてくれたのにゃん。

 ……ということでにゃ、再びウチらは回廊の中へ。『同行者が居るのは心強いにゃ』と安心し切っていたのにゃけれども、ついてきてくれたのは『保守の間』とやらの景色の前まで。景色とはいってもにゃ。ぼけたようにゃ絵とにゃっていて、にゃにがにゃんにゃかさっぱりにゃん。不安が募る一方にゃのに、それに追い討ちをかけるが如くにゃ。『滅びとて生まれ変わる為の第一歩。なにがあろうとも、怖れることはないわ』と別れ際に不吉を感じさせる言葉を残して、ミストにゃんはウチの元から去っていったのにゃ。『どうしたら』と戸惑うも、ここまで来て引き返すわけにもいかにゃい。『ええい! にゃんとかにゃるにゃろう!』と、あとさき考えずに飛び込んにゃのは……ウチらしい行動にゃったのに違いにゃい。


 辿り着いたのは、赤や青、緑や黄色にゃど、さまざまにゃ色合いが入れ代わり立ち代わり、まだら模様とにゃって現われる、にゃんとも不思議にゃ空間にゃ。目の前には翅人型の妖体がひとり、ぽつん、と居るにゃけ。こちらに背を向けて立っているのにゃ。

 ウチの気配を察したのにゃろう。くるっ、と顔をこちらに向けたのにゃん。

「おやおや。いつかは、とは思っていましたが、とうとうここまで来てしまわれましたか」

 苦笑いの表情にゃ。

「ええと……ミロネにゃん?」

 顔のみならず、容姿もそっくり。でもにゃ。身体の大きさが人間でいうところの女学生ぐらいはあるのにゃ。そのせいにゃろうか、スタイル抜群のプロポーションと目に映るし、胸の膨らみにゃって、それにゃりに大っきい気もするのにゃん。

「どうしたのですか?

 ……ああ、そうですね。実際に会うのはこれが初めてでしたね」

 そういってウチと向き合う姿に。ミロネにゃんはミーにゃんとおんにゃじぐらいの背にゃったから、飛んでいる時以外は目線を下へと向けることもままあったのにゃけれども、この妖体は、ずうぅっ、と上。声も男の子というよりは女の子に近い。にゃんとも不思議にゃ気分にゃ。

 両足を、きりっ、と揃えたあとは、両腕を下ろして手と手を重ね、

「あらためて自己紹介をさせて頂きます。わたくしの名はレミロ。正確にはレディミロネといいます。どうぞお見知り置きのほどを」

 といって、ぺこり、と、ちょっと深めのお辞儀をしたのにゃ。

(ずいぶんと上品にゃご挨拶にゃ。ウチも負けてはいられないのにゃよぉ)

 脳裏に人間と暮らしていた頃の記憶が。畳の上に座って両手を突いていた姿が浮かぶ。

(あれでいこうにゃん!)

 ウチはしゃがむと、お行儀良く左右の前足をくっつけたのにゃ。

「ウチはミアンにゃ。こちらこそにゃん」

 挨拶返しとばかり、やっぱり、ぺこり、とお辞儀。頭を上げてみたら、相手は、にっこり顔にゃ。これで気分良く話が進むのに違いにゃい。初対面の挨拶は大事にゃと、つくづく思い知った次第にゃ。


「ちょっと、ミアン殿のほうの床を高くさせて下さい」

 レミロにゃんは右手のひらを上にして、ウチのほうへと向けたのにゃ。『にゃんのつもりにゃろう?』と思っていたらにゃ。その手を上へとあげるつれ、ウチも高く上がっていくのにゃん。

「ここら辺りであれば、話しやすいですね」

 とまってみれば、ウチと話し相手の目線は一緒にゃ。見た目にはウチが宙に浮いているみたいでにゃんとも不安にゃ。

「これって落ちにゃいのにゃん?」

「見えなくても、ちゃんと床に四つ足を下ろしていますよ。心配は要りません」

「まぁそれにゃらいいのにゃけれども」

 信じるしかにゃいもんで、信じることにしたのにゃん。

「それがニャムネ殿の花丸印ですか。

 話には聴いていますが、直接、拝見するのはこれが初めてです」

 さも珍しそうにウチの額を、じっと見つめるその姿に、『どこへ行ってもおんにゃじにゃ』と半分呆れにゃがらも、あと半分は照れくさいのにゃん。

 しばらくすると、はっ、と気がついたように、目線をウチと合わせたのにゃ。

「申しわけありません。わたくしとしたことが、つい夢中になってしまって」

 そういうと、頭を下げての平謝りにゃ。心優しきウチとしては、『気にしにゃいでもいいにゃん』と、ネコに似つかわしくにゃい寛大にゃ態度で応じたのにゃん。

「ところで、と。あんたはミロネにゃんとは違うのにゃん?」

「おやおや。いきなり答えに困る質問がきましたね」

「そうにゃん?」

「とはいいましても、答えやすい部分もありますから、先ずはそちらからお話しますね。

 彼のほうはまだ幼児期で、生まれてからまだ二百年ぐらいです」

「知っているのにゃん。ミーにゃん同盟のみんにゃもそれぐらいにゃし」

「ですが、わたくしは児童期。あと百年も経てば成霊期となります。彼より先輩なのです」

「やっぱりにゃ。ウチもにゃんかそんにゃ気がしていたのにゃん」

「あとは……、顔も姿も似ているとは思いますが、彼は男の子。わたくしは女の子です」

「うんにゃ。それも納得にゃん」

「……くらいですかね。それではいよいよ、答えにくいほうのお話をしますか。

『ミロネ』とは本来、保守空間マザーミロネの影、影霊のことを指します。ですから、同じといえば同じですが、違うといえば違うのですよ」

「にゃんか良く判らにゃいのにゃけれども」

「実はわたくしもです」

 レミロにゃんが、くすっ、と微笑む。にゃもんでウチもついつられて笑顔に。和やかにゃ雰囲気に包まれたのにゃ。

(こちらともお友にゃちににゃれそうにゃん)

 そう思ったら、がぜん、目の前に居る妖体のことが知りたくにゃったのにゃ。

「レミロにゃんはここでにゃにをやっているのにゃん?」

「わたくしですか? まぁ一口にいえば、マザーを操作することで天空の村の観測及び監視を担っている、といったところでしょうか」

「マザーミロネにゃんを?

 はて……、それって自分自身を操作しているってことにゃん?」

 話し相手はちょっとにゃけうなずいたのにゃん。


「いよいよ、第九話に突入にゃあぁぁん!」

 ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。

「みんにゃあ! ここは一つ気を引き締めていこうにゃん!」

「とはいってもねぇ。ミアンったら、最初っからネボスケの醜態を晒しているじゃない。

 先が思いやられるわん」

「そうにゃん? にゃら眠気覚ましに」

 すうぅっ。すうぅっ。

「それなら、ワタシだって」

 すうぅっ。すうぅっ。

「こらぁっ! お話が始まって早々、寝るんじゃないわん!」

 むくっ。むくっ。

「にゃんかうるさいと思ったら……。

 ミーにゃん。ウチは化けネコにゃ。にゃもんで、ネコネコしいのにゃんよ」

「ミーナちゃん。悪いけど、ワタシもネコネコしいの」

「なに? ネコネコしいって?」

「ネコっぽい、という意味にゃん。

 ぐっすりと寝て眠気を失くす。これぞネコの眠気覚ましにゃ」

「無茶苦茶いわないで欲しいわん。大体、いつどこで誰がそんなことをいったわん?」

「今ここでウチが」

「だと思ったわん。さぁさぁ、ふたりとも。しゃきっ、と起きるわん」

「ミーにゃん、頼むにゃ。あともうちょっと」

「ミーナちゃん、お願い。あともうちょっと」

 いらいらいら。いらいらいら。

「ちょっと、ってどれくらいわん?」

「うぅぅんとぉ。次に眠たくにゃる直前くらいかにゃあ」

「そうね。それぐらいなら」

「起きれないじゃない。エンドレスだわん!」


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