第八話『霧の園。にゃんとも摩訶不思議にゃ世界にゃん!』のその④
第八話『霧の園。にゃんとも摩訶不思議にゃ世界にゃん!』のその④
「ふっ。むなしい闘いだったわ」
呟いた妖精の目には、消えた相手を慈しむようにゃ輝きがあったのにゃん。
「あんたは一体?」
「あたしはドナ。ええと……ひょっとしてミアンじゃないの? あなたは」
「どうして知っているのにゃん?」
「ミストの話に良く出てくるネコと容姿が同じものだから」
「ウチのことを? にゃんて?」
「もわんもわんとした、思わず、すりすりぃっ、としたくなる化けネコだって。
なるほどねぇ。なんか判るわぁ」
すりすりぃ。すりすりぃ。
まるで十年来の知己でもあるかの如く、自分のほおをこすりつけてくるドナにゃん。ここら辺りはミーにゃんもミストにゃんもおんにゃじにゃ。
(こちらとも、お友にゃちににゃれそうにゃん)
「ミストにゃんとは知り合いにゃの?」
ドナにゃんは我に返ったように、ぱっ、とウチから離れたのにゃ。『つい夢中になっちゃって、ごめんね』と親しげに話しかけてくるところも、舌を出して、頭を、こつん、とやる仕草をみせるところにゃんかも、もう友にゃち同士以外の何物でもにゃい。
「物心ついた時から、ずうぅっ、とよ。そっけない素振りや口調だけど、いざ話し始めると、どうしてどうして。なかなか面白いから直ぐにつき合い始めたわ」
「判るにゃ。ウチもそうにゃったし」
「でしょ? ついでにいうとね。荒っぽくて。でもその割にはすっごく親しみやすいの。だから、みんなにも好かれているわ。いっときは怒っても、直ぐに『仲直りしちゃおう』って思うし。なかなか得な存在ね」
「うんにゃ。ウチも大好きにゃよ。ただちょっと」
「やりすぎるのよね。そこが玉に瑕で。
ところで、と。ここに来たのはどんなご用事で?」
「実はにゃ。村の……うぐっ」
自分の目を疑ったのにゃ。ウチのたにゃにゃらにゅ様子に不安を覚えたのにゃろう。ドナにゃんも後ろを振り返ったのにゃん。
「あ、あれはぁ……」
「にゃ、にゃんにゃのにゃあん!」
(信じられにゃいものが襲ってくるうっ!)
ごごごごおぉっ! ごごごごおぉっ!
建物はおろか、山をも呑み込むであろう、超巨大にゃ『ぷるんぷるん水』の波が、こちらへと押し寄せてきたのにゃん。そして……聞き慣れた声もまた耳に届いたのにゃ。
「目には目を! 歯には歯を! 波には波をぉっ!」
ドナにゃんにも聞こえたのにゃろう。わなわなと身体を震わし始めたのにゃん。
「ミ、ミストだわ! みんなぁ! ミストの逆襲よぉ! 早く逃げてぇ!」
首領の言葉を受けて一斉に散らばる妖精ら。でもにゃ。
……時既に遅しにゃ。迫りくる波頭がついにぃ!
ざぶぅぅん!
ウチは目の当たりにしてしまったのにゃん。砕けた波が山と建物。そして妖精らに覆い被さる悲惨極まりにゃいシーンを。まさに大洪水と呼ぶに相応しい水の荒れ狂いようにゃ。
そして………そこまでにゃった。ウチもまた荒波に呑み込まれたのにゃん。
気の遠くにゃるようにゃ長い時間に感じられた。でもにゃ。実際は、ほんのわずかにゃ間にゃったのに違いにゃい。荒波が収まったあとは、『もうダメ』といわんばかりに、ぐったりと横たわっている妖精らの姿が、青の平地に多数転がっているのみ。哀れみを誘うその光景と、『ウチも彼ら彼女らから見ればそうしたひとりにゃ』と気がついたことで、思わず目頭が熱くにゃってしまったのにゃ。
(こんにゃことで泣いていては乙女がすたるのにゃん)
涙をこらえ、勇気を奮い立たせたのにゃ。『他にも無事にゃ者は居るはずにゃ』と、四つ足でしっかと平地を踏み締め、辺りを探してみればにゃ。
「あっ、あそこにゃん」
ドナにゃんがひとりの妖精と向き合っていたのにゃ。どちらも、砕けたぷよぷよ欠片の上に腰を降ろした格好。誰かと近づいてみれば、予想違わず、の相手にゃん。
「ミスト。まさか、ここまでやるとはね」
「やられたらやり返す。全力で。それが破壊神たる、わたしの生きざま」
「破壊神って……、まぁいいわ。
ミスト、もう降参よ。これまでのことは不問に処すわ」
「賢明な態度ね」
「これ以上、被害を多くしたくないだけよ」
「壊れてもまた造ればいいじゃない。もっといいものをね。
わたしたちにはその力がある。違うかしら?」
「だからって毎回これじゃあ、たまらないわ。
ねぇ、ミスト。物を造るのって、造り上げた満足感に浸りたいからだけじゃないと思うの。むしろ、造ったものを見たり使ったりする楽しさや面白さを味わいたい、味わってもらいたい、って理由のほうが強いんじゃない?」
「そうかもしれないわね」
「形ある物はいずれ壊れる。確かにそうだけど、むやみやたらと壊すのはどうかと思うわ。折角そこにあるのだから、『先ずはそれを使いこなしてから』のほうが、ずぅっといいんじゃなくって?」
「一理あるわ。でもね、ドナ」
「なに?」
「創作に使っているぷよぷよ水……霊水膜っていうんだっけ? これって霊力攻撃に対する防御壁としては強固なものだけど、いかんせん、素材自体が、ぷるんぷるん、じゃない。骨組みとするには弱すぎて、造った当初はいいとしても、劣化が早く進むわ。なんの前触れもなく、いきなり、ががぁん! と倒れてしまいかねない。そうなったら、妖精のわたしたちでさえ巻き添えを食うことになる。放っておくには危険すぎると思わない?」
「それは……そうね。いわれてみれば確かに」
「もう一つ問題があるわ」
「なに?」
「ここの妖精たちの創作意欲。あれは相当なものよ。仮にあなたのいう通りにしたとしたら、この街はたちまち創作品で埋まってしまうわ」
「難しいところよね。そこは。楽しんではもらいたい。創造力もつけて欲しい。でも、足の踏み場もないほど造られても困る……」
「そしてそれらが一辺に、がしゃん! とでも来た日には」
「まずいわね、それは。早急に対策を練らなくちゃいけないかも」
「なんらかの秩序、ルールを決める必要があるわね。でもまぁ大半を壊しちゃったから、焦らなくてもいいわ。おいおい考えればいいじゃない。それよりも」
ミストにゃんは手を差し出す。
「はい。約束のものを頂戴。あなたが持っているんでしょ?」
「そうだけど。……あれをどうするつもりなの?」
「ミアン」
ウチの名を呼んでくれたことで、『忘れられているのでは?』との不安は拭い去られた。でもってミストにゃんの心のうちも知れたのにゃん。
(にゃけれども、ウチはいつの間に説明係とにゃったのにゃろう?)
不満はあるのにゃけれども、ことは急ぐ。事情が事情にゃもんで、イヤがるわけにはいかにゃいのにゃん。
「話してもいいのにゃん?」
「ドナはいずれ、ここの長となる娘よ。耳に入れていたほうがいいわ」
「なんなの? 一体」
ウチらの会話に一抹の不安を覚えたみたいにゃ顔つきにゃん。
「実はにゃ、ドナにゃん」
とまぁそんにゃこんにゃで、ウチはやっと、ことの成り行きを話すことが出来たのにゃ。
「ちょっとぉ! そんな村の一大事をなんでもっと早く話してくれないのよぉ!」
ドナにゃんの驚いたようにゃ顔……少しばかり、怒りも含んでいるみたいにゃのにゃけれども……がにゃんとも可愛らしい。でもにゃ。しっかりとした、腹の据わっている性格らしく、うろたえた様子は微塵もみせにゃい。『さすがはミストにゃんも認める次期リーダーにゃ』と感心するぐらいにゃ。
「そういうことなら」、
事情が判れば、素直にゃもの。ドナにゃんの手のひらに輝くものが現われる。
「これでしょ? はい、どうぞ」
差し出しされたのを見れば、紛れもにゃく紫に光る宝玉にゃ。
「有難うにゃん。終わったら必ず返しにくるのにゃん」
そう約束して、ウチはペンダントの空いた穴に収めたのにゃ。
(まにゃ、あと二つも探さねばにゃらにゃい。ぐずぐずしてはいられにゃいのにゃよぉ)
「にゃら、ミストにゃん。これでウチは」
「待って、ミアン」
「にゃんにゃ?」
「これも多分だけど、青の宝玉は、あそこだと思うの」
思いがけにゃい言葉にゃ。
「ど、どこにゃん?」
勢い込んで尋ねるウチへの返事は。
「回廊の行き着く先の一つ。保守の間よ」
いつににゃく、神妙な面持ちで語っているのにゃん。
「保守の間?」
「天空の村全域に渡る、観測及び監視の一切を担っているの。
管理者は六大精霊のひとり、保守空間マザーミロネ様。そして、あのお方が造った自分の影、影霊の名は……ミロネ。わたしたちの仲間よ」
「あのミロネにゃんが」
ウチは友にゃちの正体を初めて知ったのにゃ。
……余談にゃのにゃけれども、帰りがけにウチのサイン会が開かれたのにゃ。理由はいうまでもにゃく、額に押された花丸印のハンコ跡。ミストにゃんとドナにゃんを先頭に、霧の妖精たちがずらりと並んで、ウチの名前とともに、『「たいへんよくできました」と書いて下さい』と次々に叫ぶ大盛況。ぱっ、ぱっ、ぱっ、と素早く片づけようかと思ったのにゃけれども、そこはそれにゃ。言葉の一つもかけてあげにゃくちゃにゃらにゃいし、ネコ人型モードではあっても、ネコの手ではサインがしにくいとくる。にゃもんで帰るのが、まぁずいぶんと遅くにゃってしまったのにゃん。
「第八話及び『霧の都』編もこれにて終了にゃあん!」
ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。
「イオラが守護神で、ミストんは破壊神かぁ。
神が多すぎるわん。すると、さしづめミアン辺りは……」
「美の女神にゃん。神々しくて自分では見られにゃいくらいにゃ」
「まぁ鏡がなきゃあ見えなくて当たり前だわん」




