第三話『探すのは遊びの広場からにゃん!』のその②修正01
第三話『探すのは遊びの広場からにゃん!』のその②
「私も異議はありません。棲み家を中心に探してみますね」
ミロネにゃんの提案に便乗するかの如く、ミリアにゃんも手を、声を上げたのにゃん。一見、控えめでおしとやかそうにゃのにゃけれども、夢想に耽っては、まるで教祖にでもにゃったかの如く誰彼構わず、自分が描いた世界へ引きずり込もうとするのにゃ。これさえにゃければ、同じネコ型霊体ということもあって、ウチにとっては絡みやすい貴重にゃ存在にゃのにゃけれども。ひょっとすると、仕切り屋さんとしての本性を隠し持っているのかもしれにゃい。
(仕切り屋といえば、にゃにかとリーダーににゃりたがるミーにゃんもそうかも。この点において、ふたりは相通じるものがあるのかもしれにゃいにゃあ)
いろいろと話し合った末、それぞれの得意とする持ち場で探すべき、との結論に落ち着いたのにゃ。にゃもんで、みんにゃ、てんでばらばらに分かれることとにゃったのにゃ。
……とまぁこんにゃ経過を経て、にゃんとか捜索範囲が決まったのにゃん。
そんにゃこんにゃでウチは今、沼のほとりに佇んでいる。
沼の名前は『志津』にゃ。『遊びの広場』にあって、かたわらを流れる小川『流魅』と水中で繋がっていることから、そちらの水と絶えず行き来している。にゃもんで、水面から覗いてみても判る通り、濁りの少にゃい澄んにゃ沼とにゃっているのにゃ。
ざぶぅん!
ウチはミクリにゃん、ミムカにゃんとともに志津の中へと飛び込んにゃのにゃ。
『これは池にゃのでは?』と思うくらい小っちゃい水面にゃのにゃけれども、中に入れば、どうしてどうして。かにゃりの広さにゃ。水深も、『どうしてこれが沼にゃの?』と首を傾げるくらい深く、湖並みにあるといっても過言じゃにゃい。名は体を表さにゃいこともあるという、いい見本にゃ。
本当はミーにゃんと『湖の広場』に戻って探すつもりにゃったのにゃけれども、『たまにはつき合ってくれよぉ』とミクリにゃんに誘われたのにゃ。ミーにゃんからも、『行ってくるといいわん。こっちは探す範囲が広いから、のんびりとやっているわん』との了解をもらっており、にゃにを気兼ねすることにゃく、久し振りに水の世界へと旅立ったのにゃん。
ぶくぶくぶく。ぶくぶくぶく。
まるで呼吸でもしているみたいに、沼底や水草から、幾つもの泡が上へ上へとのぼっていく。ウチらはそれに逆らうかの如く、下へ下へとおりていく。ちなみにウチは実体波を、ミクリにゃんとミムカにゃんも身体から自然放出される霊波を弱めている。身体が若干、ぼぉっ、とした姿とにゃるのにゃけれども、このほうが水の中では快適にゃのにゃ。呼吸の必要がにゃいし、水の抵抗も泳ぐのにちょうどいいのにゃ。
周りを見回せば、ほんのちょい、薄茶色みがかった青き水の空間に、緑青色に染められた景色が拡がっているのにゃ。目に映るものといえば、藻にびっしりと覆われた岩礁、ゆらゆらと踊っている水草、そしてお魚にゃん。沼底を這う変てこにゃ姿の生き物も居る。にゃにか自分が不思議にゃ存在とにゃった気がしてにゃらにゃい。
「ミアンさぁん。どうでありますですかぁ。水の世界は」
「ムダだよ、ミムカ君。彼女、今とぉっても忙しいんだから」
「はて? なんなのでありますで……きゃああ! でありまぁすっ!」
ぱくぱくぱく! むしゃむしゃむしゃ!
ミクリにゃんらの声を耳にしつつ、ウチは漁にいそしんでいたのにゃ。
いやあ、沼のお魚にゃんがこれほどまでに美味にゃったにゃんて。しかもにゃ。おんにゃじ種類でも、水面付近と沼底付近を泳ぐものでは全く別物にゃん。まさに水深の違いが生んにゃ奇跡。これほど味が変化に富むものににゃろうとはにゃあ。思いもよらにゃかったのにゃん。
ぱくぱくぱく! むしゃむしゃむしゃ!
ぱくぱくっ。
「こらあっ! なにをやっていますですかぁ!」
(おや? にゃんか怒っているみたいにゃのにゃけれども)
ウチは食事をいったん中止。見れば、にゃにやら、わぁわぁ喚いているミムカにゃんと、そんにゃミムカにゃんをを羽交い締めにしているミクリにゃんの姿が。『邪魔しちゃ悪いかもにゃ』と、心では遠慮しつつも、身体は自然とそちらのほうに。オスメスネコが絡み合う現場へと馳せ参じたのにゃ。
「びゃびかばったびょびゃん?」
「なにかあったのにゃん……って、
今あなたが口に挟んでいるものはなんなのでありますかぁ!」
喋っている間も口元のお魚にゃんは、ぴしゃぴしゃ、とヒレを振ってもがいているのにゃ。煩わしいことこの上にゃい。にゃもんで、
ひょいっ。…………がぶっ! むしゃむしゃむしゃ……………ごっくん。
くわえていたお魚さんを放り上げ、落ちてきたところを頭の先から平らげたのにゃん。水の中でこんにゃことが出来るのはウチにゃけかも、と、ちぃっとばかし自慢の芸にゃん。
「やっぱりお魚にゃんは踊り食いにかぎるにゃ。生食いに勝るものにゃし、というわけにゃん」
口周りを舌でぺろり。ついでに前足をもなめなめ。食後の余韻とやらに耽っている間に、ふとミムカにゃんが喋った謎めいた言葉を想い出したのにゃ。
「にゃにを、って……あれはにゃ。お魚にゃんというのにゃ。ここで棲んでいるのに知らにゃいのにゃん?」
「そうじゃなくってぇ」
びしっ。
羽交い締めから脱出したミムカにゃんはウチにネコ差し指を突きつけたのにゃ。
「ここに居るのはミムカのお友だちさんなんでありまぁすよぉ。
それなのにぃ。んもう、食べるなんてぇ」
ウチは『食べるなんて』の言葉に思わず、ほお張ったお魚にゃんのお味一つ一つを想い返してしまったのにゃ。
「いやあ、美味しかったにゃよぉ。あのにゃあ、ミムカにゃん。小川の水が流れ込んでくる水域に近ければ近いほど、お魚にゃんは身が引き締まってにゃにゃにゃかの美味しさにゃのにゃ。そんでもって沼底に行けば行くほどにゃ。流れが少にゃい淡水とにゃるせいにゃろうにゃ。太って脂がたっぷりと乗っているお魚にゃんが増えていくのにゃん。これがまたにゃ。にゃんとも違った味わいを醸し出してウチの食欲をそそってしまうのにゃよ」
ウチとしては、お魚にゃんを褒めちぎったつもりにゃ。ミムカにゃんも喜んでくれるのに違いにゃい、と。ところがにゃ。現実はにゃかにゃか上手くはいかにゃいもの。どういうわけか、返ってぷんぷん状態にゃのにゃ。
「だぁかぁらぁ!」と声を荒げるミムカにゃん。「お友だちなんでありますよぉ。それを」
「にゃから美味しかったっていっているじゃにゃいの」
「だぁかぁらっ!」
ミムカにゃんは『お友だちなんでありますよ』と、ウチは『美味しかったのにゃよ』と、双方が繰り返し繰り返し叫ぶ始末にゃ。にゃもんで、ちぃとも話が前に進まにゃい。
(にゃあんか話が今一つ噛み合っていにゃい気がするのにゃけれども)
戸惑うウチと半ば怒った風のミムカにゃん。と、そこへちょうど助け舟が。
「まぁまぁ」
ミクリにゃんがウチらの間に割って入ってきたのにゃ。
「ミムカ君、しょうがないよ。ミアン君はボクらのような生まれながらの霊体じゃない。元は普通のネコだったんだもの。生きようとすれば、食べるしか糧を得る方法なかったんだ。君だって知っているだろう?」
「でもぉ」
ミムカにゃんは口をとがらしてすかさず反論にゃ。
「生前とは違って今はミムカたちと同じ、天空の村に拡がる霊力を糧と出来る妖体じゃないですかぁ。お魚さんたちを食べなきゃならない理由なんて、これっぽっちもありませんですよぉ」
(にゃあるほど)
ウチはやっと合点がいったのにゃ。
ミムカにゃんのネコ型姿を何回とにゃくウチは目にしている。にゃから当然、ミムカにゃんもお魚にゃんを食べていると思っていたのにゃ。『友だち』っていういい方も一種の比喩みたいにゃものにゃと。でもにゃ。違ったみたいにゃん。
(困ったにゃあ)
ことを穏便に済ませるには『判ったのにゃん。ウチはもう二度と食べにゃい』と確約すればいいのにゃろうけれども……、ネコの身としては、とてもとてもいえにゃいのにゃん。
(にゃんと返事をしたら、いいのにゃろう)
途方に暮れるウチに、またもやミクリにゃんから助け舟にゃ。
「そうか。君は全然判っていないんだね。まぁ多様型だから無理もないけどさ」
「どういう意味でありますかぁ?」
「ミムカ君。ボクたちネコ型の霊体にはね。『狩猟本能』というのが備わっているんだ。狩りや漁をたしなむ性は生来のものだよ。
そして……霊体が生まれてから、実体が生まれた。
つまりね。ネコは、ボクたちネコ型霊体をモデルとして生まれた生き物なんだ。当然、この本能があっても不思議じゃない。
ボクもお魚さんを捕って食べるよ。今いった、『狩猟本能』があるせいなんだろうね。ただ君のいう通り、霊体は天空の村の霊力を糧とするのが常だ。妖体であるボクもそれは変わらない。だから、そうひんぱんに獲物を漁るってことはないな。でもね。ミアン君はそうはいかないよ。同じ霊体とはいっても、お亡くなりになったあとに化けネコとして蘇った身だもの。生前の、先祖伝来から受け継がれているネコの『狩猟本能』がそのまま残っている。狩りや漁への欲求はボクなんかとは較べようもないほど、強いはずだ。なにしろ、糧を得るには食べるしかなかったんだからね。正しいだの間違っているだの、とかいうレベルじゃない。本能がそうさせるんだ。それをとがめる権利がボクなんかに、いや、君にだってあるもんか」
言葉の後半では、いつににゃく気迫がこもっている。ウチの気持ちを代弁してくれているようで聴く耳にも心地いいのにゃん。
「ミアンはヨモギ団子やえびふらいが好きだけど、やっぱり、お魚さんも好きなのわん?」
「でもにゃあ。焼き立てとか、煮込んだばっかりとかはにゃあ…」
「判る判る。判るわん。ネコ舌だからね。実はアタシもそうなの。
ねぇ、イオラはどう? 熱いのがいい? 冷めたほうがいい?」
「熱いのに決まっているじゃない。恋はね。熱くなくちゃいけないわ。
あっ。『恋』よ。『鯉』じゃないから。間違えないでね」
「……ミアン。ちょっと遊びに行かない?」
「うんにゃ。どうやら、話が合わにゃいみたいにゃ」
「んもう。ミーナちゃんもミアンちゃんも、そんな冷めたいい方しなくたって」




