虚実の矛盾
最強の兵器とは、いったい何だと思う?
……いや何、道具を作成するのが得意なお人好しと、さっきまでそんな話をしていたものでね。
最強の兵器、最強の武器。多くを殺す爆弾だろうか、目に見えぬ細菌だろうか、あるいは人を殺すのに一役買ってきた飛び道具だろうか?
古今東西の戦争の歴史をよく見てきた私にとって、武器といえばそんな物を指している。無力な子供だろうと扱える大量生産品こそが、人間にとって最強の兵器ではないのかと。
けれど友人にとって、最強の兵器とはそんな物ではないらしい。あくまで超常的な力を持つ一点物こそが、最強の資格を得るのだとね。まあその考えは正しいだろう。もし私の言ったような最強の大量生産品が作られれば、人はもう、その究極の武器しか使わなくなる。そうしたら、それはもはや最強ではない。一位にして最下位になってしまう。
だから彼は、最強の名にふさわしい一点物の武器を作成した。
その名は、虚実の矛盾。虚の盾と実の矛という、二個一対の武器だ。それぞれ、どんな物でも通してしまう盾と、どんな物でも貫けない矛で……。
え? それは最弱の武器じゃないのかって?
ふむ、確かに聞くだけならば、どう考えても使えない道具だろう。道行く人の鋭い指摘など必要なく、こんな道具は売れそうにない。
しかし、世の中で最も危険なのは、最強ではなく最弱なのだよ。最弱だと思える物が生き残っている方が、よほど未知数で恐ろしい。むしろその場合、それが最弱であると判定した自分自身の鑑定眼を疑うべきだろう。
まず、どんな武器も通してしまう虚の盾だが、これは名前の通り、実体がない。幻影の盾なのだ。しかし人は、それをあたかも実在するかのように感じてしまうだろう。ゆえに虚の盾が体を透過した者は、盾が幻だと分かっていても、自分の体が切断されたと思い込んでしまう。脳が幻影を誤認するのだよ。
次に、どんな物をも貫けない実の矛だが、これは名前の通り、実体しかない。矛だけでその存在が完結しているのだ。ゆえに、矛は他の存在に干渉できず貫けない。しかし同時に、矛を破壊する事も絶対にできないだろう。したがって、矛は完全な守りとなる。
つまり虚実の矛盾とは、盾を攻撃に、矛を防御に使う武器なのだよ。
もしこの矛と盾を突き合わせても、虚の盾は必ず矛を通し、実の矛は絶対に虚の盾を貫けない。しかしどちらも破壊されず、どちらも能力を失わない。そう、矛盾の事態は、片方が虚像であれば成立しないのだ。
ちなみに用途を逆転させたのは、矛盾の故事を避けるためさ。こうした怪品にとって、謂われや意味づけは重要だからね。売れなくなっては困るだろう。
その武器はどうなったか? まあ、怪物退治なんかに使われて、そこそこ役に立っているようだよ。製作者は不満のようだが……無理もない。私の言う通り、人民にとって最強の兵器とは大量生産品だったようだからね。