黄金の虹色石
今日の話は、不老不死になるための方法についてだ。それについて話したい気分だよ。なにせ最近、その関連の知人に会ったものでね。
伝説に残るのでは、水銀や魔術の石が有名かな。君がよく知る方法では水棲生物の肉だっけ。けれどこの国では、肉よりむしろ月の霊薬の方が、子供にも知られる有名どころかもしれないね。
私が最近会った知人というのは、その中でも魔術の石に詳しく、黄金の虹色石という石を作成できるのだよ。原理は詳しく聞いていないのだが、その石を食べる事で不老不死になれるそうだ。丸呑みよりは粉末にした方が食べやすいと言っていたな。
……ふむ。どうしてその石が、虹色かつ黄金などと形容されているのか、疑問に思っているようだね。
答えは簡単で、石の色は確かに虹色なのだが、それとは別に、鉱物を黄金に変える能力を持っているからさ。触れた鉱物をことごとく黄金に変える、不思議な道具の一種。その分野では究極とされる作成物だ。
……え? 石を食べたら、体内の鉄分や骨まで黄金に変わってしまうのではないかって?
君は面白い事を言うものだね。それは単に見方が異なるだけだよ。
そもそも、黄金の虹色石の効果が二つある事を、おかしいと思わないのかね。食べる事で人間を不老不死にする効果と、鉱物を黄金に変える効果。
……そう、石の効果は、黄金化と不老不死化の二種類ではないのだよ。それら二つは、同じ一つの効果によって生まれているのだ。
石の本当の効果とは、物を最適な状態にする事……しかも人間の価値観で最適だとされる状態にする事、だ。だから人体は不老不死となるのだし、鉱物は価値が高い黄金となる。でなければ、黄金などという柔らかい鉱物に変化する理由がないだろう。もし銅が黄金と同じように高価な物とされていたならば、鉱物は銅に変わっていただろうね。
そしてその効果があるゆえに、不老不死を保つためには、黄金の虹色石を何度も食べなければならないのだよ。元から変化に乏しい黄金とは違って、人間の体は老化する。いったん不老不死となっても、いずれ劣化して普通の体に戻るだろう。私の知人も、定期的に石を食べて、体を最適化し直しているそうだよ。
もちろん、黄金の虹色石はあまり公にされていない。もし黄金があちこちで大量に生まれれば、それだけ黄金の価値は値崩れする。すると、価値ある物に変えるという条件の石は、途端に効果を失ってしまうのだよ。それは不老不死だって同じだ。不老不死が人間にとって珍しく、価値ある物でなければ、石は人間を不老不死にできなくなる。
価値に依存した道具にとって、秘められ珍しい物であるという事は大切なのだ。
それにこの石は、使い手を選ぶ。その人にとって最善の価値ある状態へ変える、という効果だからね。もしも普通の人生が最高だと思っているならば、石を食べても不老にも不死にもなれないだろう。どころか死にたいなどと思っていたら、まあ死んでしまうだろうな。
だから私の友人は、それを使って無償で難病を治して旅しているらしい。彼ら夫婦も親切なものだよ、全く。