(1)
「で、御神さん」
「ん?」
「どうしたらいいんですかね、これから」
影裏の書棚から引き抜いたいくつものファイルを机の上に並べ、まるで小説でも読むかのようにしっとりとファイルを優雅にめくる臨時の上司に私は問いかける。
「どうしたらいいか、少しは考えたのかい?」
「え? いやー特に」
「さすがはゆとり刑事。委ね精神全力だね」
「あざっす」
「褒めてないよ、ひとかけらも」
とか言いながらも御神さんの声音も表情にも全く怒りや戒めは含まれていない。もう私の特性というか、性格みたいなものは完全に分かってますからと言った感じだ。
「さっきから何読んでるんですか?」
「昔の事件のファイル。さすがに見れば分かるだろ?」
「はい。でもなんでそんなもの見てるのかなーと思って」
「似たような事件がいくつかあった気がしたから、参考になるかなと思って」
「ふーん……私もちょっと見せてもらっていいですか?」
「どうぞどうぞ」
私はぺらりとファイルを捲る。
先程見たいくつもの影裏案件同様、やはり一見するとそんな馬鹿なと思うような内容が真面目に記載されている。御神さんが参考にと思って用意した資料だが、どうにも現実と受け入れ難い内容を脳は素直に認めようとしない。
私が読んでも仕方ないかと思い、開いたファイルを早々にぱたりと閉じる。
――ってかさ……。
そもそもだ。
現場経験のない私がだ。通常の事件ならいざ知らず、何故にこんな複雑怪奇そうな意味不明な事件解決を手伝わなければならないのか。
事件に向き合うという現実。これは紛れもない現実なのだが、全く気乗りしない。当たり前だ。もともとやる気もないのだから。ため息をいくらついてもつき足りない。
「まあ元気出しなよ。君に全てを解決してもらおうなんて、僕も思ってないよ」
私の心を見透かしたように御神さんが救いの言葉を差し伸べる。
「あざっす」
「君、元の部署でもそんな挨拶の仕方してるの?」
「え、あーはい」
「そうか。まあいいけど」
しばらくして御神さんも見ていたファイルを閉じ、うーんと顎元をさすりながら何やら思考を巡らせていた。
「分からないね。これだけじゃ」
もしかしてこの人ならすぱぱんともう解決してしまうんじゃないか、なんて私の期待はあっけなく砕かれた。
「そう簡単にはいかないですか」
「いかないもんだね。ヒントも手掛かりもなさすぎる。事故か事件かも分からないよ」
そうしたら、と口に出しながら御神さんは椅子から立ち上がり背筋をぐいっと伸ばした。
と思っていたら、唐突に。
「じゃあ、行こうか」
なんて言うものだから、私は間抜け顔全開になってしまう。
「へ? どこに?」
「ヒントを探しに」
御神さんはスタスタと扉の方に歩いて行ってしまうので、私は慌ててその背中を追いかける。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよー!」