(9)
語り終えた神山の表情は清々しいものだった。
やるべき事を、語るべき事を、全て終えた。もう何も心残りはない。そんな様子だった。
「ひどく、自分勝手ですね」
やがてぽつりと、御神さんが口にした。
「だよな」
ふっと神山は笑った。
「復讐と償い、それだけなら私達が関わる必要はなかった。でもあなたは、この事件を自ら影裏案件として流した。私達でなければならない理由。今分かりましたよ。それが証明の為だったのですね」
「そういう事だ」
私は分からず思わず口を挟んだ。
「どういう事ですか?」
御神さんは私を一度ちらっと見てから、視線を神山へと戻した。
「自分が神山忍である事を証明する。それは、普通に生きている限り、あなたには一生無理だった。いくら声高にそれを叫んでも、それを信じる者などいない。しかし、私達は違う。非日常を日常とする私達になら、その声が届くかもしれない。そう思った」
「影裏の事は警察に属してから噂ではよく聞いてた。だが実在すると聞いて驚いた。俺はそっち側の住人だからな。興味があって調べさせてもらった。あんたの事もな」
「それで私の事を知っていたんですね」
「全てにけりを付ける事を考えた時、思い付いたんだ。あんたになら届くだろうと」
「結局、全部あなたの思い通りになったというわけですね」
「おかげさまで。まあちょくちょく梃入れはしたけどな」
「梃入れ?」
「常時張り付くのは無理だったが、たまに見させてもらってたよ」
「ああ、そういう事ですか」
またも私だけが置き去りになる。それを察した御神さんが私にも分かるように説明してくれた。
「君はたびたび感じていただろ。付き纏われているような気配に」
「え、まさか……」
「彼だったんだよ。彼が憑依を使って僕らの近くの人間に入り込んで、見ていたんだよ」
私はあの気配の正体を今の今まで豊さんのものだと思っていた。
違った。あれは、神山だったのだ。
「しかしすごいですね。あれほど距離が離れているというのに」
「魂にとっちゃ、しれた距離だ」
関東から新潟。その距離をやすやすと飛んで憑依していた。そこで一つ思い出した。
GPS。あれで神山は私達の位置を把握していた。それはおおよその位置把握だけではなく、憑依で飛ぶ為の指針にもなっていたのだ。
「だからこそ、豊さんを殺す事も出来た。しかし、何故彼を殺したのですか?」
「あいつは自分の息子が俺を殺したって事を分かってなかったからな。それに、復讐に感謝だなんてえらくひどい勘違いをしてくれていた。お前の為じゃないって事を分からせてやったんだよ」
歪んでいる。そう思わずにはいられなかった。妹尾先生に見せる優しい一面。しかしその反面恐ろしい程の憎しみも抱えている。悲しい程に。
「それで、生き残ったあなたはこれからどうするつもりなんですか」
神山は笑っていたが、どことなく、悲しげだった。
「復讐は終わった。証明も終わった。だが、償いは終わりじゃない」
「償いですか」
「あんたも言ったが、俺は本当に自分勝手だ。先生の為のつもりだったが、ずいぶん迷惑をかけちまった。先生に必要だったのは俺達への復讐だけだ。罰なんていらない。罰が必要なのは俺だ」
「それも、最初からそのつもりだったんですね」
「先生の魂は、もうここにはない。完全に俺が今乗っ取ったからな。先生には、もうゆっくり休んでもらう。後はここで、俺は償い続ける。自分勝手な俺なりのけじめだ」
全てが語られた。
本当の終わりが、ようやく訪れた。
「ほんとに、自分勝手が過ぎますよ」




