(8)
刑事という職を私欲の為に使ったのは初めてだった。だがそれが今の先生を知るにはうってつけの道具だった。
先生は千葉にいた。教職からはすでに離れていた。結婚もしているようだったが、夫はどうやら重い病に伏しているようだった。
久しぶりに見た先生は、見る影もないほどに老い、疲れ果てていた。
「先生」
声を掛けてはいけないと思った。それはルール違反で、資格もない恐れ多い行動だった。
虚ろな目が、俺を見つめた。
「……三原君」
この人に、もうちゃんと名前を呼んでもらえる事もないんだな、そう思うととてつもなく悲しかった。しかし、それでは終わらなかった。
「今さら謝ったって許さないわよ」
「……」
「あんた達のせいで、昌彦君は死んだの。人殺し」
それだけ言うと、先生は背を向け去っていった。
俺は茫然と立ち尽くした。
――そうだよな、先生。
分かっていたつもりだった。だが改めて言葉を真っ直ぐに向けられると、抉られるような、想像以上の痛さだった。
先生は、俺達をずっと恨み続けていた。イジメを起こした俺達を。
俺は、二度も先生を傷つけた。昌彦を虐め、そして、殺した。
ずっと先生の中に、その傷は残り続けた。
――先生は、何を望む。
俺は考えた。
向きは違えど、俺と先生の求めるものは、似通っている。
――あいつらも、死ぬべきだよな。先生。
それが復讐。
そして俺も殺されよう。
それが償い。
――でも、一つだけいいかな。
死ぬのなら、最後は俺でありたい。
三原栄治ではなく、神山忍である事の証明。
その心残りだけは残したくなかった。
――先生、ごめんな。