(6)
死に場所は小学校がいい。
氷鬼をしていた時、鬼役はよくこの大木で数を数えた。この木を使おう。自然とそう思った。
木の前に座り、意識を飛ばした。
昌彦の家に飛んだ魂は、暗い部屋の中ベッドに横たわるあいつを見つけ、早速体を奪った。
昌彦を操り、小学校までおびき寄せた。事前に用意した縄を木に引っ掛け、そして首を通した。その瞬間に魂を自分の元に戻した。憑依すれば、五感も共有される。憑依したままでは苦しみも共有してしまう。俺までわざわざ苦しむ必要などない。
「うぎっ……!? ぐえええぇ」
聞いた事もない声が昌彦から漏れ出た。
お前だって俺を殺したんだ。殺されても文句言えないだろう。昌彦が苦しむ様を、俺はじっと眺めていた。
やがて、昌彦は動かなくなった。だらんとした、全身。
俺は、事前に用意していた手袋をはめた。指紋というものから犯行がバレるという事をテレビで見た事があるのでその為だ。そして、包丁を握った。
――この手のせいで。
殺したらそうしてやろうと思っていた。
ぶら下がる昌彦の前に立ち、包丁を振り上げた。
――待てよ。
どうせなら、こいつに斬らせよう。そうだ、それがいい。
そんな事が出来るのか、よくも考えずにもう一度昌彦の体に入った。
感覚はほとんどなかった。昌彦の体はほとんど死んでいたが、まだ動かす事は出来そうだった。
何度も包丁を振り上げ、手首に叩きつけた。何度かその動作を繰り返して、ようやくぼとりと手首が地面に落ちた。
俺はそれを拾い上げた。
終わった。こいつはもう二度とこの手を使えない。俺はまじまじと手首を見つめた。
気付けば魔力めいた魅力に、俺は目を離せなくなっていた。
ふと、これはまだ使えるんじゃないか、そんな考えが頭を過った。それこそ手首に導かれるように、気付けば俺は学校から少し離れた廃屋の地下に手首を隠した。ここはよく、秘密基地のように使っている場所だった。
――お前の力は、俺のもんだ。
支配欲のような何とも言えない喜びが底からこみ上げた。




