(3)
「三原君が……?」
彼女は知らなかった。まさか自分が殺した復讐の相手が、その復讐を手伝っていた事を。
「彼は後に梅﨑栄治という名前に変わっています。彼は警察官でね。私の横にいる彼女、安部さんの先輩に当たる人物でした。彼は殺される前、自分が事件を引き起こしたと自供しました。そして、あなたに殺される事も」
三原栄治は中学の時に親が離婚した。母方に付いていく事になった時、実家が関東にある事から、そちらの中学に移った。その際、母の旧姓である梅﨑に名が変わったのだった。
「殺されると分かって、私に?」
「それも含めて、彼の計画だったんでしょう。おそらくは、あなたへの償いとして」
“俺で最後だ。これで全部終わりだ。あなたが憎んだ人間は、これで全部消えてなくなる”
自分自身も最後に殺される。そんな究極の自己犠牲を伴った今回の事件は、表面上の犯行内容も常識を超えているが、その裏に隠された想いも私の常識を超えていた。
あのセリフは自分が憎まれている事も承知の上で、それでも復讐を遂げさせてあげたいという最後の償い。
梅﨑先輩が妹尾先生に見せた表情。そこにあったのは確かに優しさだった。
“ありがとう。そして、本当にごめんなさい”
悲しい程の笑顔。あれこそがこの事件の一つの答えだった。
「この事件は、過去に武市君を虐めていた事に対しての償いを持つ生徒、そしてその事を悔い続け復讐心を育て続けた教師。二つの想いが重なって起きた」
だが、謎はまだ全て解けていない。
「それが、次沢、内原、畑山、三原、四名の死の真相。しかし、残っている死がまだあります」
「残っている死?」
「武市君の父親、豊さんの死です」
首を吊って死んだ豊さんの死。あの死も、無関係なものではないというのが私達の見解だった。
「彼は首を吊って死にました。私達は死ぬ前日に彼に会っています。私達が見た限り、彼に自殺を匂わせるような空気はありませんでした。奇しくも息子である武市君と同じ死に方です。果たしてこれは偶然か。私は違うと思っています。何らかの理由があって殺された」
そして御神さんが導いた結論は、とんでもないものだった。それは、影裏という場にずっと身を置き続けた者だからこそ導けた答えと言える。私では、いや、常識ある者では、決して辿り着けないだろう、あまりにも突飛な結論。
「順序よく、と言ったものなので我慢していますが、そろそろやめませんか。あなたも疲れるでしょう」
御神さんはまるでそちらもくつろげと言わんばかりに、パイプスイスにだらしなく背中を預けた。
「そこにいるんでしょ? もういいですよ」
彼女の目は推し量るようにじっと御神さんを見つめていた。
そんな事があるのか。私はまだその答えを信じられずにいた。
御神さんは、彼女の目を見ながら呼びかけた。
「妹尾さんの体はまだ慣れないでしょう。出てきてくださいよ。ミハラエイジ君」
しばしの沈黙。
しかしやがて、彼女の口がぎっと上に歪んだ。
イタズラがバレたような、悪い笑顔だった。