(1)
あれから数日が過ぎた。
時間というものの偉大さを感じた。あれほどざわめきだった心も、今ではだいぶと落ち着いていた。
唐突に事件は終わりを告げた。
梅﨑先輩の鼓動は止まり、彼の死が確認された。そして妹尾恭子の身柄は拘束され、今彼女は刑務所の中にいる。
先輩の口から答えを聞く事は出来なかった。しかし、いくつか分かった事もあった。
「一緒だな」
先輩の死体は御神さんのお達しで白鞘さんのもとへと渡された。
結果、死因は筋肉硬直による窒息死。そして残された指紋。白鞘さんはかなり武市君の手首に触れる事に抵抗があったようだが、それでも仕事は的確にこなしてくれた。
指紋は次沢達の身体に残されたものと一致した。
「触れると死ぬ手か。信じられねえが、この手見てると説得力はあるな」
温度も血流もない真っ白な手首に一切の腐敗はなく、一見すると精巧な造り物とも思えるほど綺麗なものだった。しかし、組織や血管や表皮は間違いなく人のそれで、もともと生きた人間の手についていたものである事も証明された。
死人の手。
仮説は合っていたのだ。触れると死ぬ。それはまるで、氷鬼に捕まった者のように。
ずっと半信半疑だった。しかし、私は目の前でそれを見た。梅﨑先輩が死んでいく姿。
その場で立ったまま固まって死んだその姿を。
事件は終わった。しかし、あまりにも分からない部分が多すぎる。強制的に幕を下ろされた事件の真相は、あまりにも歯抜けなものとなっている。
おそらくもう死者は出ないだろう。その代りに、全ては迷宮入りだ。私の心は暗雲としたものだった。
「元気ないね、ゆとりくん」
なのに御神さんは相変わらずだった。
「どうしてそういつも通りでいられるんですか」
「逆に、どうしてそんなに落ち込んでいられるんだい?」
私は思わず顔を上げた。御神さんは諦めたわけでも屈したわけでもない。その声は、いつも通り毅然としており、事件を有耶無耶になどしない気高さがあった。
「……まだ、希望はあるんですか?」
「当たり前じゃないか」
この人は、おそらく行き着いたんだ。私が諦め、絶望した真実に。
「だってまだ、生きて話せる人がいるじゃないか」