表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凍り鬼  作者: greed green/見鳥望
最終章 氷解
61/70

(1)

 あれから数日が過ぎた。

 時間というものの偉大さを感じた。あれほどざわめきだった心も、今ではだいぶと落ち着いていた。


 唐突に事件は終わりを告げた。

 梅﨑先輩の鼓動は止まり、彼の死が確認された。そして妹尾恭子の身柄は拘束され、今彼女は刑務所の中にいる。


 先輩の口から答えを聞く事は出来なかった。しかし、いくつか分かった事もあった。


「一緒だな」


 先輩の死体は御神さんのお達しで白鞘さんのもとへと渡された。

 結果、死因は筋肉硬直による窒息死。そして残された指紋。白鞘さんはかなり武市君の手首に触れる事に抵抗があったようだが、それでも仕事は的確にこなしてくれた。

 指紋は次沢達の身体に残されたものと一致した。


「触れると死ぬ手か。信じられねえが、この手見てると説得力はあるな」


 温度も血流もない真っ白な手首に一切の腐敗はなく、一見すると精巧な造り物とも思えるほど綺麗なものだった。しかし、組織や血管や表皮は間違いなく人のそれで、もともと生きた人間の手についていたものである事も証明された。


 死人の手。

 仮説は合っていたのだ。触れると死ぬ。それはまるで、氷鬼に捕まった者のように。

 ずっと半信半疑だった。しかし、私は目の前でそれを見た。梅﨑先輩が死んでいく姿。

 その場で立ったまま固まって死んだその姿を。


 事件は終わった。しかし、あまりにも分からない部分が多すぎる。強制的に幕を下ろされた事件の真相は、あまりにも歯抜けなものとなっている。

おそらくもう死者は出ないだろう。その代りに、全ては迷宮入りだ。私の心は暗雲としたものだった。


「元気ないね、ゆとりくん」


 なのに御神さんは相変わらずだった。


「どうしてそういつも通りでいられるんですか」

「逆に、どうしてそんなに落ち込んでいられるんだい?」


 私は思わず顔を上げた。御神さんは諦めたわけでも屈したわけでもない。その声は、いつも通り毅然としており、事件を有耶無耶になどしない気高さがあった。


「……まだ、希望はあるんですか?」

「当たり前じゃないか」


 この人は、おそらく行き着いたんだ。私が諦め、絶望した真実に。


「だってまだ、生きて話せる人がいるじゃないか」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ