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凍り鬼  作者: greed green/見鳥望
七章 鬼
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(5)

「まさか、ここで自白してくるとはね」


 私達は梅﨑先輩の送ってきた地図の場所へと急いでいた。ポイントを見た御神さんは、すぐにそこが次沢の死んだ場所である事を察した。


「その先輩って、確か僕達にこの案件を直接回してきた人だよね?」

「はい。でもまさか、先輩が絡んでいたなんて……」

「どういうつもりなんだろう。わざわざ僕達に最後を見届けろなんて」

「分かりません。ぜんっぜん分かりません! GPSなんかつけさせて、ずっと私達の事監視して。全部知っていながら! そういえば、先輩は御神さんの事知ってる口振りでしたけど、御神さん、知ってますか?」

「いや、まったく。初耳だよ。彼は一方的に知っていたようだね。彼の言いぶりだと、僕らも彼にとっては駒の一部。という事は、影裏として事件を明らかにさせる事に、何か意味があるのかもしれない」

「直接会って聞きましょう。考えるのもバカらしいです」

「怒ってるね」

「そりゃそうですよ! だってムカつきません!?」


 そう言うと、御神さんはすっと真顔になった。


「ムカつくね。とっても」


 激情を封じ込めたような静かな声音。

 背筋が凍った。御神さんの怒りは私の比ではなさそうだった。


「何が理由でこんな事をしたのか。しっかり話してもらおう」


 御神さんの根底にある正義。

 梅﨑先輩の行為は、その逆鱗に触れてしまったらしい。





 暗さと静けさが増す夜。公園に響くのは風と虫の音。次沢が死んだ公園は、嵐の前の静けさか、しんと静まり返っている。人の気配のない公園を歩く。

 先輩が示した地図の場所は間違いなくここだ。このどこかに、全ての答えを持った先輩がいる。


「誰かいるね」


 御神さんの言葉と同時に私はその存在に気付いた。

 頼りない街灯に灯されたベンチに腰掛ける何者か。しかし、その人物は私達が探している人ではなかった。


「女の人……?」


 カーディガンに、スカート。そして項垂れるように下がった頭から流れる長い髪。


「ひょっとして、彼女」


 御神さんも同じ事を思ったのだろう。思いつく人物は一人しかいなかった。


「あの人が、妹尾先生……?」


 女性は私達に気付き、顔をあげた。彼女の目は少しだけ驚いたように見開かれたが、そこからはほとんど生気を感じられなかった。


「あの――」


 声をかけようとした瞬間、彼女はすくっとその場から立ち上がった。そして肩から下げた鞄の中から何かを取り出した。その行動に私は一瞬身構えた。

 取り出したものが街灯の光のもとに晒される。

 今度は、私の目が見開いた。


「あなたが、持っていたんですか」


 彼女の手に握られた白い物体。それは、小さな手首だった。

 彼女はそれを、まるでその手の意志に従うかのように私達の方へと向けた。

 じりじりと彼女がこちらに歩み寄ってくる。

 

 あの手が、神山君を、次沢達を殺した。

 そんな馬鹿なという思いは完全に捨てきれていなかった。しかし、今その手首を前にして、私は恐怖していた。

 触れれば死ぬ。理屈ではなく、本能で感じ取った。


 殺される。


「先生、そっちじゃない」


 その時、奥の方から声がした。

 先生と呼ばれた女性の後ろから、男が一人歩いてきた。私のよく知る顔がそこにあった。


「あんたが殺さないといけないのは、俺だよ」


 全ての答え。この訳の分からない事件が今、終わりを迎えようとしていた。


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