(5)
「まさか、ここで自白してくるとはね」
私達は梅﨑先輩の送ってきた地図の場所へと急いでいた。ポイントを見た御神さんは、すぐにそこが次沢の死んだ場所である事を察した。
「その先輩って、確か僕達にこの案件を直接回してきた人だよね?」
「はい。でもまさか、先輩が絡んでいたなんて……」
「どういうつもりなんだろう。わざわざ僕達に最後を見届けろなんて」
「分かりません。ぜんっぜん分かりません! GPSなんかつけさせて、ずっと私達の事監視して。全部知っていながら! そういえば、先輩は御神さんの事知ってる口振りでしたけど、御神さん、知ってますか?」
「いや、まったく。初耳だよ。彼は一方的に知っていたようだね。彼の言いぶりだと、僕らも彼にとっては駒の一部。という事は、影裏として事件を明らかにさせる事に、何か意味があるのかもしれない」
「直接会って聞きましょう。考えるのもバカらしいです」
「怒ってるね」
「そりゃそうですよ! だってムカつきません!?」
そう言うと、御神さんはすっと真顔になった。
「ムカつくね。とっても」
激情を封じ込めたような静かな声音。
背筋が凍った。御神さんの怒りは私の比ではなさそうだった。
「何が理由でこんな事をしたのか。しっかり話してもらおう」
御神さんの根底にある正義。
梅﨑先輩の行為は、その逆鱗に触れてしまったらしい。
*
暗さと静けさが増す夜。公園に響くのは風と虫の音。次沢が死んだ公園は、嵐の前の静けさか、しんと静まり返っている。人の気配のない公園を歩く。
先輩が示した地図の場所は間違いなくここだ。このどこかに、全ての答えを持った先輩がいる。
「誰かいるね」
御神さんの言葉と同時に私はその存在に気付いた。
頼りない街灯に灯されたベンチに腰掛ける何者か。しかし、その人物は私達が探している人ではなかった。
「女の人……?」
カーディガンに、スカート。そして項垂れるように下がった頭から流れる長い髪。
「ひょっとして、彼女」
御神さんも同じ事を思ったのだろう。思いつく人物は一人しかいなかった。
「あの人が、妹尾先生……?」
女性は私達に気付き、顔をあげた。彼女の目は少しだけ驚いたように見開かれたが、そこからはほとんど生気を感じられなかった。
「あの――」
声をかけようとした瞬間、彼女はすくっとその場から立ち上がった。そして肩から下げた鞄の中から何かを取り出した。その行動に私は一瞬身構えた。
取り出したものが街灯の光のもとに晒される。
今度は、私の目が見開いた。
「あなたが、持っていたんですか」
彼女の手に握られた白い物体。それは、小さな手首だった。
彼女はそれを、まるでその手の意志に従うかのように私達の方へと向けた。
じりじりと彼女がこちらに歩み寄ってくる。
あの手が、神山君を、次沢達を殺した。
そんな馬鹿なという思いは完全に捨てきれていなかった。しかし、今その手首を前にして、私は恐怖していた。
触れれば死ぬ。理屈ではなく、本能で感じ取った。
殺される。
「先生、そっちじゃない」
その時、奥の方から声がした。
先生と呼ばれた女性の後ろから、男が一人歩いてきた。私のよく知る顔がそこにあった。
「あんたが殺さないといけないのは、俺だよ」
全ての答え。この訳の分からない事件が今、終わりを迎えようとしていた。




