(4)
『なんだ?』
相変わらず不機嫌な声だった。だが、不機嫌で言えば比べものにならない程、私の機嫌は最高に悪かった。
「どういうつもりですか。梅﨑先輩」
その一言で十分だったのか。何かを察した先輩は、くっと小さく笑った。
『やっと、辿り着いたか』
頭が沸騰しそうだった。ここが新幹線の中じゃなければ、思いっきり怒鳴り散らしたい気分だった。
中学の事務員が梅﨑栄治の名前を口にした時、アルバムを見た時の自分の感覚が間違っていなかった事を知った。
三原栄治は梅﨑栄治の面影を残していた。当然だ。同一人物だったのだから。
「説明してくださいよ、先輩」
『一言じゃ語り尽くせねえな』
「ふざけないでください」
『ふざけてねえよ』
「あなたが、三原栄治だったなんて。なんで、隠してたんですか」
『聴かれなかったからな』
まるで子供だ。なめきった態度は私の怒りを増幅させた。
「分からない事だらけなんです。それでも必死に動いて、考えて、辿り着こうとしたんです! なんでその先に、あなたがいるんですか!」
繋がりそうだった事件の輪を、いっさいがっさい否定して踏み潰したくなる。でも先輩の口調と言葉は、既にその輪を認めている。しかも、そこに深く関わっている。
『戻ってくるんだろ、こっちに』
「え?」
『GPS、言いつけ守ってくれて助かったよ』
くそ。ずっと監視されてたのか。それは警察のルールなんかじゃなく、先輩の手駒として。
『全部教えてやるよ』
「今教えてください」
『焦るな。俺で最後なんだ』
「俺で最後? ……どういう意味ですか」
『ちゃんと見届けてくれよ。その為にお前らを動かしたんだから』
ぶつっと電話が切れた。
全部全部、手の上で転がされていただけだったんだ。梅﨑先輩の言葉は、完全な自供だった。
「……ふざけんな」
唐突に現れた答え。しかしその間を埋める数式は憶測だらけで、どれだけの穴があるかもわからない程の泥船だ。
携帯がまた震えた。今度はメールだ。アドレスは先輩のもので、中にはリンクが一つだけ貼られていた。ページは地図だった。場所は江戸川区。次沢の住所付近であり、彼が死んだ区域。そこが先輩の言う、最後の場所なのだろう。
悔しさと怒りと訳の分からなさで心がぐしゃぐしゃになりながら、私は自分の席へ戻った。




