(3)
次の犠牲者の可能性が高い三原君。
そして千葉にいるという妹尾先生。関東エリアにいるという事。そして全員が彼女の元教え子。
復讐。何度か出て来たその言葉が、再び頭の中に湧き起こる。
もし、クラスで起きたイジメについて、武市君が死んだ事に彼女が恨みを抱えていたとすれば。
犯人像として考えた時、あまりに綺麗に全てがはまっていくように思えた。
「一人は、妹尾先生」
「おそらくね」
彼女が、武市君の手を使って、三人を殺した。
しかし疑問は晴れない。どうやって彼女は手首を手に入れたのか。死後自ら斬りとった手首の謎。
ぶるると、ポケットの携帯が震えた。番号は猪下南中学のものだった。
「すみません、電話です。猪下南から」
新幹線の中の為、私は手帳と共に座席を立ち通路へと移った。出ると、声の主は私が電話をかけた時の男性事務員だった。
『三原という生徒に関して分かりましたので、ご連絡させて頂きました』
「ありがとうございます」
手帳を開き、メモをとる準備をする。
『三原栄治という生徒はおりませんでした』
「え、そんなでも……」
予想していない答えだった。転校したのは間違いないはずだ
しかし私の狼狽をなだめるように事務員は声を和らげた。
『いえいえ。なので私もおかしいなと思いましてね、よく調べたんですよ。そうしたら、そういう事かと納得しましてね。多分この生徒の事だろうと思うのですが、お伝えしますね』
「はい、お願いします」
そして事務員は、生徒の名前を私に告げた。私は一瞬耳を疑った。
「……すみません。もう一度、言ってもらってもいいですか?」
『はい? あ、ええ。分かりました』
もう一度。
聞き間違えではなかった。
「……ありがとうございました」
礼を言って、電話を切った。
偶然だ。偶然に違いない。私は急いである場所に電話をかけた。女性の声がかえってきた。
「すみません、ある人の履歴書を調べてもらいたいんですけど」
『ウチの中にいる人の、ですか?』
「はい」
『そんな事急に言われても困りますよ。個人情報の扱いは近年特に――』
「至急なんです! 何かあったら後で責任は私がとります! 人が死ぬかもしれないんです!」
『……人が?』
「はい」
『……私は何も知りませんからね。何も見てないし、何も言っていない。それでいいですね?』
「はい」
私はその人物の名前を伝えた。「すぐに調べます」と通話が保留音に切り替わった。ほどなくして、声が戻った。
『ありましたよ。それで、何が知りたいんです?』
「その人の学歴を教えてもらっていいですか?」
『分かりました』
淡々と彼女は履歴書に記載された学校名を読み上げていった。
すぐさま答えは出た。
――……何なのよ。
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
『いえ。すみません、ところで……安部刑事ですよね? そんな事知ってどうするんですか? 気になる男性、ってわけでもないですよね。さっき人が死ぬなんて言ってましたし。それに、あなたなら――』
「ごめんなさい、そんな事話してる場合じゃないの。とにかく、ありがとう」
彼女の声がまだ受話器から漏れているのも構わず、私は通話をきった。
――ほんと、いい迷惑。
ふざけるな。どういうつもりだ。
――何様のつもりっすか。
私は、再び電話を耳にあてた。




