(1)
武市豊の自宅前には、早朝から警察の人間が出入りし、物々しい雰囲気となっていた。
報せは、影裏からだった。
武市君の事について調査をお願いしていた事もあり、連絡をくれたようだ。ただし、現状影裏案件というわけではないので、彼ら自身が現場に来る事は出来ないとの事だった。加えて、管轄外かつ影裏所属である御神さんと私が現場に入る事は難しい。その為、私達は家の前でただただ野次馬に混じってその様子を見守る事しか出来ないという状況だった。
「どうして、自殺なんか……」
豊さん。怒りと憎しみを孕んだ目。最後に見せた悲しげな表情。最初は不審に満ちていたが、最後には三原君の名前を出し、協力の姿勢を見せてもくれた。とてもじゃないが、死ぬなんて空気はどこにもなかった。
しかも首吊り。それは息子である武市君と同じ死に方だ。
「本当に自殺なのかな」
「え?」
御神さんの言葉の意味がよく分からなかった。
「自殺じゃないって言うんですか?」
「心の底から自殺って思えるかい?」
そう言われれば、言葉に詰まった。御神さんの言葉は、私の心を完全に見透かしていた。
「ゆとりくん、今の君なら感じ取れているはずだ」
「……何を、ですか?」
「この事件を引き起こしている者は誰か」
「そんな、犯人なんて分からないですよ。っていうか、犯人なんて本当にいるんですか?」
事件の繋がりは見えてきた。だが犯人という現実の存在を意識した途端、急に世界がぼやけ、その先が見えなくなった。
「いる。間違いなく」
しかし、御神さんは違う。御神さんにはその先の世界が見えている。
「全ての死は間違いなく繋がっている。猪下小から始まっている何らかの因縁の輪に。そしてそれは豊さんの死も同様だ」
豊さんの死。自殺に見えるこの死も、何者かの作為だと言うのか。
「戻ろう。僕らが求めている答えは近いはずだ」