(9)
何なんだ一体。どうなってるんだこの事件は。踏み込めば踏み込む程、今までの常識が簡単に覆っていく。
ここまではまだ何とか頭を整理しながらやってこれた。だがとうとう、動く死体なんてものが現れた。いくらなんでも無茶苦茶すぎる。死人が動くだなんて、もはやホラー映画じゃないか。ゾンビや幽霊だとでも言うのか。でもこれは影裏という正式な部署によって出された答えだ。つまりは事実だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「うー……」
私は思わず頭を抑えてうなった。
「大丈夫?」
「……ちょっと時間をもらえれば」
とは言え、受け入れる事しか許されない結果だ。うなった所でどうにもならない。この結果を軸として動いていかなければならない。
「これは確かに、難しい問題だね。僕も死人が動くケースには出会った事がないからね」
「そうなんですね」
「だからと言って、ないがしろにされるのはどうかと思うけどね」
「どういう事ですか?」
「この件、一度影裏案件になったにも関わらず、最終的には通常の警察の処理に引き渡されているんだ。つまり、影裏で解明出来ずに終わっているという事だ」
「……まさか、未解決で処理されてるんですか?」
「許されない事だけどね。けど、確かにそうなってしまう案件がないわけじゃない。有耶無耶にされて終わってしまっているケースもあるにはある」
「そんな……」
「そのツケが巡ってきているのかもしれない。当時に解決していれば、今これだけの死人が出る事もなかっただろう。これは、影裏の面目という意味でも、絶対に解決しないといけないね」
先人の尻拭いか。全く、情けない話だ。だがそんな事は私の知った事ではない。いくら今さら過去の手抜きを罵った所で何も解決はしないのだから。
「それと、妹尾先生の事についても少し分かったよ」
彼女の経歴が少しだけ分かった。妹尾先生は茅ヶ崎教頭が猪下小を離れた後、程なくして彼女も小学校を離れていた。それがちょうど武市君が死んだ年の事だった。
「そろそろ、出戻りですかね」
「いや、三原君について確認してからだね。同じ出身なら実家もこちらのはずだ。それに神山君もだ。戻るのはそれからだね」
「あ、はい」




