(8)
「すごい事が分かったよ」
「すごい事?」
そう言いながらも御神さんの様子は言葉ほどの感情はなく、全くすごさを感じさせないさらりとした口調だった。
「影裏からだ」
「それは確かにすごそうですね」
「まだ何も言ってないよ」
「いや、影裏って時点で十分にすごそうですよ」
「武市君の自殺の件について連絡があってね。まあ、あまり嬉しくない情報もあったんだけど」
「どういう事ですか?」
「順番に話をしようか。まず彼の自殺については、その不可解さもあってやはり影裏案件としても扱われていたようだ。そこで彼の死体も調べられた。そこで出た結果は、やはり彼は自分自身で命を絶っている」
「自殺ではあると」
「少なくとも、他人に首を絞められたわけでも、吊るされたという訳でもないようだね。そして、問題の手首についてだけど」
「はい」
「調べた結果、彼の手首は、彼自身が斬り落としたようなんだ」
「え!?」
どういう事だ。自殺すら不可解だというのに、その上自分で自分の手首を斬った。
訳が分からない。何の為にそんな事をしたんだ。彼の意志で自殺を行ったとして、何故その前にわざわざ苦痛を伴うような行為を行ったのか。全く理解が出来ない。
「彼の手首の切り口は、自分の左腕で右手首を斬り落としたと思われるものだったそうだ。もちろん違う考え方も出来る。二人羽織りのように、誰かが彼の左腕を握ってそのまま振り落とした、なんて考える事も出来る。けど、それはあまりに不自然だ。そんな事をするなら、武市君の手ではなく、自分の手ですればいいはずだからね」
「確かに……」
「でも、驚くべき事はここからだ。現場にはほとんど血痕が残っていなかった。普通手首を斬りおとすなんて事をすれば、かなりの血が流れるはずだ。しかしそれがなかった。それは何故か」
「……何です?」
「手首は死後に斬り落とされたからだ」
「ええ!?」
すごい事とはこの事か。影裏の時点で常識の範疇外な答えである事はある程度予想していたつもりだったが、それでもあまりに突飛すぎる。
自分で斬った手首。しかもそれが死後の話。
「……って事は」
その次の言葉が、自らの口から出て来ない。
嘘だ。あり得ない。口にするのが躊躇われるような答え。その答えを御神さんが引き継いだ。
「事実をそのまま読み取るなら、首を吊って自殺した武市君は、死んだ後に自分で手首を斬りおとした、という事になるね」




