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凍り鬼  作者: greed green/見鳥望
第一章 影裏
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 そもそも影裏案件というものがどういうものなのか。今の時点ではまだ全貌は分かっていない。

 けれど、受け取った書類に書かれている内容は至って真面目であり、かつとてつもなく不可思議なものだった。

 

 案件として記載されている内容をざっくり説明すると、この一ヶ月の間でとある二人の人間が死亡しているというものだ。

 一人は次沢兼人つぎさわかねと。もう一人は内原直樹うちはらなおき。ここまではよくある、という言い方をするのはどうかとも思うが普段目にするような事件やニュースな感じだ。しかし、問題は二人の死に方だ。


 まず一人目の次沢兼人。

 いつものように夜のジョギングをしていた男性が、ベンチに座っている次沢兼人を発見。不審に思って声を掛けた所、反応がなく脈もない事で警察に連絡をしたとの事。

 静かに座ったまま、ぼーっと公園を見つめる様は生きているかのようにも見えたが、その肌色は青白く、ひと肌と呼ぶにはあまりにも生気は失われていた。


 二人目の直樹についても、夜道で電信柱に寄り添って立っている姿を不審に思った女性が近づいた所、既に絶命していたという状態だった。

どちらも一目見ただけでは死んでいるようには見えない死体。


 そしてこの二人の人間の死因は、共に窒息死。

 地上にいながらにして、一人は静かに座りながら、もう一人は立ちながらの窒息死。もうこの時点で奇妙極まりないのだが、トドメに全くの外的要因もなければ内的要因もないという目を疑うような事実。つまり、窒息に繋がるような形跡も痕跡も全くないという事だ。

 どういう事なのか。何の前触れもなく人が窒息死する。そんな事があり得るのか。実際この書類を見る限りそれはあり得てしまっている訳だが、あまりに奇妙だ。

 まず何が原因で窒息死に至ったのか。そして二人の死亡時の態勢。二人とも、窒息死というどう足掻いても苦しみを避けられない死に方をしているにも関わらず、ベンチに静かに座りながら、立ったままという苦しみもがいたとも思えない様だ。


 どうしてこの案件が通常通りに処理されずに、影裏なんて得体の知れない案件と回されたのか、これを読んで私は納得した。

 まっとうな形では処理出来ないからだ。

 まず二人の死が事件なのか、事故なのかすら判断がつかないわけだが、いずれにしても不可能とされてきた過去を塗り替え、未来を切り開いてきた科学や文明が、この二人の死の前で一度両手をあげたという事実がそこから読み取れた。


 とは言っても、正義を掲げる警察が何もせずに屈するわけがない。

 遊びで人は死んでいいのか。

 梅﨑先輩の言うように、あっていいわけがない。これが遊びかどうかも定かではないが、この奇妙極まりない案件を放置するわけにはいかないという事なのだ。


 しかしそんな鉄の正義とは裏腹に、私の心は冷め切っていた。


 ――だってこんなの、解決出来るわけないじゃない。


 事件、事故。どっちから見てもおかしな事だらけすぎる。常識はずれの突飛な案件。幾多の猛者が蔓延る刑事達が白旗をあげた化物案件を、なんで新米のゆとり全開でやる気のない私が処理しなければならないのか。


 ――知った事か。


 そうだ。知らない、知らない。

 こんなのどうせ私に解決出来っこない。だから今向かっている影裏という場所にいる人間に全て押し付けて私は黙って後ろで見ていよう。

いや、見る必要もないかもしれない。後は全部お願いしますと丸投げしておいて、いつもの業務に勤しんでしまうのが一番いい。梅﨑先輩に何か言われても、全て向こうにお任せしていますと言えばいい。ちゃんと案件の内容を伝えれば私の役目としては十分だ。私みたいなやつが現場に出た所で知れているし、もともと出る気もない。


 ――ああーもう早く帰りたい。


 今日は帰ってビールだな。

 暗い廊下を突き進みながら、帰宅後に待っている喉越しを夢想し、私はぷはーと息を吐いた。


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