(6)
「なに?」
「彼らの死は、昌彦君にとって喜べるものなのでしょうか」
豊さんから笑顔が消える。
「何が言いたい」
「一つお聞きしますが、武市君の口から、彼らを恨むような言葉はありましたか? 例えば、殺したいといった言葉は」
「……あいつは」
豊さんの表情が歪んだ。触れられたくない部分に触られたような不快さが滲んでいた。
「あなたは言いました。彼は自分を責めていたと。言い返すことも出来ない、弱い自分が駄目なんだと。いじめていた者を責めもせずに」
「……あいつは……」
「それでも前を向こうとした。何故そんな彼が死んでしまったかのは分かりません。あなたが言うように、手首の件も合わせれば、殺されたという考え方はあながち間違ったものではないかもしれません」
「……今更何を分かったような」
「そんな彼が、復讐を喜ぶでしょうか。感謝するでしょうか」
「……」
豊さんの体から邪気が引いていくように感じられた。鳴り続けていた警報が静かになっていく。
「豊さん」
「……何だ」
「私達警察は、あなたの前で無能を晒しました。しかし今度こそ、全てを解決します」
「口だけならなんとでも言える」
「今回の事件を解く事が、武市君の死の真相を解く事にも繋がると、私は思っています」
「……なんだと?」
「私達は、警察にあって警察ではない者です。世の常識に囚われません。武市君の死があり得ないものであったとしても、私達はそれを受け入れ、解明する事を諦めません」
力強い言葉だった。
喜美代さんの時のように、自らを偽る事を御神さんはしなかった。それが誠意の証に思えた。生半可な者が口にすれば、綺麗事にすらならない陳腐なセリフにも聞こえかねない言葉だったが、今まで常識に囚われず究明してきた者の、大いなる責任感と自負を兼ね備えた御神さんの言葉は、偽りを感じさせなかった。
「今更期待なんぞしていない」
「そう言われても、仕方はありません」
「ただ」
「はい」
「あいつは……確かに喜んでないかもな」
ふっと、豊さんの険しかった顔に深い悲しみがよぎった。
「……疲れた。帰って寝る」
「そうですか」
感じた危険はもうどこにもなかった。
「もう知っているかもしれないが」
既に私達に背中を向けていた豊さんが、唐突にそう口にした。
「もしあいつらの死に繋がりがあるなら、一人気になる奴がいる」
それは思ってもいない新たな事実への扉だった。
御神さんは、その扉に手を開けた
「誰ですか」
「ミハラエイジ」
現れたもう一人の人物。
「あいつら同様、昌彦のイジメに関わっていた奴だ」
つまり。
「まだ死んでないなら、次に死ぬのは、そいつかもしれない」