(5)
「武市君の、父親ですか」
「だったら何だ」
ぼさついた髪。ぎらついた目。この世の全てを憎み拒んでいるような目。
「あの家を訪ねてくるような人間はもう何年といない。何の用だ」
「武市豊さんですね。お聴きしたい事がありまして」
妙な動きをすれば即座に噛みついてきそうな獰猛な気配を前にしても、御神さんにたじろぐ様子はまるでない。私は小刻みに体を震わせながら、さすがだなと思った。
「ここ最近、猪下小学校の元生徒が立て続けに不審な死を遂げています。ご存じですか?」
「ああ、あのガキどもか」
「知っているのですね」
「当たり前だ!」
途端、目の前の男から咆哮が轟く。
「天罰だよ」
「天罰?」
男の口角が少しだけぐっと上がった。不気味さにそれが笑みだという事に私はすぐに気付けなかった。
「人の息子をいじめた上に、人殺し呼ばわりしやがって……人殺しはどっちだ!」
叫びはどこまでも真っ直ぐな恨みだった。
「お前らもか? お前らも、昌彦が人殺しだというつもりか? それで親の俺があのガキどもを殺したとでも?」
「そんなつもりはありません。事件を調べている中で、猪下小学校という共通点があったので、お話を聞こうと思っただけです」
「話だと? 今更何が知りたい。お前らは昌彦が死んだ時も、何も解決出来なかったじゃないか」
武市君の首吊り自殺。だがおそらく、豊さんは息子の手首がないあの状況を知って、自殺という見解を信じていないようだった。
「自殺、ではないと」
「確かにあいつはかなり塞ぎこんでた。自分のせいで神山ってガキが死んだんじゃないかって。周りは自分から距離をとって話しかけてくれなくなったって。学校にもどんどん行かなくなった。死ぬほど辛かっただろうってのは見てても分かった」
一番傍で武市君を見ていた人物の証言。自殺を感じさせる昌彦の発言。
「確かに最初は、とうとうやっちまったのかと思った。だがな、手首だ! あの手首は自殺だとしたら絶対におかしいだろ! 説明がつかねえだろ!」
自殺を揺るがす致命的な一点。それがあの手首だ。それは明確な答えが出されずまま、時だけが流れてしまった。
「自分で斬っただなんてふざけた事をぬかした奴もいたが、そんな事あり得ない。あいつは殺されたんだよ!」
そう解釈しても無理はない。警察がどう判断したのかは分からない。どう決着をつけたのかは改めて調べる必要があるだろう。しかしこれだけの年月が経ってしまっている事を考えれば、公には武市君の死については自殺という形で収められてしまったのだろう。
しかし、武市君の両親は違う。今目の前にいる父親にとって、彼の死は全く終わりではない。むしろ、報われぬ無限の苦しみの始まりだったと言えるかもしれない。
「いずれにせよ、あのクソガキ共を殺してくれた奴がいるなら、俺は感謝するよ。代わりに復讐してくれてな」
当然と言えば当然の感情だ。彼の不気味な笑顔も純粋な喜びの表れと素直に受け止めれば、その痛みに心が締め付けられた。
「復讐ですか」
御神さんの声が、ぽつりと落ちる。
「本当に、感謝してもいいのでしょうか」




