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凍り鬼  作者: greed green/見鳥望
六章 誘う手
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(2)

 御神さんと共に訪れたのは市の図書館だった。来てみてなるほどと思った。確かにここなら手っ取り早く必要な情報を的確に抜き取る事が出来る。虱潰しに歩いて回る事などせずとも、真実に近づける。


「歴史の宝物庫。便利な世の中になったよ」


 備え付けられた検索機の前に立つ。様々なキーワードから図書館内に保管されている様々な書物を探し出す事が出来る文明の利器。昔を知っているわけではないが、こんな機械がなかった頃は無数の書物の中から職員が人力で探しだしていたのだろう。なかなかに大変な作業だったはずだ。そう思えば、まったくもって便利な世の中になったものだ。


 猪下。小学校。中学生。自殺。


 思い付くキーワードと年代を辿るといくつかの検索結果が表示される。


「いくつかありそうだね」


 確認を終えた私達はカウンターでバックナンバーの各社の新聞をいくつか請求した。しばらくして職員が持ってきた新聞を手に、適当な席に腰掛けた。


「ではでは、チェックしてみようか」

「はいっす」


 ペラリと新聞紙をめくり、中身を確認していく。自慢ではないが今まで新聞などテレビ欄以外まともに読んだことなどない。両親からは「少しくらい世間の動きを知っておきなさい」と新聞を読むように言われた事も何度かあったが、活字など苦手で、新聞なんておじさんが読むものだなんて偏見もあり、おもしろみなどどこにも感じられないと思っていたものだから、結局は真面目に新聞の記事を眺める事はなかった。

 そんな私が今こうやって新聞を真剣に開いている。大人になったな、なんて少し感慨深さにも似た気持ちもありながら、目的の記事を探す。


 ――これか。


【中学生、母校で自殺か?】


 記事の内容は思いの外に小さなものだった。そこには淡々と無感情に事実だけが記載されていた。


【猪下小学校で男子中学生の死体が発見された。学生は小学校のシンボルでもある大木に、繋いだロープで首を吊っていた所を、朝出勤してきた教師が発見し通報があったとの事。警察が調べた所、学生は市内に住む猪下南中の一年、武市昌彦君である事が判明した。状況から見て自殺と思われるが、武市君の右手首が斬り取られている事から、何らかの事件に巻き込まれているとの可能性もあると考え、警察は引き続き捜査を進めていく方針である】


 私の目は釘づけになった。もう偶然などではない。全ては繋がっている。私は確信した。

 自殺した少年の名は、武市昌彦だった。中学生にあがった彼は、母校で既に命を絶っていたのだ。他社の新聞にも目を通す。同じように事件は取り上げられているが、だいたいどれも同じ内容だ。


 それにしても、どういう状況なのだろう。首を吊っているという内容だけを見れば自殺に思えるが、あの小料理屋でのおじさんから聞いた通り、右手首がないという事実は、何者かが絡んでいる可能性が高いように思える。

 しかし、だとすれば一体どういう理由で手首を斬り取ったのか。そして一体手首はどこに消えたのか。


 そこで私は思い出す。あの仮説。死人の手だ。

 三人の犠牲者は死人の手によって殺された。そしてその手の持ち主は、武市君だった。

 悪くない仮説だと思う。全員の関係性を考えた時にも、繋がりに矛盾はないように思える。あくまで死人の手で殺されたという超常的なものが存在しているという前提ではあるが。

 私はその考えを御神さんに伝えた。


「なかなか考えるようになったね。限りなく正解に近い仮説だと僕も思うよ」


 御神さんからもお墨付きをもらえた。自分が真剣に推理した結果を褒めてもらえると自然ににやけてしまった。


「けど、それに囚われるすぎのはよくないから気を付けて。あくまで仮説にすぎないからね」

「あ、はい」

「その仮説に沿うと、ひょっとしたら……」

「どうしました?」

「もう一人死んだ生徒がいたよね」

「あっ……」


 ――そうか。そこにも繋がるのか。


「神山忍」

「彼は本当に、武市君の手によって死んでしまったのかもしれないね」


 全ての始まりが見えた気がした。


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