(1)
「うーん……」
「どうしたの、ゆとりくん?」
「いやー、何でしょうね」
「それが分かれば聞いてないよ」
そう言われても私にも実体のない感覚なのだから明確に答えようがない。とりあえず答えをくれと言うのなら、こう答えるほかない。
「なんか、嫌な感じがするんです」
口に出してみてもまるですっきりしない、およそ答えと呼ぶには程遠い回答。最近この嫌な感じがつきまとって仕方がないのだ。
考えればこの事件に歩み寄る度にこの感覚は現れていた。そしてそれは日増しに強くなっているのだ。なんというか、パーソナルスペースを侵されているような嫌悪感。常にではないが、ちらちらと窺うような気配がつきまっているような気がするのだ。
「なるほどね」
気のせいだ、と一蹴してくれる事を少しばかり期待したが、あえなくその思いは一蹴されてしまった。
「ままある事だよ。影裏というものに関わっているとね」
「ああ、ぽいですもんね」
よく分からない事象を追っていれば、私の抱える感覚など御神さんにとっては蚊に刺された程度のものなのかもしれない。でも、その通常とは違う感覚のおかげで私の心は幾分か和らいだ。気にしていても仕方がないという事だ。
「さて、気を取り直して今日も頑張ろう」
「はい。今日は例の自殺した中学生ですよね」
「そうだね」
「じゃあ、そこらへんの中学校を攻めますか?」
この付近にある中学校は猪下北、南、東、西と東西南北で分けられた四つの中学校だ。そのどれかには進学していると考えられる。
「ゆとりにはあるまじき攻めた発言だね」
「だって無関係とは思えないですもん。何か出てきますよ、絶対」
「積極的なのはいいけど、猪下小学校出身というだけでどこの中学校は特定できてないでしょ?」
「ええ……まあ」
熱量は良かったが、それを探る為の行動に必要な指針に頭が回っていなかった。これはお恥ずかしい。
「大丈夫。こういう時にいい場所があるんだよ」
「いい場所?」
御神さんはスマホで何かを探し始めた。




