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凍り鬼  作者: greed green/見鳥望
五章 氷と鬼
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(9)

「御馳走さまでした」

「はーい。またこっちに来たら寄って行ってね」

「はい、その時はまた来ます」

「お姉さんも捜査頑張ってくださいね」

「あ、はい。こちらこそ貴重な情報ありがとうございました」


 外に出ると深まった夜が更に冷たい風を吹かせていた。早くホテルに戻ろう。

 しかし、思ってもない所で得た新たな情報。刑事とはこうあるものなのかもしれない。寝食の際にも事件を頭に置いて行動する。

 

 ――とりあえず、明日御神さんに報告だ。


 寒さに冷える体をさすりながら、ホテルへと歩き出した。


 ぞわっ。


 唐突に背中が寒気だった。だがそれは、外の冷気が引き起こしたものではなかった。

 この不快で鳥肌のたつような感覚。勢いよくばっと後ろを振り向く。


「……何」


 まばらに人が歩いている。しかし怪しい人影は見当たらない。


「やだなあ……何か……」


 気のせいと呼ぶにはあまりにはっきりと生々しい感覚。つい最近にも同じような感覚を覚えた。

 当たってほしくないものに限って当たったりする、嫌な予感というやつ。

ただその予感が指し示すものが何かまでは、分からなかった。



 翌日、早速私は昨日仕入れた情報を御神さんに伝えた。


「ありがとう。早速調べよう」


 ありがとう。御神さんの言葉が身に染みた。

 



 

「あの小学校で確か、自殺した子がいたんですよ」

「自殺?」


 眼鏡のおじさんは渋い顔をしながら、記憶を語った。


「あの小学校には立派な一本木があってね。そこで首を吊って死んでいたらしいんですよ」


 最初、もしやそれは神山君の事かと思ったがどうやらそれとは違うらしい。何せ神山君は自殺ではないし、死んだ場所も教室の中だ。


「小学生が首吊り自殺ですか?」

「いやいや、死んだ子は猪下小学出身の中学生だったそうです。自殺というだけでも相当な騒ぎだったんですが、何より変だったのが、彼の手首がなかったそうなんです」

「手首が?」

「ええ。誰かに斬り取られたんじゃないかって事で、当時は自殺に見せかけた猟奇殺人ではないかと地元では大騒ぎになっていました」

「ああ、そんな事あったわね。でも結局、あの後自然と事件の話は消えて行ったわね」


 女将さんも当時の事を思い出したようだった。


「その後、結局どうなったんですか?」

「さあ、分かりません。ただ当時の騒ぎと言えばそれが一番自分の中で印象に残っていますね」

「なるほど、そうですか」


 この時点ではまだ繋がりがあるとは言い切れない。時期についても曖昧で、全く無関係の中学生が自殺したという話かもしれない。でもとにかく、今は一つ一つ情報を得て探っていくしかない。

 にしても、消えた手首というのは不気味な話だ。


 ――……ちょっと待てよ。


 早合点は良くないと思ったが、電流が走ったような感覚に襲われた。


 犠牲者達に残された謎の指紋。それらは死人の者と判断された。サイズは小さく、少なくとも大人の者ではない。そしてここに来て、消失した自殺した中学生の手首。

 

 ――……まさかねえ。


 死んだ三人は、その手首に殺されたのでは。ふいに頭に浮かんだ突飛な発想。

 でもこの発想は、案外馬鹿にできないんじゃないかと思う。この指紋が直接の死因で犯人のものだと考えるオカルト的発想。それとは別に、この指紋を使った何者かがいるという現実的発想。

 いずれにしても、もしこの手首が何か関連しているのであれば、あの指紋は少なくとも犯人を指し示しているものではある。

 調べる価値は十分にあると思った。

 



「その手首、どこに行ったんだろうね」


 御神さんがぼそりと呟いた。

 どこか知らぬ場所で眠っているのか。はたまた何者かが所持しているのか。

 謎が増えただけで終わらせてはいけない。その先を解き明かさなければ。


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