(5)
私達は茅ヶ崎さんからお預かりした卒業アルバムのコピーを確認する。
武市昌彦。
卒業アルバムにおさまった彼の顔は、晴れやかな卒業には相応しくない無表情だった。無理もない。茅ヶ崎さんの話だと、神山君が死んで以来、彼に話しかける者は皆無だったという。
かわいそうな話だが、そうなった理由が分からないではなかった。武市君が原因で死んだ訳ではないだろう。それでも、あの状況だけを見れば周りはこう思うだろう。
武市君が、神山君を殺した。
小学三年にもなれば、命の重さは学んでいるだろうし、人が人を殺す事がどれだけ悪い事かも叩き込まれているはずだ。そんな幼く純粋で吸収力のある子供達なら、目の前で起きた事実をどこまでもまっすぐに捉える。そして残酷なまでに恐れ、糾弾し、除外する。
純粋が故の刃。武市君が大勢の刃で斬りつけられた事は、想像に難くない。
このアルバムに載っているという事は、少なくとも卒業まではいたという事だ。その後の流れは普通私立を受けたりといった何らかの事情がなければ、そのまま公立中学に進むはずだ。
しかし、一学年に2クラス程度の小さな小学校出身であれば、自分をイジめていた次沢達や他のクラスメイトとも同じ公立中学へ進む可能性は高いだろう。
卒業という二文字が武市君にとって、新たな出発や解放になり得たのかと考えると、それは怪しいのではないかと思った。
そして再び、何度目かのアポ取りを御神さんから仰せつかる。武市君の実家だ。
茅ヶ崎さんからその後の彼の事を聞ければ手っ取り早かったが、彼が中学へ上がる前に茅ヶ崎さんは別の区域の小学校に異動していた為、その後の詳細は残念ながら知らないとの事だった。
コール音が鳴り続ける。しかし、受話器がとられる様子はない。
「ひょっとして、繋がらない?」
「はい、出ないですね」
「まあ、そういう事もあるよね」
「んー。どうします?」
「君ならどうする?」
「あーもうまた……」
どうするべきか。
まあ電話が駄目なら直接対決しかないだろう。
「住所の場所に行ってみましょう」
「了解、ゆとり刑事さん」
「イラッ」
「そんなの声に出す人初めて見たよ」
何か御神さんが意見をくれるかとも思ったが、特段アドバイスも何もなく、私達は本当にそのまま武市君の実家へと向かう事になった。
住所の場所は学校から離れていた為、学校に来る際に待ってもらっていたタクシーに再び乗り込んだ。タクシーの親父さんは「今日は儲けさせて頂きます」とにこやか笑顔を向け、景気よくエンジンをふかした。




