(4)
『よう、調子はどうだ?』
学校を出た所で、私のポケットの携帯が震えた。出てみれば、私を影裏に巻き込んだ張本人からだった。
「何の用すか?」
梅﨑先輩からの電話に、私は出来るだけぶっきらぼうに答えた。
『ちっとは現場の苦労が分かったか?』
「先輩だって影裏の現場なんて知らないでしょ! もうほんと訳わかんない事ばっかなんですから!」
その時私は御神さんが横にいる事も忘れて激高していた。
『今までサボってた罰だな』
「サボってなんかない!」
『はっ。俺達の苦労も知らないでよ。で、どうなんだよ。ゆとり刑事』
「むぐぐ……」
私は嫌々ながらもこれまでの事をざっと梅﨑先輩に話した。改めて自分の口から説明していると、本当に普通じゃない事件を辿っているのだなと実感した。そして、そんな現実にすっかり自分は浸蝕され、馴染みだしているという事にも。
『ふーん。刑事っぽい事してるな。まあほとんど、御神の力だろうが』
「そこは否定できないっすけどね。でも私だって少しは頑張ってますよ」
『はいはい。まあ頑張れよ。ああ後お前、携帯のGPSつけとけよ』
「はい?」
『知らねえだろうが、現場出たら基本だぞ』
「はあ。分かりました」
そこでぶつりと乱暴に電話は切られた。
とりあえず言われた通り、携帯のGPSだけはつけておいた。
「もう……」
「どうしたの?」
「私が御神さんにお世話になるきっかけをつくった人からです。状況はどうだって」
「相当怒ってたね。ほんと訳わかんない事ばっか! なんて」
「あっ……いや、あ、あははは」
「大丈夫だよ。気にしてないから。うん、ほんとに」
「す、すみませんでした……」
「いいよ。何せ訳わかんない事ばっかなのは事実だしね」
「すみません!」
「だから、いいって。さてさて、次はどうしようか」
「次?」
「目的地。まあ、まずは武市君かな」
「そうですね」
神山君の死に際に喧嘩をし、普段から次沢達にからかわれていたという武市君という新たな存在。
茅ヶ崎さんよりも神山君の死を目の当たりにし、当時のクラスの担任をしていた妹尾という女性教師も気になるが、こちらについては茅ヶ崎さんも今どうしているかは知らないとの事だった。
当時、彼女はかなり憔悴し一目見て分かるほどに一気に老け込んだそうだ。無理もない。自分の受け持つクラスでイジメがあり、生徒が一人死んでいるのだ。それから茅ヶ崎さんが猪下を離れるまで彼女も残っていたが、それまでの元気を取り戻す事はなかったという。
今回の件に彼女が関係しているかは分からないが、武市君同様、事件を探る意味では会わなければならない人物の一人だ。
後は、三人の死に方と酷似している神山君についても調べる必要がありそうだ。
「じゃあ、まず彼の家に行くとしようか」
天の神様にまかせるようにちっちと人差し指を空に躍らせ、御神さんは次なる目的地を武市君に定めた。




