鬼の起点
懐かしい場所だ。
久々に訪れた土地で感慨に耽りながらも、自分の足は道を違う事無く一直線に向かうべき道を進んで行く。
定期的にこの土地には赴くようにしていた。帰省という名目もありながら、本来の目的は確認だった。
あれは今年も無事だろうか。そう思いながら何年間も過ごしてきた。
頭から離れる事はなかった。
自分が咄嗟に思い付いた行動が、ここまで自分を縛り付けるとは思っていなかった。年々鎮火していくものかと思った。だが、そんな事はなかった。
この世に生きて、自分という者が他人を介して映し出される度に、憎悪に似た黒く蠢く感情が身体の内で波打った。
違う。違う。
誰にも分からない。
誰にも理解されない。
理解されるわけもない。
信じるものなど誰もいない。
だが、ようやく解き放たれる時が来たのかもしれない。期待と希望。今自分を動かしているものはそれだった。
記憶のタイムカプセル。
大事に残してきたもの。
目的の場所に辿り着いた。
誰も寄りつかない廃屋。だが潰されずに残されてきた不要の遺産。
いつでもここはよく冷えている。
シートをめくりあげ、一つの木箱を開ける。
ちゃんと残しておいた。
いつ見ても不思議だ。やはりこれは特別のものなのだと思う。
嬉しさと憎しみが平等に心で融合する。
そのどちらをも満たし晴らす為のものが、ここに収まっている。
「出番だ」
証明と復讐と懺悔の為に。




