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凍り鬼  作者: greed green/見鳥望
四章 痛み
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(4)

 新幹線での移動を満喫した私達(おもに私だけかもしれないが)は、新潟の地に降り立った。ようやく夏が終わり、秋の兆しに差し掛かった気候はほどよく肌寒い。


「さて、旅行気分はここまでだ」

「分かってますって」


 御神さんがさっさと歩き始める。楽しい時間は終わり。ここからは再び事頭と体を事件へと切り替える。私達が今回の新潟で訪れる予定の場所はいくつかあるが、まずその内の一つが今から向かう内原直樹の実家だ。


 新潟を訪れるにあたって、事前に今回の被害者達の親族にコンタクトを試みていた。内原直樹だけではなく、次沢兼人、畑山怜美も同様だ。その中でまともに対応出来そうなのが内原直樹の母だった。

 正直嫌だし、面倒だと思った。自分の子供が原因もよく分からず亡くなったのだ。それだけでも心労が絶えない現実なのに、その傷口をえぐるように話を聞かなければならない。

 気が重いどころではなかった。だが、御神さんは手伝ってくれないようだった。


「何事も人生経験だよ。っていうかその目止めてよ」


 そう言えば全てがおさまる魔法の言葉みたく人生経験という言葉を扱う御神さんを、私は薄目で睨みつけていた。

 だがお願いしても御神さんは梃子でも動いてくれそうにもないし、彼を動かす魔法の言葉も知らない私は、観念して受話器を持ち上げダイヤルするしかなかった。


 まず次沢兼人の両親だが、父親は既に他界しており、残された母親と話してみたものの息子の死という精神的負荷でひどく憔悴しているのか、まともに会話が出来る様子ではなかった。


 畑山怜美の両親はひどかった。電話口での母親の声だけでも柄の悪さが窺いしれた。

「あんな奴、死んでくれて助かったよ」という言葉が彼女の家庭環境の全てを物語っていた。印象の悪さを裏切らないろくでなしな回答だ。

 どうやら畑山怜美はかなりの不良娘だったらしく、両親に反発しなかば強引に家を飛び出したらしい。連絡はお互いそれっきり取っておらず、皮肉にも彼女の死が久方ぶりの娘からの声なき連絡となった。


 思わずため息の漏れる状況で、直樹の母親は柔らかく、健気さすら感じるありがたいものだった。


「私でお力になれる事があれば」


 その言葉だけでも、私には既に大いなる力だった。

 

「なんか、もうちょっと聞き込みとか出来ると思ったんですけど、幸先よくないですね。畑山の両親なんて……あんなひどい人達が出てくるなんて」

「まあでも、話が聞ける人物が一人でもいて良かったじゃないか」

「まあ、そうですね」

「ここからまた新たな事実も出てくるかもしれないし」

「出てもらわないと困りますよ」

「無理に出せるものでもないよ。まあでも、そうあってくれるとありがたいね。期待しすぎず、期待しよう」

「加減が難しいですね」


 私達は、何かを掴みとる事が出来るのだろうか。


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