(3)
「私こういうの初めてです。なんだか遠足気分です」
「ゆとりくんらしい発言だね。けど仕事だという事は忘れないでくれよ」
「ういーっす」
「どこまでも心配になる返事だね」
私達は今新幹線に隣どおし仲良く並んで座っている。私の前には駅弁がどっしりと私の方に向いて置かれている。「鰻重重」と書かれた木製の蓋を取り払うと、中には脂の乗った鰻の身が濃厚なタレと共に幾重にも重なっている。
「うっまそ」
思わず涎がこぼれかねない食の輝きに、私の期待は高まるばかりだった。
「いっただきまーす」
ふっくらとした身を箸でつつき、口へと運ぶ
「……ふまっ」
幸せだ。
「今だけだよ、遠足気分は」
「ふぁい」
もちろん私だって今回の主旨がおいしい駅弁を食べて観光を楽しむなんてものではない事は分かっている。
私達が向かっている先は新潟だ。やはり鍵は新潟にあると考えた私達は、善は急げとばかりに全ての始まりがあるであろう地へと向かっている。
確証を得たのは三人目の犠牲者、畑山怜美。
彼女の免許証はやはりと言うか住所変更の処理がされており、本来の住所が新潟である事がすぐに判明した。
三人共同じ出身地。ただの偶然かどうか。それは調べていけば分かる事だろうが、事件の奥にある真相に近付ける気はする。
「御神さんはお弁当食べないんですか?」
「あまりお腹が空かない体質なものでね」
その言葉通り、御神さんの前にあるのはブラックの缶コーヒーと小さなクロワッサン一つだけだ。
「それでよく足りますね」
「気持ち的にはコーヒーだけでいいんだけど、さすがに体がうるさいからね」
むしろそれで鎮まる体もどうなんだと思うけど、どこか神秘的な雰囲気を湛えている御神さんは内臓も普通の人間とは違うつくりになっているのかもしれない。
「もったいない体ですね」
そして私はまた鰻重重へと箸を伸ばした。




