(2)
私達が二人の経歴を再確認した数日後、私達は再び白鞘さんのラボを訪れていた。気分は重かったが仕方がない。断る理由はどこにもなかったし、何より行く義務があった。
「また出たぞ」
それだけで十分だった。またあの死体だ。
遺体の名は所持していた免許証から畑山怜美という女性である事が分かった。彼女の死体は発見時、狭い路地の上で何かに驚いたような顔をしたまま固まっていたらしい。
「例の指紋は?」
「ああ、今回もついているぞ」
例の指紋とはもちろん死人の手の事だ。
「まったく、どうなってやがんだか。そっちはどうなんだ?」
「シンプルな繋がりを見つけた以外は何も」
「シンプルな繋がり?」
「前の二人の犠牲者は、どちらも新潟市内の出身でした」
「へえ。じゃあこのお嬢ちゃんも?」
「だとすれば、この繋がりは馬鹿に出来ないですね」
免許証の住所は都内のものになっていた。だが彼女の年齢もまた26歳。新潟からこちらに出てきて住所変更をしている可能性は十分にあり得る。
「まあそこを突いていくしかねえわな」
「そうですね。ところで死体から何か分かる事はありますか?」
「そうだな。とりあえず三人の死体に同様に起きているであろう事は、何らかのきっかけで全身の筋肉が凄まじいスピードで固められたって事だな」
「筋肉が?」
「ああ。死後に筋肉が硬直したんじゃなく、筋肉が硬直して死んだって順番だ」
「筋肉の自由が奪われた結果、呼吸する筋力もなくなり、結果窒息死に至った」
「そんなとこだな。まあ、あり得ねえ死に方に変わりはねえが」
「うーん……」
「それが分かった所でって話だわな。で、後もう一つ」
「何です?」
「これを言うと余計混乱を招きそうな気はするが……」
白鞘さんの声は歯切れが悪く、すぐに言葉は続かなかったが、やがてもう一つの結果について口を開いた。
「指紋の事なんだがな」
「はい」
「小せえんだよ」
「小さい?」
「ああ。今回の死体もそうなんだが、これまでの遺体も掌からべったりと触るような指紋じゃなく、五本の指先だけで触れたような指紋の残り方をしている。そしてその五本ともがな、どう考えても大人のサイズじゃねえんだ」
「子供の指って事ですか?」
「サイズなんてそれこそ人それぞれだからよ、一概にそうとは言えねえが、にしてもこれはちっせえわ」
「なるほど……」
「これが役に立つかどうかは分からねえが」
「いえ、必ず何かに繋がるはずです。ありがとうございます」
「すまねえな。まあ応援してるよ」
また一つ新たな事実が現れた。
小さな指紋。これが意味するものは、一体何なのだろうか。




