(3)
「白鞘さんの判断が間違っていないのなら、私達に犯人をどうする事もできないじゃないですか!」
「彼は間違えないよ。あんな調子だけど、検死官としての判断は正確無比だ。僕達は、残された指紋が死人の者だという判断のもとに動く必要がある」
「動くって……でも」
「ゆとりくん」
コーヒーカップを置いた御神さんが、私の方に向き直り、真っ直ぐに私を見つめる。
表情は穏やかだが、視線には気迫にも似た強い光が宿っていた。
「影裏案件として処理されるものの中には、今回のような奇怪な死体が出てくる事もままある。その場合僕は必ず白鞘さんに死体を回すようにお願いしているんだ」
「?」
「検死官はもちろん他にいくらでもいる。でも彼じゃなきゃ駄目なんだ。なんでか分かる?」
「……どうしてですか?」
「この世界を受け入れているからだよ」
「この世界?」
「君がいまだ信じられない、この不思議に溢れた世界をだよ」
そう。私はまだ信じきっていない。
怪談、オカルト、超常現象。私にとってそれらは、いまだエンターテイメントやおとぎ話など空想や娯楽の枠を出ない。
現実に飽き飽きした人間達の刺激の針程度にしか思っていない。
「これが君にとって良い事なのか悪い事なのか、それは僕にも変わらない」
「……」
「ただ」
御神さんの顔から笑みが消えた。
「この事件が終わった時、君は受け入れざるを得ない。この世界をね」
その表情は、私の覚悟を求めているように思えた。
この事件に、受け入れがたい世界に、立ち向かう事への覚悟を。




