鬼と生贄
「何して遊ぶー?」
「こおり、こおり。こおりやろうぜー」
「さんせー」
グラウンドの木陰の下で談笑する面々。すでに俺は半分にやけている。
“こおり”は好きだ。最近はよくこの遊びを皆でする。でも今日は、いつにも増してこおりが楽しみなのだ。
俺はちらりと後ろをとぼとぼ歩くあいつを見やる。
今回のこおりのメインイベント。
駄目だ、また俺はにやけている。
「じゃあ、鬼決めようぜ。鬼」
きっかけを投じるのが誰とは決まってはいない。
開始の合図を鳴らすのは誰でも構わない。その日はたまたま俺が言い出した。でもこの時点で、何が始まるのかは全員が分かっている。
ただ一人を除いて。
「ジャンケン、ジャンケン」
男勝りなれみが、やんちゃな声を上げながら拳をぶんぶん降る。れみにならって皆が輪になる。
「まさ、お前に鬼は無理だから待ってろ」
俺は冷たい声でまさを追い払う。だが誰もそれも咎めない。まさを鬼しないのは打ち合わせ通りだからだ。
これから始まる事を想像すると思わず、勝手に頬があがった。見ればカネも同じように悪い顔をしている。
ジャンケンの結果、鬼はえいちゃんに決まった。
「よーし始めるぞー」
えいちゃんが俺らに背を向け、木に向かって顔を伏せ数を数えはじめる。
「いーち。にー。さーん」
カウントが十になれば、えいちゃんが俺達を追いかけまわす。
俺達は出来るだけえいちゃんから距離をとる。一緒に横を走っているカネが俺にまた悪い笑顔を向けた。
「しのぶ、お前やっていいよ」
「え、マジ? いいの?」
「その代り、しくじんなよ」
ぽんと肩を叩いて、カネは俺から離れていった。
「しー。ごー。ろーく。しーち」
――よし。まかしとけ。
「はーち。きゅーう」
こおりが始まる。
触れたものを凍り漬けにする、こおりおに。
えいちゃんに触れられたやつは、その場を動けなくなる。仲間が助けてくれるまで。
「じゅーう!」
えいちゃんがぐるりと体を回し、俺達を見つめる。
――さあ、始まりだ。
鬼がこちらに走り出した。