13/70
鬼
夜というのは良い。
この暗さが、この黒さが。
自分が今から為そうとする事を、包んで隠して見逃してくれる。
月光の淡い光が、それでいいんだよと抱えきれない負を癒してくれる。
この時間だ。
この時間、ここにいる。
確かな情報を何度も頭で反芻し、その瞬間を予行する。
うまくいく。
分かっている。
二人もそうだった。
何も落ち度はなかった。
分かったところで、何も出来ない。
なぜなら、そんな事はあり得ないから。
いた。
いた。
いた。
見つけた。
気付いていない、無防備な背中。
後ろに鬼がいるとも知らずに。
「お姉さん」
声に彼女が振り向く。
分かる。この顔を覚えている。
彼女はこちらに訝しげな視線を容赦なく送る。
だがやがて、はっと目を見開く。
こちらに気付いたらしい。
意外と皆、憶えてるものだ。
でも、お前と喋る事は何もない。
彼女にその手を伸ばす。
触れた瞬間、彼女の体は一瞬にして固まる。
「コオリオニ」
脳に吹き込むように口ずさむ。
彼女の頭に、彼の姿は浮かんでるだろうか。




