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鏡花水月と周辺理論  作者: 伊勢谷 明音
竜神少女と時刻みの瞳
9/10

2 神話竜姫と若さの秘訣

 翌日、シルヴィアは1人で街最大の図書館に来ていた。ヴェンダー魔法学校にある図書室、それは常に開放されており、文字を読める人がよくそこに集まっている

「ふむ、なるほどねえ。目のような痣か」

 そこで働いている司書のゼストという男、彼はシルヴィアが個人的に雇っている文字の読み書きの先生である。彼女は龍姫の胸にあった痣についてどこかで聞いた覚えがあったために、彼を頼りに来たのだ

「確かにそういう話はあったな。えっと……ああ、これだ」

 取り出したのは大陸に伝わる神々が生きて人間と関わってきた時代、つまり神話の本だ。それを手に取りゼストは説明する

『時の瞳』、それは時の神クロノスが気まぐれで与える祝福。刻印が刻まれた者はその瞳が閉じるまで自らの生きている時と異なる時間で過ごすことを強制される。もとの時間軸に戻ったその者は大概において英雄、もしくは最大の悪人として後世まで語られることが多い

「つまり、お前さんが拾ってきた竜神族のお嬢ちゃん、その子は神様に期待をかけられているのさ。世界を正す英雄になるか、世界を乱す悪になるか、そんな期待をね」

 だからさ、拾ったあんたがちゃんと教育してあげないと――世界、滅ぶかもだぜ?

 ゼストはそう言ってからからと笑うのであった

「いやしかし、あれだ。初めてお前さんにあった時から飽きないな」

 彼はしみじみと回想する。そう、それは半月ほど前の話だったか。文字の読み書きの勉強をしたがっている人がいる、と最近赴任してきた教師、レイ・クロノから紹介されたのがシルヴィアだった

 初めて彼女を見た時には困惑した、いいとこのお嬢様っぽいのがどうして読み書きが出来ないんだ、と。まあ、女性にそこまで教養は必要がないと親から教えられなかったのだろうな、とその時は思っていた

 だが、それは違った

 読み書きが出来ないかと思えば、数字と記号さえ覚えてしまえばそこらへんの秀才と呼ばれるような人々よりも優れた計算能力を発揮したのだ

 故にゼストは思う、こんな歪な彼女は見ていて飽きないと

「そう言えば、お前さんの言っている竜神族の女の子は今?」

「宇迦之にまかせています」

 図書館に少女を連れてくるのは憚られた。そのために家で宇迦之と一緒に留守番してもらおうとしたのだったが、服を掴んで離してくれない

 どうしようか、と悩んでいたがふと妙案が思い浮かぶのだった

「ふふ、さあ私は帰ります。宇迦之がハゲたら困りますからね」

「ああ、確かに彼の髪はお前さんと同じくらいながいからねえ。しかも一つ結びだ。尻尾のように見えるから子どもは喜ぶだろうね」

 ゼストの言うことは大体あっていた

 そう、宇迦之は狐の姿になって龍姫に遊ばれているのだ。宇迦之に命じてもとの姿に戻ってもらった途端、彼女は大はしゃぎ。きつねさん、きつねさんと喜んでもふもふの尻尾に身体を埋めていたのだった。痛い、痛いです! と時折声を上げる宇迦之に彼女を任せて家を出た

「ただいま~」

「おかえりなさい、姫。あとお静かに」

 帰宅したシルヴィアに宇迦之が小さな声で応える

 見ると、彼の尻尾に埋もれてよだれを垂らしながらすうすうと寝息を立てる龍姫がいた。時折彼女の尻尾がぴくりと動いたりして中々に面白い

「大丈夫? 毛、抜かれてない?」

「多少」

「そっか」

 龍姫が起きて、自らに突進してくるまで、シルヴィアは彼女の頭を撫で続けるのであった

 そして翌週、出来上がっているであろう奴隷の証明書と、奴隷解放の鍵を受け取りに久方ぶりに旅人組合へとシルヴィアは向かう。先週は龍姫にかまっていたせいで、依頼を受けるのは宇迦之1人であった

申し訳ない、と思っていた

「お爺さん、シルヴィアです」

「ああ、出来上がっているよ」

 受付の老人は引き出しから各種書類と奴隷解放の鍵を渡す

「これでそのお嬢ちゃんは自由だね。そしてこれからが本題だ」

 ずいっと身を乗り出して老人はシルヴィアにだけ聞こえるような小さな声で話し始める

「実は、私には竜神族の知り合いがいてねえ。名前は竜神姫りゅうじんきって言うんだけれども、彼女を頼りにそのお嬢ちゃんを竜神族の里へ帰してやりな」

 これが秘密とされている彼らの居場所、そして私の招待状だよ、と老人は封筒をシルヴィアに渡す。彼女はそれを受け取って、前々から気になっていた事を聞いた。お爺さん、貴方は一体何者なんですか、と

 彼はそれに片目を瞑ってこう答えた

「それは最高機密トップシークレットだよ、ハイヒューマンと九尾のお二方?」

 種族や正体を見抜かれて驚愕している2人に彼は言う。別に誰にも話はしないさ、と。更に彼の正体が分からなくなってきたシルヴィアと宇迦之であった


 老人が渡してくれた、竜神族の里が記された地図を見ながらシルヴィア達は馬を走らせる。付近の山までついて、馬から降りる

「この子たちでこんだけ時間かかるとは」

「国跨ぎましたからね、お体大丈夫ですか?」

「へーきへーき、龍姫ちゃんは大丈夫?」

「ちょっと、眠いだけ」

 時折首がカクンと落ちる少女をシルヴィアはおんぶする。少女の首には奴隷の印がもうない

 あともう少しで竜神族の里といったところで、突然周囲の空気が変わるのを三人が感じた。ギャアギャアとうるさかった鳥たちの声が不意に消え、そして濃密な霧が立ち込め始めた

 白い、何もかもが白い

 そんな中、突然前後左右に敵意を持った雰囲気を感じた。シルヴィアと宇迦之は咄嗟に宙を舞い、包囲された状態から抜け出す

「人間! その背負っている同族の娘を返してもらおうか!」

「いきなり攻撃することはないじゃない? 私達はこの子を返しに来ただけ!」 

 シルヴィアは懐から老人の書いた手紙を取り出して放り投げる。それを拾う気配がして、暫く経つ。すると、突然霧が晴れてもとの森の景色――ではなく、何やら村の入口のようなところが現れた

「失礼しました、レクサス様のお知り合いですね。この無礼は命を持って」

「だからちょっと待った!」

 いきなり自らの首に向けて剣を向けた竜神族の男にシルヴィアはストップをかけたのだった。彼女は先程からの彼らの行動から、竜神族はせっかちなのではないか? と思うようになってきた

 というか、あの老人の名前ってレクサスだったのか、と今更ながら知るシルヴィアと宇迦之。そして、先ほどの四人の後ろから1人の女性が現れる

「こら、君たちはせっかちすぎやあしないかい? 竜神族にも性根が腐ったのもいれば、人間にだって聖人はいる」

 そうだよねえ、お二人さん。ようこそ、竜神族の村へ――

 現れたのは女性としての魅力が全身から溢れでている金髪青目、年は人間で25くらいの女性だった。だが、竜神族は長命種。実際の年齢がどれくらいかは分からない

「私は竜神姫、名前くらいはレクサスから聞いているだろう?」

「ええ。私はシルヴィア。シルヴィア・ローゼンベルグです。そしてこちらは従者の宇迦之。して、この子はあなた達と同じ竜神族の龍姫です」

「よろしくおねがいします」

「よろしく、おばちゃん」

 龍姫がそう云うのと同時に、竜神姫のこめかみに血管が浮き出る。やはりどの時代、どの世界においても女性に年の話は禁物らしい、とシルヴィアは思うのだった

「おば、おおおおばちゃん!?」

「お気を確かに! 竜神姫様!」

「幼子の言葉です!」

「どうせ私はババアだよ!」

 取り敢えず、彼女らをどうにかしないと話が進まないな、と思いながらシルヴィアはこの場を収めようとするのであった。結局、落ち着いて話すことが出来るようになったのはしばらくしてからになった


「取り乱してしまってすまないねえ。いやあ、どうも最近年が気になってねえ」

「……とても若々しく見えるのですが」

 竜神姫の家、というか屋敷。そこはとても大きく豪奢であった。竜神族の姫、という立場に相応しい屋敷であると言えよう

 そして、その家の応接間。そこで彼女とシルヴィア、宇迦之、そして龍姫の四人はソファに座って会話を交わすのであった

「それは私が特別だからねえ」

「特別?」

「普通私達の寿命は300くらいさ。でも私は覚えているだけでも2000は確実に生きているし、もしかしたらその倍かもしれない」

 それを聞いてシルヴィアは驚愕する。竜神族の村には老人の外見の者が居た。推察するにそれが寿命くらいの300歳くらいだろう。けれども、目の前の美女はそれを悠々と越え、更には神話時代から生きているかもしれないと言ったのだ

「何故、貴女はそれほど生きていられるのです?」

「それは私が竜神姫だからさね。その名の通り、竜神族の姫だから」

 竜神、神話の時代に突如として現れたと言われている竜。この世界で観測された様々な時代において英雄と共に行動をする竜は恐らくその容姿から彼だろうと学者の間では推察されている

 彼は人間がまだ弱く、モンスターやそれよりも強いとされている魔物達にその種を絶やされようとしていた時、颯爽と現れて人々を救ったと言われている

「旦那様――竜神様はとても美しく、気高く、そしてお強い方だ。私は彼の寵愛を受け、竜神族のそれを超越した単一種となった」

 ほう、と頬を上気させて竜神姫は説明をする。ふと、気になってシルヴィアは聞いた

「寵愛を受けて、ですか? 何らかの術で延命させてもらっているとかではなく?」

「術と言えば術だねえ」

 聞きたい? とニヤニヤ笑いながら竜神姫は聞いてくる。死にたくはないし、寿命が伸びたりするんだったら自分も頼んでみようかなと思ってお願いします、と言った

「房中術」

「え?」

「だから、房中術だよ房中術」

「めしべとおしべが云々で、それと同時に体内の気を相手に送り込んでなんとかするっていう健康法の房中術ですか?」

「そうだよ」

 肯定された

 そして竜神姫は頬に手を当てて、身体をくねくねとしながら語り始める

「そう、最初は怖かった。けれどあの方は優しく私の唇を奪って優しい声で『可愛いよ、僕の姫』なんて言っちゃって! きゃーっ! そしてはじめての夜はそれはもう燃え上がって! あれはいつだったかしら。そしてそれから――」

 シルヴィアの膝の上に座っていた龍姫が、不思議そうに目の前の竜神姫の様子を見て言う

「お姉ちゃん、あのおばちゃん変」

「龍姫ちゃん、あんな大人になっちゃ駄目ですよ?」

「はあい」

 可愛らしく返事をした彼女をえらいえらいと褒めながら頭を撫でる。えへへ、と笑って甘えてくる少女を見ながら、目の前の女性の惚気話がいつ終わるのか、というか早く終わってくれと願うのであった

 そしてようやくまた会話が出来るようになったのは、しばらくたって日が沈みかけてからのことだった

「――と、ごめんねえ。うちの主人自慢ばかりしちゃって」

「は、はあ」

 ずいぶんと疲れた様子のシルヴィアと対照的に、竜神姫の様子はどこかつややかだった

「ところで、そのご自慢のご主人は今どちらに?」

 宇迦之がそう尋ねる。すると、どこか残念そうな表情で彼女は今はいない、と語る。どうやらここ最近村を離れているようだった

「彼がここを離れるときは何が重大な事件が起こっている時さね」

「成る程」

「まあ、それが何なのかは分かっているし、解決の目処は立っているから安心していていいよ。まあ、ヘタすると人類が吹っ飛んじゃうけどねえ」

 かんらかんらと笑いながら彼女はそう言ったのだった。そんな重大な事件がこの大陸で起きているだなんて、とこれから先知らずに命を落とすのではないかと恐怖を覚えたシルヴィアであった

また短いので後日修正します。その後日がいつになるやら分かりませんが

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