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幕間・C

(前回からの続き)

 さて、ここで一つ断りを入れておかねばならない。

 これから書くのは、一つの記録だ。全て事実で、全て現実。俺の妄想でも創作でもない、全て実際に起きた出来事である。

 現実離れした話ばかりだが――どうか、信じてほしい。

 本題。

 彼女を失った俺は、魔術師と呼ばれる存在を思い出した。

 裏山の魔術師は、何でも願いを叶えてくれる――そんな、幼稚な都市伝説。だけど、そんなモノに俺はすがってしまった。彼女を取り戻せるならと、俺は強く、強く魔術師に願った。

 結果、俺は魔術師に逢うことができた。

 その時のことは、いまだにうまく説明できない。強く願った次の瞬間、俺はその場所に移動していたのだ。どこかの、洋館の一室らしき空間。赤いじゅうたんと豪華の調度品ばかりが印象強い。

 そして、その向こうに――それはいた。

 何だか、ひどくぼんやりとしている。顔も髪も体型も、身につけている衣服すら、今では思い出せない。いや、思い出せないと言うより……多分、認識すらできていなかったんだと思う。輪郭があいまいで、年齢も、性別すらはっきりとしない(なので、以降、魔術師に対する三人称はそれで統一させてもらう)。

 だけど、それが魔術師であるということに、俺は半ば確信めいたものを抱いていた。何故かは分からない。ただ、そう思ってしまったのだからしょうがない。

『こんにちは』

 先に口を開いたのは向こうだった。何の変哲もない、挨拶の言葉。聞き取りやすいけど心には残らない、熱も湿度も粘度も硬度も感じさせない――そんな、中庸フラットな声音。

『あなたは、何をお望みですか?』

 何の前振りもなく、それは核心に触れる。俺は言葉に詰まった。確かに、魔術師に願ったのは確かだけれど。恐らくは他の誰よりも、強く願ったんだろうけど。まるで、心の準備ができていない。

 いや、それ以前に、俺はどうしても確認したいことがあった。

「あ、あの、あなたは……一体何者なんですか?」

 今まで魔術師は噂の中だけの存在で、噂の中でのみ存在する人物だったからこそ、細かいことは気にならなかった。

 だけど、こうして実在しているのなら、話は別だ。

 どこの誰で、どういった事情があって何のためにこんなことをしているのか――一介の高校生である俺に教えてくれるとは思えなかったけど、聞かずにはいられなかった。

 それに。

「ここはどこなんですか? 俺は、一体どこに連れてこられたんです!? と言うか、気が付いたらここにいたんですけど、どうやったんですか? それに――」

 ――本当に、どんな願いでも叶えてくれるんですか?

 俺が飛ばした矢継ぎ早な質問に、それは丁寧な口調で、何とも意味不明に答えてくれた。まず、それの正体について。

『私はどこの誰でもありません。いわばシステムであり、人格などないと考えてもらって結構です。目的もないし、隠された事情もありません。私はただ、あなたがたの願いを叶えるだけなのです。ですから、あなたはただ、私を利用することだけ考えればいいのです』

 そしてこの空間について。

『この場所もまた、便宜的に設けられた空間です。世界のどこでもないと言えるし、また同時に、世界のどこでもあると言える。便宜的に学校の裏山に存在する、という設定にはしてありますが、実際はそうではありません。あなたがたの存在する座標とは違うルールで存在する空間ですから、ここがどこであると説明するのは不可能なのです』 

 この段に至って、俺はそれの語る内容を理解する努力を、完全に放棄した。何を言っているのか、まるで分からない。俺に合わせているのか、平易な表現と少ないボキャブラリーで説明してくれているのだけど、それがかえって意味不明さに拍車をかける。俺は聞き返す気力も失って、さっさと最後の返答を待つ。

 そう。それが何者で、ここがどこかなんてのは、どうでもいいことなのだ。俺が真に知りたい答えは、最後の一つだけだった。

 そして、それが返した答えは、是、だった。

『どんな願いでも叶えます。私はそのためにいるのですから』

 ――本当だろうか。おれはいぶかしんだ。こっちは、金が欲しいとか、成績を上げてほしいとか、そんなちゃちな願望を抱いている訳ではない。


 死んだ人間をよみがえらせたいと――そう願っているのだ。


 しかし、これに対する反応もまた、是だった。

『問題ありません。あなたの願望は、叶えられます』

 何でもないことのように、そう言う。

 俺は、輪郭のあいまいなそれを、ただじっと見つめることしかできなかった……。

                          (続く)

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