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N、あるいは幕間

 主題が何なのかと、ずっと考えていた。

 先程から目の前で起きている事柄を言葉もなく傍観しながら、ヒトナリは、ずっと考えていた。

 結局、主題はどこにあったのだろうか――と。

 もちろん、サエ、ミライの話を聞いて、大方のことは分かっているつもりだ。自ら積極的に質問をぶつけたりもした。話の構造や、一人一人の行動も、ある程度は把握出来ている。魔術師という名のシステムも、取り敢えずは理解したつもりでいる。

 だけど――やはり、分からない。

 魔術師という超越的な存在を中心に、ある者はそれを利用し、ある者はそれに翻弄され、隠そうとし、暴こうとして、今回の騒動は起こった。その軸になっているものは、一体何だったのだろう?

 空転する頭で、ヒトナリはそのことばかりを考えていた。

 今もまた、目の前で、誰かが誰かに触れ、触れた一点が光り輝き、その光に吸い込まれるようにして、取り込まれていく。取り込まれた人間は、目に見えて体格が良くなっていく。また、目には見えないけども、内面の、各種能力も向上しているのだろう。

 そんなことが、ずっと続いている。

 ヒトナリたち傍観者には、立ち入る隙がない。全てが終わったその時には、全員この異空間から解放され、今回の件に関わる記憶の一切を消され、日常への回帰を余儀なくされるのだろう。

 それで、終わりだ。

 結局、主題が何だったのか分からないまま――

 全ては、終わるのだ。


『主題が何かと、お考えですか?』


 輪郭の曖昧な声が、頭に響く。

 どうやら、思考が漏れているらしい。

 もしかしたら、魔術師はテレパシーのような能力まで有しているのか――いや、やめよう。この場、この状況では、あらゆる思考が無駄になる。ヒトナリは考えるのをやめた。

『やめることはありませんよ。物語の主題を見極めるのは、決して無為な行いではありません』

 サトリの化け物という伝説を思い出す。ここは、この魔術師に調子を合わせておいた方がよさそうだ。

『しかし、貴方は目先の情報に囚われすぎて、主題――本質を見抜けていないようです』

 どういうことだ。

『これは、決して魔術師という、意味不明な存在を追究する物語ではありません。様々な噂に翻弄される少年少女の群像劇、という訳でもありません。これは、そういう話ではないのです』

 では、何だと言うのだ。

『ほとんどの方はすでに気付いている筈です。気付けずにいるのは、貴方がただけです』

 その『ほとんどの方』が何処の誰を指すのか皆目見当がつかないが、質問するのはやめておいた。多分、意味がない。

『難しい話ではありません。と言うよりも、恐らく、貴方は難しく考えすぎなのでしょう。だから、こんなにも簡単なことに気づけない。主題なんて表現するから堅苦しくなるのです。単純に、どういう話か、と考えればいい。そしてそれは、拍子抜けするほどに、通俗的で散文的な代物なのです』

 聞けば聞くほど、分からなくなる。自分の頭が悪いのだろうか。

『すでに、膨大な量のヒントは提示されています。例えば――貴方がたの名前、がそうです』

 なまえ?

『フルネームで、漢字表記で考えるのです。全ての名前には意味があります。そこを、もう一度よく考えれば自ずと答えは分かってくるのではないでしょうか』

 名前、名前、名前――。

 ヒトナリ達は普段、お互いを下の名前で呼びあっている。中には、サエやジュリのように、下の名前をさらに短縮して呼ぶ場合もある。稀にニックネームで呼ばれている生徒もいるが、それはごく一部。いずれにせよ、自分たちの名前に、何か意味があるだなんて、とても思えないのだが――。

『――そろそろ、時間が来てしまったようですね』

 気が付くと、少し前まで人やら『視覚化情報』やらでごった返していた異空間は、取り込みが終わって随分とすっきりしている。十組の人数は、きっかり三十五人だ。

『貴方が主題に行き着けなかったのは残念ですが――』


 ――機会があったら、またお会いしましょう。


 頭の中で声が響き――視界が、真っ白に染められる。少し遅れて脳内もホワイトアウトしていって――そこで、意識は途絶えた。


 決して記憶されることのない、ヒトナリと魔術師との記録である。

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