第五章・N その3
十月二十一日(金)午後四時五分
二年十組教室
「――かくして、十組と魔術師との契約は完了する。この教室に結界を張り、結界の外では喪章を『依り代』として身に付け、内部蘇生する予定の人間のみ、各種能力を向上させ――そうして、文化祭までの一ヶ月間、十組は外部の人間に悟られることなく、秘密裏に儀式を遂行する――十組があくまで女神像ホールでの出店にこだわった理由は、実はここなのよね。儀式の最中は、できるだけ第三者を十組の教室に近づけたくなかった。もちろん、結界を張らなければどうということはないんだけど、何かの拍子に、結界が張られ、『仮の存在』が出現してしまわないとも限らない。そうしたら混乱は必至よね。十組のみんなはそれを阻止するために、半ば強行的に女神像ホールの場所取りをしたって訳。まだろくに出し物も決めてないのに、ね。そのせいで事態が余計ややこしくなっちゃったことに関しては、みんなもよく知ってると思うけど――」
「……フン」
面白くもなさそうに、ジュリが鼻を鳴らしている。
成る程。そういう理屈か――。
「――と、ここまでが、前日譚ね。ちょっと長くなっちゃったけど、ここまでが前振り。十組のみんなには退屈な話だったかな? でも、ここからが本番だから。みんなの懸案も不安も、これで解消する筈。だから、心して聞いてね」
サエの饒舌は止まらない。
ヒトナリは、不思議と落ち着いた気持ちで、この長講釈を聞いていた。この一週間、渇望し続けた真実の姿。それを今、惜しげもなく提示されて、本来ならもっと興奮すべきなのだろうけど。きっと、語られる内容があまりにも現実離れしているからだろう。推理小説の解決編を読んでいる感覚に近い。どうにも、自分の日常と地続きの話とは思えない。しかし、これが真相で、事実で現実で真実なのだ。ここまでの長い話は、あくまで前日譚にすぎないのだと言う。実際、まだ十組の人間と魔術師しか登場していない。ヒトナリたちクラス外の人間の出番は、まもなくなのだそうだ。フラットな心持ちで、ヒトナリは話の続きに耳を傾ける。
「さっき話した通り、『依り代』を身に付けたメンバーは、飛躍的に能力を向上させた。アオイ君とハルカちゃんの二人は、特にそれが顕著だったみたい。そりゃそうよねえ。アオイ君が取り込んだミホちゃんは、校内でも比較的名の通った存在で、サッカー以外にも色々と能力の高い娘だったし――一方のハルカちゃんは、とにかく取り込んだ数が多かった。十二人だっけ? ミカちゃん、キガ君、イイヤ君、ミドリちゃん、リュウ君、アキちゃん、ヤマカちゃん、
ハルノちゃん、ミサちゃん、それにマイちゃん、ユート君、テン君――これだけの人間を取り込めば、そりゃ大きくもなるわよねえ?」
幾分、粘着質な言い方でサエはハルカの全身を睨め付ける。
言われてみれば確かに、喪章を外したハルカは、一回りも二回りも小さくなった――気がする。違和感を感じないように記憶・認識を操るという話だったから、恐らくは無意識に感じることなのだろうけど。サエの言葉を嫌味と捉えたのか、ハルカは苦々しげな顔をしている。
「アオイだって、取り込んだのはミホだけじゃないだけど。ユイとユミの二人だって、一緒に吸収しとるだに!?」
「それでも、貴女が大量の人間を取り込んだことには変わりがないでしょう?」
「…………」
下唇を噛んでハルカが睨み付けるが、サエはそれを受け流す。
「あと、一つ補足ね。今、便宜的に『取り込んだ』って表現したけど、それはあくまで『依り代』を使って、『仮』に行っているだけの話だから。本格的な取り込みが行われるのは、儀式の後。だから、最終的にはもっと増えてるかもしれないし、逆に減ってるかもしれない。それは誰にも分からない。まあ、ほぼ今の形で決定だとは思うけどね」
手の中で黒い喪章をクルクル回しながら、サエは言う。
「閑話休題。本題に戻りましょう。短期間で劇的な成長を遂げた二人は、それに比例して点数を伸ばし、SRSの目に留まることになる。結果、代表してミライ先輩が二人をスカウトする形でSRSに引き込んだ。このこと自体は、実は本筋には関係ないの。文化祭も目前に控えていたし、参加表明だけしてもらって、実際に働いてもらうのはずっと先になる筈だった」
だけど――言いながら、サエは視線をアオイに向ける。
「この時の面談が、その後の全てを決めてしまったのよね。本来なら『因果』の『果』にすぎない出来事で終わる筈が、偶然の重なりで『因』となってしまった――」
「もうちょっと分かりやすく説明しろし」
ずっと黙っていたジュリが、久しぶりに口を開く。
「アンタの話、長すぎずら。ただ長いってだけなら許せるけど、それに加えて回りくどいもん。抽象的な表現しちょ」
「……ジュリちゃんはせっかちだからなぁ……。分かりました。初心に戻って、時系列に沿って簡潔に、事実だけを述べていきます。ただし、ここが全ての核になる部分だから、ちゃんと聞いていてね」
いよいよだ。静かに唾を飲み込み、続きを待つ。
「その当時、SRSは校内で流布する魔術師の正体について調査をしていたの。全くの同時期にバス事故があって、十組のみんなと魔術師が契約を交わしていたのは、純然たる偶然。そこに何の意図なんてなかったし――それ以前に、十組がそんなことになっているだなんて、SRSの誰も知らなかった。知る訳ないわよね。十組の人達だって、知られないようにしていたんだし。
だけど、前述の通り、『依り代』の効果によりアオイ君とハルカちゃんは点数を伸ばし、SRSにスカウトされる。それを担当したミライ先輩は、軽い気持ちで、『SRSが魔術師に関して調査している』ってことを二人に話したの。普通ならコレ、危機感を覚えるところよね? 何せ、魔術師には『儀式のことが第三者に知られるとうまくいかなくなる危険性がある』って言われてる訳だから。でも、それと同時に、バレる訳がないと高をくくってもいた。こんな幻想めいた話、誰も信じる訳がない――当事者である十組の誰もが、
そう考えていたんじゃないかな。ハルカちゃんも、そう判断したんだと思う。だから、すぐには対処しなかった。ただ、SRSって組織が校内にあるってことと、その連中が魔術師に関する調査を始めてるって予備知識だけが蓄積された。
だけど、アオイ君は違った。
さっきも言った通り、彼は本来、この契約に関しては乗り気ではなかったのよね。魔術師の目的も正体も分からない、そんなあやふやな状態でこんな大事なことを決めてしまってもいいのか――『自分は装置でありシステムである』だなんてことを自称する胡散臭い存在に、託してしまってもいいのか――ずっと、迷っていた。迷っていたけど、ハルカちゃん始めとした他の人達は、みんなどえらい乗り気で、今さら反対意見を述べるような空気でもなかった。結果、クラスメイトたちの勢いに流される形で、契約は完了してしまった。本当は、これではいけないと思っていたんだけど――どう行動すればいいか分からなくて、ずるずると時間だけがすぎていってしまっった……」
――ずくなしが。
心の中で、ヒトナリは静かに思う。口に出したところでどうにもならないので、心の中だけに留めておくが。
「だけどそんな時に、ミライ先輩からSRSに入らないかという誘いが入る。アオイ君はその時までSRSの存在すら知らなかったんだけど、ミライ先輩や私みたいな校内カリスマのグループだと知って――信用してもいい、と判断する。しかも、都合のいいことにSRSはちょうど魔術師について調査を始めていると言う。これは渡りに船とばかりに、アオイ君は行動を開始する。
行動とは、何か。
手紙を、書いたのよ。
ミホちゃんを失った所から、魔術師との邂逅、儀式に関するルール、クラスメイトたちの乱入から、迷いながらも契約を決定する、その一部始終を、詳細に、克明に文章に起こして、それをSRS宛てに送ったの。匿名でね。ま、SRSにしてみれば、書き手が誰であるかなんて、火を見るより明らかだったんだけど――」
「嘘でしょ……」
震える声で発言したのはマコイである。仰天して目を丸くしている。もちろん、驚いているのは彼女だけではない。十組の誰もが――否、部外者のユカも、ジュリも、そしてヒトナリも驚いていた。
と同時に、不思議と納得をしている自分もいた。
――そうか。
――だからあの時……。
「嘘じゃないわ。アオイ君は、どうにかして魔術師の正体を明らかにしたかったのよ。だけど、クラスの人達の手前、それを表に出すことはできなかった。委員長として、クラスの代表者として、率先して儀式を遂行し、第三者にそれを知られないよう尽力していた。だけどその一方で、SRSが魔術師調査を円滑に行えるように、裏で工作したりしていた――」
「……自作自演じゃんけ」
「自作自演と言うより――二重生活? アオイ君本人の葛藤が、そのまま行動に出てしまったのね。だから、こんなややこしいことになってしまった――そうよね、アオイ君」
「…………」
サエに振られるが、それでもアオイは無反応のままだ。しかし、さっきまでの無表情とは違い、やや顔に影が差しているようにも見える。彼は彼で、相当の苦悩、葛藤があったのだろう。
「どうしたの? 申し開きするチャンスよ? ほら、十組の人たちの視線を独り占めにしてるんだから」
サエが煽るが、それでもアオイは口を開かない。
そんな彼を、十組の面々はじぃっと注視している。
特に、ハルカの反応は顕著だった。顔面蒼白で、大きく見開いた目は充血し、拳を強く握りしめ、細かく震えている。
限界、なのかもしれない。
「――俺は……」
皆のプレッシャーに耐えられなくなったのか、沈黙を守っていたアオイが、重い口を開く。
「俺は……ただ、本当のことが知りたかったんだ……。事故で死んだ奴らを生き返らせたくて……ただそれだけで……だけど、あの魔術師が提示したのは、俺が考えてたのと全然違っていて……何か、騙されているみたいな感じがしたんだ。だけど、そう思った時には、もう後戻りできない状態になってて……だもんで……」
「お前は、俺らの委員長だよな? だったら、そう言ってくれればよかったんじゃないのか? 何故、俺たちに黙って、一人で全部背負い込むような真似をしたんだ」
落ち着いた声音で、マサヤスが尋ねる。怒りよりも、驚きや困惑が勝っているといった感じだ。
「……だもんで……」
俯いたままゴニョゴニョと弁解するアオイに向かって、ツカツカと歩みを進める人物がいる。ハルカだ。無言で詰めより、勢い任せにアオイの胸ぐらを掴む。喪章を外した二人の身長差は大きく、突き上げるような形になってしまう。
「『だもんでだもんで』じゃないら!? アンタ何やっとるよ!? こんなん、クラス全体に対する裏切りじゃんかッ! このクラスはアンタ一人のもんじゃないだに!?」
「ハルカちゃん落ち着いて。取り敢えず、話の続きを――」
「部外者は黙っててッ! これは十組の問題だでッ!」
取りなそうとするサエを一蹴して、ハルカはさらに激昂する。
「魔術師が信用できないから? 取り返しのつかないことになりそうだったから? だから、私にもクラスのみんなにも内緒で、裏でこそこそとSRSに密告みたいな手紙送ったって!? はァ!? 何よそれ!? この一ヶ月間、私らがどんな思いでこんな儀式を続けてきたと思っとるよ!?」
「だからハルカちゃん、一回落ち着いて――」
「別にね、魔術師が信用できんかったとか、SRSを頼りにしたとか、そのことでこんなに怒っとる訳じゃないだに!? アンタ一人の判断で、クラス全員を欺くみたいな真似したのが許せんだでね! なんでもっと、みんなのことを信用しようとせんの!?」
「あの――」
「何なのよアンタはッ! いつもはヘラヘラしてろくに仕事もせんくせに、変なところで委員長面してさッ! 委員長なら、クラスみんなの気持ち考えればいいじゃん! 一ヶ月頑張ってきて、やっと終わりが見えてきたところじゃん! それなのに、こんなんなったら――何もかも、今までやって来たこと、全部オジャンじゃん!」
「じゃんじゃんうるせェわッ!」
――驚いた。
一瞬、誰の声か分からなかった。サエだ。激昂し続けるハルカの激昂を、サエが一喝して終わらせたのだ。
「落ち着いて人の話聞けって言うとるがねッ! おみゃーの気持ちも分かるけどよ、まだ話は終わっとらんのだわ! 喧嘩するのは、全部終わってからだがねッ!」
「お嬢、言葉」
興奮し、言葉が崩れるサエを、横に立つマサが簡潔に注意する。
「え? ……ああ、うん。ゴメンナサイね。大きな声出しちゃって。でも、ここで喧嘩してる場合じゃないのは、本当。まだ続きはあるの。色々と言いたいことはあるでしょうけど、全部の話が終わってからにして頂いてよろしいかしら?」
上品ではあるが、若干わざとらしい言葉遣いで、サエは無理矢理に、場を元の空気に戻す。険しいの顔のハルカと悲壮な顔のアオイと――二人の表情は変わらないけど、取り敢えず、サエに従うことに決めたようだ。胸ぐらを掴んでいた手を離し、二人は付かず離れずの距離をとる。
「よろしい。では、続きに戻ります。アオイ君の投稿した手紙によって、私たちSRSは、十組が魔術師と接触し、何やら怪しげな契約を交わし、しかも現在進行形で、そのための儀式を行っているのだと知る。もちろん、依頼は受諾したわよ? 依頼内容は、十組と契約を交わした魔術師の正体と、その目的を明らかにすること――だけど、単純に調査すると言っても、それは容易なことではなかったのよね。何せ、存在非存在すらあやふやで、手紙に綴られた内容もあまりに幻想めいていて、とても信じられるモノではない。だけど、魔術師調査において、これは唯一にして最大のヒントになる可能性を秘めていた。無視はできない。だけど、手放しで信用する訳にもいかない。結果――SRSは魔術師に直接接触するのを諦めて、魔術師に接触した十組に接触するという、やや遠回しな方法を選択することにしたのよ。分かりやすく言うと、十組内で何が起きているのか――手紙に書かれた内容は本当なのか――それを調査するってこと」
なるほど。だんだん分かってきた。そういうことか。
しかし、周りを見ると、皆怪訝な顔をしている。今のサエの説明でも、まだ分かりづらかったらしい。サエはさらに噛み砕いた説明を開始する。
「うーん、だから――平たく言うと、十組に探りを入れるところから始めたのよ、私たちは。そのために、SRSの中でも比較的十組と近しい位置にいる、私とミライ先輩がその担当になった。細かく言うと、私は十組と親しい仲にあるマサ君を使ってハルカちゃん、サイコさんに接触し、ミライ先輩はゴウ先輩を使って、同じく十組と親しいユカ先輩を誘導し、結界の張られた十組教室に潜入させた」
ユカが、顔色をなくして何かを言おうとしている――のだが、サエの方がそれより早かった。
「あ、ユカ先輩、今は触りだけの紹介ですので、詳しい説明はもうちょっとしてからになります。申し訳ありませんけど、後少しだけ待っていてください」
またしても肩すかしを喰らうユカ。大人しく続きを待っている。
「私主導で、マサ君、サイコさん、ハルカちゃんを中心にしたグループと、ミライ先輩主導で、ユカ先輩、イズミ君、マサヤス君、ケン先輩、ナミちゃん、ヨウコさんを中心にしたグループと――今回の件は、二つの話が同時進行になっているのだと思っていた。私とミライ先輩が、それぞれ全く別のアプローチで、共に十組の内面を浮かび上がらせようとしている――そういう構図になっているのだと、私自身、ついこの前までそう思っていたの。……だけど、それは違ったのよね。実はもう一つ、私もミライ先輩も与り知らぬところで、もう一つ、同時進行の物語があったのよ」
「それが、俺の関わった話か」
ようやく自分の出番が回って来たらしい。満を持して、ヒトナリは口を開く。
「そう、アオイ君主導の、ヒトナリ君やジュリちゃんを中心としたグループなんてのも、いつの間にか存在してたのよね。合計三つの物語が、全くの同時進行で、それぞれ別の角度から、十組の内面を探るために動いていたって訳」
「アオイ主導……」
ハルカの声が震えている。
「そう。SRSだけでは心許ないと思ったんでしょうね。私たちとは別に、魔術師を調査してくれそうな人間が欲しかった。アオイ君はクラス外からそれらしい人物を見つけ、接触を図った――」
「……それが、俺なのか?」
何故だ。候補なら他にいくらでもいるだろうに。
「ヒトナリ君しかいなかったんじゃないかしら。十組と普段親交があるのは、二年六組、七組、九組、そして三年五組の四クラスだけど――まず、九組には私がいて、三年五組にはミライ先輩と、ゴウ先輩、ジュン先輩がいる。恐らく、その二クラスはSRSの息がかかっている。自分が独自に動いていることは、できればSRSには知られたくなかった。結果、この二クラスは除外。残るは六組と七組だけど――」
「私のところに来る訳がないっちゅうこん?」
薄い笑みを口元に浮かべながらジュリが言う。
「そう。ご存じの通り、七組と十組は女神像の件で対立状態にある。アオイ君自身も、ジュリちゃんに対して苦手意識を持っているみたいだしね。そうなると、残るは六組のみ。とは言っても、委員長のヨシミツ君や副委員長のフカシ君とはほとんど接点がない。交流があるのはヒトナリ君を中心としたグループくらいのもの。それに加え、ヒトナリ君自身、論理的思考が得意で知的好奇心も強い。結果、魔術師探求の人間として、ヒトナリ君に白羽の矢が立った――」
まさか、ここで『白羽の矢』の正しい使い方をされるとは思わなかった。今でこそ、いい意味で使われることの多い『白羽の矢』だが、元々は人身御供の生け贄を選出するための方法だったのだ。発祥は九頭龍伝承だったか――今のこの話とは何ら関係がないので、下らない考察はここまでにしておくが。
「何気ない顔をしてヒトナリ君に近付き、『裏山の魔術師』の話を振り、興味を引いて、魔術師のことを調べさせる――あくまで、ヒトナリ君自身の意思でやっていると思わせながら、ね。考えてみれば、要所要所でアオイ君の誘導があったんじゃない?」
確かにその通りだ。日曜の公園での遣り取りを思い出す。ヒトナリとジュリは、何でも願いを叶えてくれると標榜する魔術師を端からペテン師だと信じて疑わなかった。それに対して異を唱えたのが、アオイである。さらに、七組のマスホが魔術師と接見してて、尚かつそれを忘れたという話になって、最初に記憶操作云々を持ち出したのもアオイである。
この男は、最初から全てを知っていたのだ。
自分の知っている部分を小出しにしながらヒトナリを誘導して、自分の知らない領域にまで至らせようとしていたのだ。あの時、華麗なシュートを決めて見せたのも、今考えればこの男なりのヒントだったのかもしれない。ヒトナリに関して言えば、今回の件は一から十まで、アオイの手の平の上だったという訳だ。
「その途中でジュリちゃんまで巻き込んだのは、さすがに計算外だったみたいだけどね……。ヒトナリ君は七組を中心に調査を続けるも、芳しい結果を得ることができないまま、三日前の女神像ホールでの一件を迎えてしまった――と。アオイ君のグループに関する物語は、だいたいこんな感じ」
「一つ質問があるんだが」
「どうぞ、ヒトナリ君」
「俺やマスホが魔術師に接触したかもしれないという話については、解説してもらえないのか?」
「順序ってモノがあるからね。それはもうちょっと先の話。その前に、残る二つの物語を、ちゃっちゃと解説しちゃいましょう」
さあ、ユカ先輩、出番ですよ――
殊更快活な声で、サエはそう言い放ったのだった。




