幕間・C
(前回からの続き)
「その人の言う通りにすれば、あの娘、復活するだら? 別に体がなくてもいいじゃん。何を迷っとるよ」
「ハルカ――」
副委員長が、腰まである長い髪を揺らして、そこに立っていた。
「お、お前、何でそこにおるだ!? いつから――」
「分からん。気がついたらここにおった。たぶんアンタと同じだら。私だって、生き返らせたい人はおるだよ」
ああ、そうか――冷静に考えてみれば、当たり前のことだった。
死んだのは、アイツだけではないのだ。
「ねえ、みんなそうだよねえ――?」
ひときわ大きく声を張り上げ、ハルカは後ろを向く。
そこには。
「当たり前じゃん」
「お前だけ、ずるいに」
「考えることはみんな一緒だら」
「いつのまにかここにいたが、話の内容は全部聞いてたぞ」
「よく分からんけど、いいと思うよ?」
マコイ。トシヒロ。タイシ。コウ。オミナリ。セイシ。マサヤス。
クラスを代表する人間がそこには揃っていた。
いや、違う。
全員だ。
そこには、生き残った三十五人が全員揃っていた。
「要するに、どっか適当な場所を用意して、そこを結界にすればいいだら? じゃあ、簡単じゃん。二年十組の教室を使えばいいだけだに」
クラス全員を背負い、代表してハルカが再び口を開く。
「魔術師さん、でいいのかな? えっと、何て呼べばいいですか?」
目上の人間の前では緊張しやすいハルカが、何故かそれに対しては馴れ馴れしい口をきいている。輪郭があいまいなだけに、人間らしさを感じないからか。
『私に名などありません。私は独立する人格を持った人間ではなく、ただのシステムなのですから。どうしてもお呼びになりたいのなら、適当に呼んで頂いてけっこうです』
「じゃあ別にいいです。あの、いくつか確認したいことがあるんですけど、いいですか」
相変わらず意味不明な受け答えをする魔術師に対し、ハルカは妙に押しが強い。この積極性こそが、彼女の持ち味なのだけど。
『どうぞ』
「復活させたい人間って、複数でもいいんですか?」
『ええ』
「四十人以上いるんですけど」
『問題ありません』
「じゃあ、その全部を、一つの結界に押し込めても、大丈夫ですか」
『大丈夫です』
こちらのことなどそっちのけで、完璧に自分が主導権を握ろうとしている。いつのもことだが。
「あと、生きてる人間をよりしろにして、その中に復活させるて言ってましたけど、それって、一人の体で三人とか四人とか取り込むことも可能ですか?」
『それ以上でも可能です。補足として、今申し上げたという方法の他にも、亡くなった方を複数をまとめて一つの新しい人格を誕生させる、という方法もあります』
死者を生者に吸収させるのではなく、死者同士をまとめて新しい人格、存在を作り出す、ということか。
きっと、できるのだろう。この魔術師は何でもアリだ。いずれにせよ、俺には直接関係ないことなので、話半分にしか聞いていないのだけれど。
「あともう一つ――これは、お願いなんですけど」
『何でしょう』
「儀式が終わるまで一ヶ月、でしたっけ? その間、『仮の存在』は結界から出すことはできない――そういう話でしたよね?」
『そうです』
「どうにかして、それを前倒しにすることってできないんですか? 正式に復活するのは、儀式が完了してからでもいいんです。それは待ちます。だけど、その間――それこそ、仮でいいから、死者たちを取り込むことってできないんですかね? 仮に死者の情報を取り込んで、結界の外に出る――そんな方法があるなら、教えてほしいんですけど」
『それは難しいですね』
「本当に、仮でいいんです。裏技的に、そういうことって、できないんですか?」
『――できないことも、ありません。本当にこれは裏技なのですが』
「教えて下さい」
『死者の情報を、生身の人間をよりしろとして取り込ませるのには、儀式の完了を待つ必要があります。しかし、人間ではなく、物体であるなら、それは遙かに容易です。何か都合のいい物体をよりしろとして、死者の情報を仮に取り込ませる――そして、その物体を携帯する――そういう方法なら、儀式の完了を待つまでもなく、死者の情報を取り込んだまま、結界の外に出ることも可能です。あくまで、仮の、略式の方法ですが――』
「それで行きましょう」
何やら二人だけで盛り上がっている。その後も、ハルカと魔術師の質疑応答は続き、その途中、他の人間も何人か質問を挟んだりしていた。その時の俺はまだ迷っていて、ただ、その場を突っ立っていることしかできなかった。
実を言うと、今でも迷っている。
だけど俺は――いや、俺たちは、あの事故で死んだ四十三人を復活させるという、途方もない計画を始動させてしまった。
始めたからには、もう戻れない。失敗は許されない。結界を張り、結界を張っている間は誰も侵入させず、誰にも気付かれずに、一定期間、仮の存在として出現させ続ける。そして、あの事故の被害者となった四十三人を、復活させる。
だけど。だけれども。
俺は、やはり迷っている。疑っている。だから、こんな手紙を書いている。あの魔術師は、一体何者なのか? 自分はただのシステムで、目的などは何もない、とあれは言う。
だけど、俺はその言葉を百パーセント信じることができない。
本当に、ミホは、みんなは、よみがえるのか?
俺は、心のどこかで疑っている。
クラスのみんなは魔術師を完全に信用してしまっている。今さら俺が疑惑の言葉を投げかけても、無意味だ。
だから、こんな手紙を書いている。
最初にも書いたけど、ここまで書いたことは全て事実だ。現実離れしているのは百も承知だけど、どうか信じてほしい。
信じてくれたならば――魔術師の正体を、解き明かしてほしい。
状況が状況だから、こんな遠回しな方法しかできないけども、俺は本気だ。
魔術師の話では、文化祭の前後くらいに、よみがえりが終了する予定らしい。それまでには、何とかしてほしい。俺自身も、出来る限りのことはする。
これは俺の、恐らく最初で最後になる、SRSへの依頼だ。




