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幕間・C

(前回からの続き)

 ……やっとだ。

 長かった話も、これでようやく終わり。

 色々と面倒な条件をクリアして、色々と面倒な段階を踏まなければいけないけど――だけど、それでようやく彼女をよみがえらせることができるのだ。アイツとの日々を、取り戻すことができるのだ。

 俺は、夢想する。

 きっとそれは何でもない日常の連続なんだろう。アイツはいつものように朝練を終えて俺の隣の席に座り、始業までの少しの時間に馬鹿な話をして、アイツはそれで、ポニーテールを揺らしながらケラケラと笑って。一緒に昼飯を食べて。一緒に下校して。日曜日には一緒に映画を見に行ったり、買い物に行ったり、アイツの試合を応援しに行ったり――そんな、何でもない、だけどかけがえのない日常の繰り返し。

 俺は、ようやくそれを手に入れるチャンスを得たのだ。

 しかし、それが次に言った言葉に、俺は何度目かの戸惑いを見せることになる。

『一つお断りしなければならないことがあります』

「何ですか?」

 もう今さら何を言われても驚かない自信が、その時の俺にはあった。だけどその自信は瞬時に打ち砕かれることになる。

『死者をよみがえらせると、確かに私はそう申し上げました。しかし、それは恐らく、あなたが想像しているような形ではありません』

「え、どういうことですか?」

『生身の体を伴うのではなく、よりしろとなる体に宿らせての復活になる、ということです』

「……何を言っているのか、全然分かりません」

 実際、まるで分からなかった。よりしろとなる体に宿らせての復活? 意味が分からない。

『あなたがよみがえらせたいと思っている人物は、よりしろ――つまり、あなたの中でのみ、よみがえるのです。それまで、仮の存在は結界の中でのみ存在し続けました。その後は、あなた自身が結界になるのです。しかし、その内にいるのは、仮の存在などではありません。確固たる存在として、あなたの中でよみがえるのです』

 ――そんなのは。

「そ、そんなの――今と変わらないじゃんかっ! アイツが死んでから今まで、彼女はずっと俺の中で生き続けてるっ!

 それを今さら、こんな面倒なマネしてわざわざ俺の中で生き返らせたって――」


『それは少し違います』


 それの声が俺の言葉を遮った。大きくも明るくも熱くも柔らかくもなく、小さくも暗くも冷たくも固くもない、何とも中庸な声音なのに、俺はそれをはねのけることができない。

「あなたの記憶の中で生き続けるなどという、そんなレベルの話ではないのです。死者の人格、記憶、能力、個性――その全てが、あなたのモノとして再構成されます。つまり、亡くなった方の力の分だけ、あなたは大きくなれるということです」

 頭脳や運動神経、センスや才能など、各種能力までも自分の中に取り込めるということか。

 だけど。 

「俺はそんなの望んでないですよ。俺はただ、アイツを、彼女を取り戻したいだけなんです」

『今あなたは亡くなった方のことをアイツ、彼女と仰いましたが――その方はあなたの恋人だったのですか?』

「まぁ……そのようなものです」

『だったらなおさら、あなたは、彼女をよみがえらせるべきです』

「だから、よみがえらせるって、俺の中で、でしょう? アイツの能力を手に入れられるとか言われても、そんなのどうでもいいし、

 生身で復活させられないんじゃ、何の意味もないですよ」

 実は言うとこの時、もう半分以上興味を失っていた。適当に話を切り上げて、帰るつもりいたのだ。

 どうやって来たのか分からない以上どうやって帰るのかも当然分からないのだけど、そんなのは、この魔術師に頼めばどうとでもなることだ。

 だけど、魔術師はなおも語りかけてきた。

『本当にそうでしょうか』

「本当にそうですよ」

『生身の体をともなって復活しても、結局、人と人は皮をへだてて離ればなれではありませんか。どれだけ肌を合わせたって、真の意味で一緒になれる訳ではないのです』

「……アンタのやり方なら、真の意味で一緒になれるって、そう言いたいんですか?」

 さっきからオウム返しばかりだ。休みなしで色々な話を聞いたせいで、頭が疲れている。

『まさにその通りです。私の言うとおりにすれば、あなたはきっと満たされる。彼女を取り戻して、幸せになることができる――そう思うのですが』

 何だか、頭の芯がぼぅっとしてきた。

 現実感のない場所で、輪郭のあいまいな人間と話をしたせいで、判断力が鈍っている。

 確かに、人は基本が、一と一だ。二になることはできても、一になることは、決してない。

 俺とアイツはどうだろう。

 あのままつきあい続けても、いつか別れが訪れていたのかもしれ

ない。仮に結婚して家庭をつくることになったとしても、いつかは、どちらかが先に死ぬ。それだけは絶対だ。真の意味で一緒になることなんて、不可能だ。

 分かっている。

 分かっているつもりだ。

 だけど。

 だけれど。

 俺は、どうしても魔術師の誘いに首を頷くことができないでいる。


「何で? やってみればいいじゃんか」


 突然の声に、俺はバネ仕掛けのおもちゃのように跳ね上がり、慌てて声のした方を向いた。

(続く)

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