第四章・E その2
十月十七日(月)午後三時四十五分
女神像ホール
ユカは途方に暮れていた。
自分の周囲で、何かが起きている。より正確に言えば、十組の子達が、何か起こそうとしている。どこか不自然な十組の子たち。ユカだけが知らない、ヨウコ、ナギという女生徒の存在。それとほぼ同時に姿を消した六人の後輩。何かを画策している十組の面々。そして、それを探ろうとしているSRSメンバー。
この数日で分かったのは、たったそれだけ。
不安と焦燥は募るばかりだ。
彼氏のイズミは全てを知っているようだが、「文化祭が終わるまでは教えられない」の一点張りで、その先を教えてもらえない。
――十組を裏切ることはできないから――
というのが、その理由だ。もちろん、ユカだって、イズミに自分のクラスを売れ、などと強要するつもりなどない。ただ、本当のことを知りたいだけなのだ。
そんな十組の動向を探っているのがSRSというグループで――その主要メンバーであるミライとゴウ、そして最近新メンバーに加わったジュンは、三人ともユカと同じ三年五組に所属している。逆に言えば、同じクラスだったからこそ、ユカは巻き込まれてしまったと言える。ゴウは『噂』という道具を巧みに使ってユカを操り、自覚せずにスパイの真似事をさせ、十組の内情を探らせようとしていたのだ。妹のように可愛がっているナミの噂を餌に、ケンを操ろうとしていたジュンも同様である。
そして、ゴウとジュンのバックにいたのが、ミライである。
全てを見透かしたような言動で、すでにある程度の情報は得ているようだが――そんな彼に詰め寄ったところで、真相は教えてもらえない。どうやら、SRSは一枚岩ではなく、各メンバーが別ルートで同じ案件を処理している、というパターンも少なからずあるらしい。今回は正にそのパターンで、ミライ、ゴウ、ジュンの三年五組メンバーとは別に強力なメンバーが動いているらしい。ミライは明言しなかったが――言わなくとも分かる。ミライと同等か、あるいはそれ以上のカリスマ性を持つメンバーと言えば、彼女以外に考えられない。……ユカには直接関係しない話なのだけど。
かぶりを振り、天を仰いだ。
首を上方向に曲げ、自分が寄りかかっているモノを見上げる。
この学校のシンボル、女神像である。
下から見上げるその姿は雄大で美しく、どこか神々しささえ感じさせる。精神的に随分と疲弊している筈なのに、何故か、ほんの少しだけ落ち着いた気持ちになれるから不思議である。
しばらくは女神像を見上げていたユカだったが、首が痛くなり始めたところで断念し、視線を下に戻した。
何だか、妙に騒然としている。
この場所は『女神像ホール』と呼ばれている。普段は、中央に女神像が置かれただけで他は何もない、だだっ広いだけの空間である筈なのだが――今日は、少しだけ違うようだ。ホールの至る所に人垣が出来ている。恐らく、皆、二年十組の子たちなのだろう。
ほど近い場所では、マサヤスとヨウコが中心となって、木材を組み合わせて屋台を制作している。作業に没頭しているせいか、ユカの存在には気が付かないらしい。こんな時に真っ先に気付いてくれる、イズミの姿はない。何か他に用事があるのだろう。でも、今はそれが有り難かった。あまり、人と話したい気分ではない。
それより何より――ヨウコやナギとは、イズミの家での一件のまま、一言も言葉を交わしていない。それどころか、お互いに、目を合わせようとすらしない。気まずいことこの上ないが――この宙ぶらりんな状態では、彼女たちの存在を受け入れることはできないのだ。……早く楽になりたいと、強く思う。
少し離れた所ではレイとセイシ、オミナリ、サハリ、タカシなどのグループが、同様に屋台を制作している。皆、ジャージなどの動きやすい格好なのだが、レイ、セイシ、オミナリの三人だけは、左腕に腕章をつけている。それが、気になるといえば気になる。
ホールの端ではマコイやトシヒロといったハルカグループの子たちが集まっているが、どういう訳か中心人物のハルカの姿が見当たらない。何かと多忙な子だから、文化祭以外にも色々と抱えているのだろうけども……。
どういう訳か、このグループはほぼ全員が左腕に腕章を付けている。見たところ、腕章を付けていないのはグループの真ん中で作業をしている短髪の男の子だけだ。何か意味があるのだろうか。
まあ、それはいい。
問題は、そのグループの手前に陣取っている、委員長アオイたちのグループである。イズミから聞いた話によると、彼らはおでんを出し物として勝負する、という話だった筈だが――どう見ても、おでん屋台を制作している風ではない。手書きらしき設計図を片手に、段ボールやベニヤ板を切り貼りし、白や黄色のペンキで彩色している。あれは、一体何なのだろう? 距離があってよく分からないのだが、屋台制作でないことだけは明らかである。
それより何より、グループ一同の発するオーラが異様である。皆、目をランランと輝かせ、時折、奇声や歓声をあげる子までいる。その異様なテンションと、これまたほぼ全員が着用している腕章とのギャップが不気味さに拍車をかけている。はっきり言って、近寄りがたい。元よりユカは無関係だが、極力関わり合いにならない方がいいだろう。
――さて、どうしようか。
自分を取り巻く奇妙な状況の真相究明は、ほぼ手詰まりと言える。イズミもミライも、各々の理由で解説はおあずけ。中途半端な格好で宙に浮かされたような気分である。もっとも、イズミに関しては『文化祭が終わったら教える』と明言しているのだから、取り敢えずそれまで我慢すればいい話なのだけど。
女神像にもたれ掛かったまま、小さく伸びをする。イズミも忙しそうだし、今日は一人で帰ろうか――そう思い始めていた、その時。
「ここにいたのか」
上方から声をかけられた。声のした方を見上げると、そこにはケンが立っていた。朴訥で口下手な、隣の席のマッチョマンである。
「……私に何か用?」
意識せず、尖った声になる。気が立っているのかもしれない。
「用って程じゃない。ただ、お前がミライやゴウとやり合ってるのを見て、どうしたのかと心配になった。声をかけるタイミングを探していたら、いつの間にかお前はいなくなってた」
「それで、探してたの?」
「そういうことになる」
相変わらずの、言葉の足りない朴訥な口調だが、それでもケンの優しさは伝わってくる。強面の外見と不器用さで幾分損をしているが、本当は器の大きい、心優しい人間なのである。
「……別に、やり合ってた訳じゃないよ。ただ……何て言うか……」
「言いづらいのなら、無理に言わなくても――」
「あれー、何で二人がここにいるのー!?」
頓狂な声に、ケンの言葉は遮られる。
見れば、ビニール袋を提げたナミとイズミが、ホールの入り口からこちらに向かって歩いてくるところだった。袋は半透明で、大量の紙皿や割り箸が透けて見えている。どうやら、買い出しに行っていたらしい。袋はパンパンに膨らんでいてなかなかに重そうだが、ナミの右手にはしっかりとパック牛乳が握られている。
一方のイズミは、笑顔で快活に挨拶をしてくる。いつもの、社交的で人懐っこい笑顔。
――だけど、どこかよそよそしく感じられるのは何故だろう?
別に、喧嘩した訳でもないし、お互いに不信感を持っている訳でもない。それは違う。だけど……今は、何故か彼が遠く感じられる。単純に、ユカが勝手にそう感じているだけなのか、それとも――
「ちょっと、部外者は立ち入り禁止だよ!? 用事がないなら、帰った帰った!」
と、ナミの剣幕に、ユカの思考は打ち切られる。何て乱暴な。
「待て。ここは別に、お前らの場所じゃないだろ」
抗議するケン。ユカも同感だ。言うまでもなく、女神像ホールは学校の共有スペースである。どのクラスの生徒がいたところで、何の問題もない筈である。
「でも私らはここでお店やるだよ? そのために、今からこうやって準備してるんじゃん! つまり、文化祭の準備期間と開催期間中は、私らの場所なの!」
そんな無茶な。第一、厳密に言えば今日はまだ準備日ではない。準備期間は明日からだ。
「前も言ったけど、ケン兄ィに話すことなんて、何にもないんだからねっ!」
どうやら、ナミのこの剣幕は、ケンに対する警戒心の表れらしい。
「……いや、俺はお前から何かを聞き出すために来たんじゃないよ。それは本当だ」
困惑しながらも、大人の対応をするケン。
「ただユカを探しにここに来ただけだ。ナミも十組も、関係ない」
「本当にー?」
露骨に疑わしげな視線を寄越すナミ。
十組の子たちとは、クラス、学年を越えて親密な関係になっていると思っていたのだけど……どうやら、今は何を言っても無駄なのかもしれない。SRSが妙な真似をしたせいで、双方の信頼関係はガタガタだ。
「まあまあ、そこまで疑っちゃ可哀想だよ」
今まで黙って見ていたイズミが、口を挟む。
「ケン先輩は嘘を吐けるような人じゃないし、それはナミだってよく分かってる筈だら? そこまで邪険にすることもないじゃんか」
警戒心丸出しのナミとは対照的に、イズミからはむしろ余裕が感じられる。ユカとケンには、十組の内情を探る意志など、すでにない――そう思っているのかもしれない。実際、ユカは文化祭が終わるまでは、真相究明は無理だと諦めかけていた訳だし。
「それに、さ」
柔らかい声で、イズミは続ける。
「十組外部の人間なら、あそこにもいるよ?」
イズミが指さした先――ハルカのグループが固まっている、さらにその先に、一人の少年が立っている。ホールの隅で、誰と話すでもなく、作業を手伝う訳でもなく、ポケットに手を突っ込みながら壁にもたれている。猫っ毛で、どことなく愛嬌のある顔立ちをしている。……と言うか、あの少年の存在なら、ユカもずいぶん前から気が付いていたのだが……。
「ああ、アイツ?」
そこで、ナミがある名前を口にする。
その名前ならユカも聞き覚えがあるが――まだピンと来ない。
「えっと……あの子って、十組の生徒じゃなかったっけ?」
「違うよ! ユカちゃん先輩、それマジで言ってンの?」
ナミが本気で驚いている。
「確かに、ハルカやサイコとよく一緒にいるけど、マサ自身はれっきとした九組の生徒だよ!?」
なるほど、あの少年は『マサ』というニックネームで呼ばれているらしい。本名を略して愛称に転用されるパターンだ。
「もう……ユカちゃん、私らとしょっちゅう一緒にいるんだから、十組の生徒かそうじゃないかくらい把握しといてよー」
一人納得するユカの横で、ナミはまだぶうぶう言っている。そんなこと言われても、ハルカグループとはほとんど接点がないし、今名前が挙がった『サイコ』という子も、ユカは知らない。無茶を言わないでほしい。
「部外者はそれだけじゃないよ」
ニヤリ、と口角を僅かに歪めて、次の話題に移るイズミ。何だか、ひどく悪い顔だ。温厚で大らかな彼のイメージにそぐわないが、これはこれで可愛い――などと口に出したら、イズミは真っ赤になって黙ってしまうだろう。あえてそれをしてみたい誘惑に駆られたが、空気を読んでやめておいた。
それはともかく。
「ほら――あそこ」
イズミが親指で指し示す方向――ホール北側、扉の影に、三人の人物が立っている。こそこそと隠れるように立っているので判じづらいが、よくよく見れば、皆知っている顔だった。
長髪、三白眼の少年、ラン。
角張った輪郭に細長い目が特徴的なヒサナ。
そして、丸顔に垂れ目の少女、マリ。
三人揃って、扉から顔を突き出す形でこちらを窺っている。
確か、三人とも七組の生徒だった筈だが、ここで何をしているのだろう? あれでは、まるで――
「スパイだーッ!」
いきなり立ち上がり、大声で叫んだのは、もちろんナミである。真横で叫ばれたものだから、鼓膜がビリビリしている。力みすぎたのか、手にしていた牛乳パックは完璧に握りつぶされている。噴射した中身は、全てイズミがかぶってしまった。慣れているのか、イズミはそれを、手ぬぐいで拭っている。どこかで見た光景だ。
「……スパイだァ?」
ナミの雄叫びを耳にしてか、レイたちと焼きそば屋台を制作していたタカシが色めき出す。このタカシという少年、ケンほどではないが、割と筋肉質な躰をしている。いつも迷彩柄のバンダナを頭に巻いていて、眼光も鋭いため、なかなか迫力があるのだ。いつもは温厚かつ朴訥とした性格なのだが……。
扉から覗いているのが七組の生徒たちだと気付いたのだろう。眉間に皺を寄せながら、ツカツカと近付いていくタカシ。
「何だオメーら。ジュリの差し金か? 自分らが女神像使えなくなったからって、七組はそんな卑怯な真似すんのか。あぁ?」
凄んでいる。こんなの、ユカが知っているタカシじゃない。
「人聞きの悪いこと言っちょし……。オレらは、ただ近くを通りかかっただけずら。七組の教室、すぐそこだし」
動揺しながらも、真ん中に立つランが反論する。
「完璧に覗き込んでたじゃねーかよ。下らん言い訳すんなや」
「そっちこそ、下らん言い掛かりしちょしっ!」
ランの横に立つヒサナが細い目を精一杯に剥いて、声を荒げる。
「第一、今回十組に女神像渡ったのだって、お前らンとこの委員長が卑怯な手使ったせいずら!? それを我が物顔で占領しやがって」
「そうだよ!」
さらに言葉を重ねるヒサナに、マリが乗っかる。
――そして、決定的なことを口にしてしまう。
「女神像は、七組のモノなんだからねっ!」
……嗚呼。
それは、決して口にしてはいけない、禁句なのに。
案の定、後ろの方で傍観していたセイシ、レイ、サハリ、そしてタカシの親友であるキンが一斉に色をなす。
「……何だって?」
「聞き捨てならないな」
「勝手なこと言われると困るんだけど」
「女神像は十組のモンだに?」
四人揃ってタカシの横に並ぶ一同。
思い出した。
ラン、ヒサナ、マリ――確か、女神像で出し物をすることに最も執着していたのが、この三人ではなかっただろうか。部外者なので詳しい話は知らないが、噂で聞いたことがある。この三人が委員長であるジュリを焚き付け、女神像出店を強く推していたのだとか、何とか……。言わば、『七組の女神像トリオ』である。
それに対して、タカシ、キン、セイシ、レイ、サハリの五人は十組の中で最も女神像に執着している一派であり、こちらは『十組の女神像チーム』と言える。
ランたちが偵察目的でこの女神像ホールにやって来たのかどうか、本当のところは分からない。だが今はもう、そんなことはどうでもよくなってしまった。事もあろうか、『七組の女神像トリオ』と『十組の女神像チーム』が、女神像ホールという因縁の場所で出逢ってしまったのだ。最悪の巡り合わせである。
「だっちもねえこん言っちょしッ! 女神像を私物化しちょッ!」
「私物化しとるのはどっちだッ! どう考えたって女神像は十組のモンじゃんかッ! 七組には貸してやっとるだけだでなッ!」
「はァ? 寝言は寝て言えし。いつどこでそんなのが決まっただ」
「七組なん、女神像の裏側じゃんかッ!」
「女神像に裏も表もあるけッ! 第一、女神像は七組側から見た方が美しいずらッ!」
「それこそ、どこの誰が決めただッ!」
熾烈な口論が展開している。どこまで行っても平行線なのは分かりきっているのに、お互い一歩も譲ろうとしない。
まさに一触即発――。
そんな時だった。
ホールの中央辺りで、緊迫した場に不似合いな歓声が上がる。
何だろうと思ってそちらに視線を向けたユカは――そのまま、固まってしまう。
巨大な物体が、ゆっくりと起き上がっている。
ロープの端を物体に括り付け、もう一方の端をアオイたちのグループが引っ張り、てこの原理で持ち上げているのだ。
あれは――。
白を基調に、胸部に青、腹部に赤、腰の部分には黄色というトリコロールの彩色をなされた、無機質かつ勇壮なデザイン――角のようにも見える、特徴的なV字型アンテナ――誰もが必ず一度は目にしたであろう、あまりにも有名な、その立ち姿――
いわゆる一般的な女子高生であるユカも、一目見て分かった。
七十九年に放送がスタートし、三十年近く経った今でもシリーズ展開している、熱狂的なファンが多いことでも有名な、あまりにも、あまりにも有名なロボットアニメ――作品タイトルにもなっているモビルスーツ――それが、悠然とそこに屹立していた。
遠目にも、嘆息する程のクオリティである。恐らく、段ボールとベニヤ板を貼り合わせ、それにペンキで彩色しただけの代物なのだろうが、とてもそうは思わせない。オリジナルのモビルスーツが持つ魅力のおかげか――あるいは、アオイたちの情熱が、これだけ完成度を高くしているのか……。
「あれは……何だ?」
唖然とした面持ちでケンが尋ねてくるが、聞かれても困る。尋ねる相手を間違えている。
「ケン先輩、知らないんですか?」
驚いた顔のイズミが、続けて作品タイトルを口にする。
「いや、それは俺にだって分かる。そうじゃなくて……あそこは、おでんをやるんじゃなかったのか? 何でアレなんだ?」
ケンの言いたいことは分かる。確かに、アオイたちの作り上げたそれは、立派だ。インパクトも強いし、無駄にクオリティも高い。文化祭の出し物としては充分に及第点なのだろう。
しかし、アオイたちの出し物はアレではなく、あくまでおでんなのだ。おでん屋なのだ。ユカが無知なだけかもしれないが――アレとおでんに、何の結びつきがあるのだろう? 関係なんて何もなく、ただインパクト重視で、客寄せオブジェのつもりでアレを制作したのだとしても、何故アレをオブジェのモチーフに選んだのか、という謎が残る。少なくない材料費と手間と時間をかけてアレを制作することに、何の意味があると言うのか……。
「男はみんなアレが好きなんだよ」
やけに明朗な声で、イズミが答える。それでいいのか。まるで答えになっていないと思うのだけれど。
「――あれ!? アイツらはどうした!?」
タカシが何やら大声を出している。
いつの間にか、『七組の女神像トリオ』が姿を消している。さっきまで『十組の女神像グループ』と口論していたと言うのに……。
どうやら、皆がモビルスーツのオブジェに気を取られている隙にいなくなってしまったらしい。
「くそっ! 今日こそ決着つけてやろうと思ったのに!」
十組の女神像グループが悔しがっているが、もうそちらに対する興味は薄れていた。それよりも、
「ね、近くで見てみようよ」
イズミに手を引っ張られ、ユカはもたれかかっていた女神像から離れる。気のせいか、例のモビルスーツがその身を起こしてから、イズミのテンションが少し上がったような気がする。さっき自分で言っていた通り、男の子はみんなアレが好きなんだろうか……。
「アオイ、すごいじゃんか」
「いやぁ、週末からずっとやってきた甲斐があっただよ。本心を言えばもっと色々やりたかったんだけど、まあ、現実的に考えたらここまでが限界だよねー」
得意満面といった表情で、絶賛するイズミに答えるアオイ。どこから取り出したのか、水筒から注いだ緑茶に口をつけている。今は休憩中、ということらしい。
「あ、ユカ先輩もいらしたんですね。どうですかこれ。作った俺が言うのもなんですけど、凄くないですか?」
部外者であるユカにも、アオイは気さくに話しかける。
アオイを始めとする十組の面々は、元々開放的な性格をしているのだ。影に隠れて何かをこそこそ画策するなんて、似合わない筈なのだ――本来は。
だからこそ、今回の件には違和感を感じてしまう。
本当なら、目の前にいるアオイに、その疑問を、不安を、モヤモヤの全てを、ぶつけてしまいたい。しかし、イズミが近くにいるこの状況でそんなことが聞ける訳もなく――結局、さっきから抱いていた疑問を口にする。
「いや、凄いは凄いけど……あの、なんでアレなのかな? アオイ君のとこって、おでん屋さんでしょう?」
「あー、そうですねえ……」
僅かに眉間に皺を寄せ、頭をかくアオイ。
その後、数分に渡って色々と語ってくれたのだが――正直、ユカはその話の九割も理解できなかった。ファーストがどうの、ナントカ専用のナントカがどうの、どこそこのシーンのナントカという台詞がどうの――マニアックかつディープな話題ばかりで、到底ついていけない。
「アオイ、もういいだろっ!」
ユカが混乱しているのが分かったのだろう。今まで黙って聞いていた横の男子生徒が、慌ててアオイの口を押さえる。この子は顔に見覚えがある。確か、サッカー部のタイシという少年だ。
「このガノタが――放っておいたら、一時間でも二時間でも語り続けンだもんな。ユカ先輩もやめてくださいよ。俺ら、まだ今日中にやらなきゃいけないことあるんですから」
叱られてしまった。どうやら、アレの話題を振ったと思われているらしい。アオイの話のほとんどが理解できず、そもそも、タイシがアオイを評して言った『がのた』が何なのかすら分かっていないというのに。
「いやあの、ちょっと待ってってば。私は、『何故このモビルスーツを選んだか?』じゃなくて、『何故、客寄せのオブジェにコレを選んだのか?』ってことを、聞きたかったんだけど……」
言った瞬間、僅かに時間が止まった。
アオイもタイシも、周りにいるアオイグループの子たちも、皆きょとんとした顔でユカを見つめている。
「ユカ先輩、何、言ってるんですか? 誰だって、みんなコレが大好きじゃないですかッ!」
声高にアオイが宣言する。
「俺たちはみんな、人生にとって大事なことは、みんなコレから教わったんですッ! 客寄せのためなんかじゃありません! 愛ですよ! このモビルスーツは、俺らの愛の結晶なんですッ!」
……だんだん頭が痛くなってきた。
本当に、ついていけない。要するに、客寄せがどうの、実益がどうのではなく、アオイたちはただ、作りたいから――そんなシンプルな理由で、この巨大模型を完成させたらしい。
「みんな、そうだよなッ!」
アオイの問いかけに応えるように、オォ、と太い歓声が上がる。
さっきアオイを『がのた』だと糾弾していたタイシも、一緒になって盛り上がっている。つまり、アオイほど熱狂的ではないにせよ、皆、好きなことに違いはないらしい。
ユカが呆れ果てて見ているその前で、アオイグループは作品タイトルのシュプレヒコールを始めている。さっきまでは少しテンションの上がっていたイズミだが、さすがにその輪に加わろうとはせず、若干引いた眼差しで、彼らを眺めている。
「……ユカちゃん、行こうか……」
「うん……」
二人はゆっくりと踵を返した。
と、視界の隅に人影が映った。ホール北側の扉――さっき、『七組の女神像トリオ』が覗き込んでいた場所である。
今は、中央に別の人物が立っている。
まず、一見して目を引くのは、大袈裟に外に跳ねた、やや明るめの髪である。そのギザギザ跳ね毛のために、頭が二倍のボリュームにまで見えてしまっている。顔立ちは比較的整った方だが、今は口を開けて放心状態といった体である。視線の先には、例の巨大模型。そして、手には何故かぬいぐるみが握られている。
七組の委員長・ジュリである。
頭の回転が速く、発想も豊富で、七組内での人望も厚いが、いかんせんアクの強い性格で、特に十組とは衝突が絶えないのだと言う。事実、又聞きではあるが、最近も女神像絡みでアオイとトラブルを起こしたばかりだ。そのジュリが、今は呆気にとられた、といった面持ちで、モビルスーツに見入っている。
よく見ると、唇の端がヒクヒクと震えている。大丈夫だろうか。
ジュリの後ろには、例の女神像トリオが側近然として控えている。
他には、黒縁眼鏡の、少し気難しそうな少年が距離を置いて立っている。顔に見覚えがあるが、ちょっと名前が思い出せない。確か、六組の生徒だった気がするが……。
「アイツ、何か様子がおかしくない?」
イズミに指摘されるまでもなく、ジュリの挙動は明らかにおかしかった。ただ単に、アオイたちの作った巨大模型に圧倒されている、というのとは、少し違う気がする。それ以上の衝撃を受けている顔だ、あれは。
「あ……あ……」
遠くてよく聞こえないが、言葉にならない言葉を口から漏らしている。心配してか、横にいたランがジュリの躰を揺すっているが、それでも反応はない。
第一、何故ここにジュリがいるのだろう?
状況から鑑みるに、一度姿を消した三人がジュリを呼んでまた戻ってきた、といったところだろうが――わざわざジュリを呼びに行く意味が分からない。もちろん、ユカが知らないだけで、彼らには彼らの理由が存在するのだろうけどれども。
「あ……あ……」
まだ放心している。
アオイグループはまだ盛り上がっている最中だし、他のグループはそれを呆気にとられて見ているだけで、今の所、ジュリたちに気が付いているのはユカとイズミの二人だけのようだ。タカシやセイシといった女神像グループに気付かれると、また話がややこしくなるに決まっている。何をしに来たか分からないが、今のうちに帰った方が、七組にとっても十組にとってもいいと思うのだが……。
「あ、あ、あ――」
しかし、そんなユカの想いが、ジュリに届くわけもなく。
「あああああああああああああああああッッッ!!!」
突如として大声を張り上げ――何と、手にしていたぬいぐるみを両手で引き裂き始める。可愛らしいキャラクターぬいぐるみは頭と躰に分断され、中に詰められていた綿が勢い余って周囲に散乱。引き裂いた張本人であるジュリは、肩で息をしている。
まるで状況は分からないが、とにかく関わり合いにならない方がいいのは確実だ。
「ジュ、ジュリ――大丈夫か?」
どう見ても大丈夫そうには見えないのに、近くのランはそんなことを聞いている。今の奇声を耳にしてか、十組の子たちも、次々とジュリの存在に気がつき始める。いけない。このままでは騒ぎになってしまう。
「……ぷらんへんこう」
ユカの危惧も周囲の騒ぎもまるで気にしない風に、表情をなくしたジュリが何事か呟いている。隣にいたランですらうまく聞き取れなかったらしく、耳を寄せている。
「え、ジュリ、何だって?」
「プラン変更ッ!」
再び大声をあげるジュリ。耳を寄せていたランはたまらず、目を白黒させて悶絶している。
「プラン変更って……え、今から?」
「当たり前じゃんけ! アレ相手じゃ、勝てんっちゅうこん! 今から戻って、プラン練り直しするよッ!」
言うが早いか、ラン、ヒサナ、マリの三人の手を強引に引っ張り、ホールから姿を消す。
後には、ジュリが引き裂いたぬいぐるみだけが残った。
「あーあ……。レンタル品なのに、どうするんだ、これは……」
一人残された黒縁眼鏡の少年が、ぬいぐるみの残骸を手にして呆れている。さらに、かぶりを振りながらホールの中央へと歩いてくる。ジュリたちと一緒に戻るつもりはないらしい。
「オイオイ、ヒトナリ。今のは何だん?」
「何だマサ、いたのか」
傍観者然とした黒縁少年に――ヒトナリという名前らしい――同じく傍観者然としていた猫っ毛の少年・マサが近づく。二人は以前からの知り合いらしい。
「何だも何も――まあ、話すと長くなるから割愛するが、それぞれのクラスにはそれぞれの事情があるということだ」
あまり表情を動かさずに答える少年。
「それより、お前はここで何をしているんだ。お前らの所も、今日から準備が始まっているんじゃなかったのか?」
「俺は接客担当だもん。今やることなん、ほとんどないわ。だから、ここで暇つぶし」
「それなら帰ればいいだろうに。誰か待っているのか」
「それはまぁ、色々と。……それぞれのクラスにはそれぞれの事情があるってことだわ」
口角を歪めて、マサはヒトナリの言葉を引用する。
「それより、ヒトナリの方こそ、こんなとこで何やっとるだ。ジュリたちと一緒みたいだったけど、お前は七組じゃなかったよな?」
「クラスは六組だが――ちょっと調べ物をしててな」
「調べ物って何だ」
「いや、本来はアオイと一緒にやっていたんだが……うん? 肝心のアオイはどこに行ったんだ?」
眼鏡のフレームを指で上げながら、辺りを見渡すヒトナリ。
「えっと――あれ? 本当にいないな。さっきまで、『光る風の中』で『燃え上が』ってたんだけどな」
ニヤニヤと笑いながらマサが応える。何やらうまいこと言ってやったみたいな顔だが、ユカにはその意味がよく分からない。
それにしても……アオイたちは、本当にどこに行ったのだろう。
さっきまで、巨大模型の下で延々とシュプレヒコールを続けていて、そのまま胴上げでも始めそうな勢いだったのに。
「……ああ、あんなトコにいた」
最初に気が付いたのは、マサだった。見れば、アオイたちはいつの間にか、ホール南側の出入り口へとグループごと移動していた。盛り上がるだけ盛り上がっておいて、もう気が済んだらしい。あるいは、ただ単に飽きただけか。
「何食べに行く?」
「ラーメンは?」
「うーん、おれ、朝もラーメンだったからなぁ」
「そっか、じゃあやめて、炭焼きハンバーグでも食べるかね」
「いいじゃん。久しぶりだよ」
話題は、下校途中に立ち寄る店について、だろうか。本当にマイペースな連中だ。
……と言うか、何故「朝もラーメンだった」という発言に誰も突っ込まないのだろうか。朝からラーメンだぞ。発言者はタイシである。彼はサッカー部のエースで、新陳代謝も活発だから、朝から多少脂っこいモノを食べても平気なのかもしれない。しかし、ラーメンとは……。
それにしても、もう帰るのか。さっきはまだやることがあるみたいなことを言っていたくせに。適当と言うか、やはりマイペースと言うか……。
「アオイ!」
ガヤガヤと帰途につきかける一同に、ヒトナリが呼びかける。アオイは振り向き、驚いた顔を見せて一人でこちらへと戻ってくる。他のメンバーは先に行かせるつもりらしい。
「ヒトナリ、いたんだ!?」
「……俺の存在に今気付いたのは、百歩譲ってよしとしよう。ただ、その様子だとジュリの来訪も、全く気が付いていないようだな」
「ジュ、ジュリがここに!? 何で!?」
普段は糸のように細い目を、精一杯に剥いて驚いている。
例のトラブルの後遺症からか、アオイはジュリに対して苦手意識を持っているらしい。
「って言うか、何でお前が一緒におっただ!?」
それは、ユカも気になっていた。このヒトナリという少年。理知的で落ち着いた雰囲気だが、先程から、何となく挙動がおかしいような気がする。さっきは、マサ相手に調べ物をしている、などと言っていたが……?
「何か、ヒントになるモノでもないかと思ってな」
「ヒント?」
「そうだ。お前の方こそ、どうなっているんだ。散々振り回しておいて、放置状態じゃないか」
幾分、詰問するような調子で、ヒトナリはアオイに問い掛ける。
「ん? 何の話?」
「何のって、だから――」
声のトーンを何段階も下げて、ヒトナリは言う。
「魔術師の調査についてだ」
「魔術師ぃ?」
背後で頓狂な声が上がる。マサだ。
「魔術師ってお前、まさか『裏山の魔術師』のことか? ヒトナリ、お前がさっき言ってた調べ物ってのは、そのことなのか?」
何故か周章狼狽している。
しかし、ヒトナリの言葉に衝撃を受けたのはユカも同じだった。
魔術師。
裏山の魔術師。
ゴウの話に出てきた単語だ。アイツの話によると、SRSは匿名の手紙を受けて、その魔術師のことを調べているのだとか――。
そして、十組の隠し事にも密接に関わっているのだとか――。
しかし、何故それに六組のヒトナリと九組のマサが関わってくるのだろう。相変わらず分からないことだらけだ。
「何を慌てている。ただの都市伝説だろう。校内に流布する都市伝説を俺が調べているのが、そんなに不可解か?」
「不可解だよ。お前がアオイと一緒になってそれを調査してるなんて。だって――」
――お前は関係ないじゃんかよ……。
吐き捨てるように、それこそ不可解な言葉を漏らすマサ。
「待て待て。それはどういう言い草だ。その文脈からすると、お前は何か関わってるように聞こえるが? お前、何か知ってるのか」
「いや、知ってるっつーか――」
「話の腰を折るようで悪いんだけどさ」
雲を掴むような遣り取りを続ける二人に割り込むようにして、前に出る人物がいた。セイシだ。
「ちょっと聞き捨てならないな。ヒトナリがアオイと一緒に魔術師の調査をしている? ……アオイ、それは本当なのか」
「俺もその話は気になるな」
「私も」
聞き耳を立てていたのか、セイシの後ろにマサヤスとヨウコが並んで立っている。いや、二人だけではない。二年十組のほとんどの生徒たちが、そこに揃っていた。
「――説明してもらおうか」
皆を代表するように、セイシが重々しく追及する。対するアオイは、若干青ざめた顔で、眉間に皺を寄せている。
「……悪いけど、今ここで全てを話す訳にはいかんだよ」
苦渋の表情で、言葉を紡ぐアオイ。いつものほほんとしてる彼が、こんな態度をとるなんて……。
「何でだ!?」
「……だもんで……」
「ちょっと待ってよ! みんな、冷静になれって!」
そこで踊り出たのが、今まで静観していたイズミである。
「ユカちゃんがおるだぞ!? マサもヒトナリもおるだ! こんなに部外者がいっぱいおる中で、アオイに何を話せって言うだよ!?」
必死の形相で言葉を放つイズミ。
その言葉に、ユカはまたしても、奈落の底に突き落とされる。
部外者。
ずっと感じていた不安の正体が、やっと分かった。
それは、疎外感だ。
恋人であるイズミとはもちろん、マサヤスやナミのグループとも、そこそこ仲良くやっているつもりでいた。ミライやゴウとも、ほとんど話すことはなかったとは言え、同じクラスの人間として、それなりの信頼関係を結んでいるものだと思っていた。
それがどうだ。
二年十組にも、三年五組にも、ユカの居場所はない。誰もが何かを知っていながら、お茶を濁すばかりで肝心なことを教えてくれない。不安は募るばかりだ。やっぱり――もう、限界だった。
「……教えてよ」
意識せずに言葉が出た。
「ねえ、みんな何を隠してるの? 何が起きてるの? 魔術師って何? ねえ、私にも教えてよ――」
「ユカちゃん……」
哀しそうな表情で、イズミが見ている。
哀しいのはこちらだと言うのに。
「だから――それは文化祭が終わったら全部話すって約束したじゃんか……。もう少しだけ、我慢してよ……」
「我慢できないって言ったら?」
「…………」
ユカの言葉に、イズミは俯いてしまう。ああ、嫌な女だなあと、自分で思う。年上なのに。フォローして、庇ってあげないといけないのに。こんなにも、イズミを困らせている。最低だ。人は、こんなにも自分を嫌いになれる。自己嫌悪で押し潰されそうだった。
「話がこんがらがってるようだが――」
仕切り直しとばかりに、ヒトナリが再び口を開く。
「どうやら、俺の知らないところで多くの人間が動いているようだな。そこのユカ先輩もそうだし、マサもそうだ。俺と行動を共にしていた筈のアオイにしたって、クラスの人間には内緒で動いていたらしいな。そして、全ての中心には、あの魔術師がいる――なあ、アオイでもマサでもいいから、話を整理してくれないか? ヒントを求めてここに来たんだが、正直混乱するばかりだ」
「いや、だから、だもんで――今イズミも言ったけど――文化祭が終わるまでは、何も話せんだよ……」
アオイも、皆と同様に苦しいのだろう。もう秋だと言うのに、汗だくになっている。
「ヒトナリにも、ユカ先輩にも、クラスのみんなにも――今はまだ、何も話せない。自分勝手なのは分かってるけど――もう少しだけ、待ってほしい。もう少しで、全部、終わるから……」
文化祭の終了と共に訪れる終焉――それは何を意味しているのだろう。苦しそうなアオイを目の当たりにしてしまうと、これ以上の追及もできない。
「……マサはどうだ? この状況で、何か言うことはあるか?」
いつの間にか、ヒトナリが場の主導権を握っている。立場的にはユカと大差ない筈なのに。
「いや、この状況じゃ、俺からは何も――俺だって、『お嬢』の命令で動いてるだけだし――」
『お嬢』。
それはきっと、九組の委員長のことを指しているのだろう。
才色兼備にして唯我独尊の校内のカリスマ――サエ。
彼は、彼女の意思の下で動いていたらしい。
――そうか。
サエもまた、SRSの主要メンバーの一人である。
つまり――。
「マサぁぁぁッ!」
緩慢な頭でユカがそこまで考えたところで、新しい闖入者が、大声を張り上げながら、西側の出入り口からツカツカと入ってくる。
大きな躰に大きな瞳。長い黒髪は強風に煽られてうねっている。
十組の副委員長・ハルカである。
その後ろには、ラテン系の、彫りの深い顔立ちをした小柄な少女が俯いて歩いている。顔色は蒼白を通り越して土気色である。
「マサぁッ! アンタって奴はッ!」
ハルカの声が怒気で震えている。それに対峙するマサは、無表情だ。まるで内面が読み取れない。
「……何だよ血相変えて。何かあっただか」
「ふざけんでよッ!」
勢い任せにマサの胸ぐらを掴むハルカ。何があったか知らないが、この態度は尋常ではない。
「全部バレとるだでねッ! サっちゃん使って、人を操るような真似して――信用してた私が馬鹿みたいじゃんかッ!」
「お互い様だら。そっちだって、魔術師調査に協力するふりして、オレの動向を監視してたくせに」
「やり方が汚いって言ってンの! 私が目的なら、直接私に接触すればいいら!? それを、サっちゃんを利用して、振り回して――この娘がどれだけ悩んだと思っとるよ!?」
声と同様に、胸ぐらを掴む手も震えている。
「おまけに何よ? 『ハルカには気を付けろ』とか言っただって!? 全部聞いただでね――どの口がそんなこと言うよ。自分が一番信用できん人間のくせしてさ。挙げ句の果てに、サっちゃん操って、おたくンとこの『お嬢』に引き合わせて――どんだけ怖い思いしたと思っとるよ……」
――絶対に許さんでね。
怒気を含みすぎているせいか、声の末尾は掠れていてよく聞き取れない。数瞬前まで真っ赤になっていたその顔は、極限を越えた怒りのために、逆に青ざめていた。
一方のマサはと言えば、長身のハルカに胸ぐらを掴まれ、吊されるような格好となっていて、少し苦しそうだ。
「――離しん」
憮然として、マサはハルカの手を力任せに振り解く。
「悪いとは思ってるよ。だけど、しょうがねェじゃんか。全部、お嬢の命令でやったことだ。オレの意思じゃねェんだよ」
「サエが――黒幕だったってこと?」
「そう言っちゃうと、オレらが悪の組織みたいじゃん。人聞きの悪いこと言うのやめりん」
「答えて。アンタはただの傀儡で、『裏山の魔術師』という都市伝説を聞かせて私らに近付いたのも、サっちゃんを利用したのも、全部アンタらの『お嬢』――サエの思惑だったのね?」
「まあ、そうなるな」
「アンタら……何を企んどるよ?」
少し落ち着きを取り戻してきたらしい。怒りの矛先が変わったからだろうか。さっきまでとは打って変わった、静かなトーンでハルカは尋ねる。
「だから、オレはお嬢に言われて動いとるだけだっての。知りたいなら、お前がお嬢に直接聞けや。同じSRSのメンバーだら?」
――え?
「同じSRSだからって親交がある訳じゃないに。あの娘とは、たまに顔合わせる程度だし、いつもたくさんの取り巻きに囲まれとるで、話しかけづらいもん。その点、アンタ相手なら聞きやすいと思っただけど――そっか、ただの使いっぱか……」
「嫌な言い方すんなや!」
ハルカが憎まれ口を叩いたことで、極限まで張り詰めていた空気が僅かに弛緩する。狙ってそれをやったのなら大したものだが。
下っ端扱いされてむくれているマサは、意識してか無意識的にか、話を振る範囲を拡散させる。
「アオイ、お前はどうなんだよ。SRSメンバーで、しかも委員長同士だら。ウチのお嬢から、何か聞いてンじゃねェの?」
「……ここしばらくは、顔すら見てないよ」
言葉少なに、アオイは答える。いつもの明るさは、そこにはない。
それよりも――ユカは驚いていた。
アオイとハルカがSRSの一員だったという事実に、だ。
ミライやゴウの話から、今回の件は二年十組対SRS、という構図になっているのかと思っていた。ところが、十組の中心人物であるアオイ、ハルカ自身がSRSメンバーなのだと言う。これは、どういうことなのだろうか……。
「やっぱり、ハルカもSRSだっただね……」
無言、蒼白な顔で俯いているだけだった少女が、ポツリと呟く。
「ん? ああ、別に隠しとった訳じゃないに? SRSメンバーって言っても、ミライさんに声かけてもらったばっかで、まだ何も仕事とかしとらんし――ってか、何よ? マサもサっちゃんも、二人して何でそんなにSRSにこだわるよ? 別に関係ないじゃん」
さっきから薄々感づいてはいたが、どうやらハルカは今回の件にSRSが絡んでいることを知らないようだった。
「関係なくないと思う……。サエも、SRSの人間なんでしょ。だから、多分――」
「ああ……そういうこと」
ハルカの後ろでボソボソと呟く『サっちゃん』が全てを言い切るまでもなく、ハルカは全てを察したようだった。この辺り、恐ろしく回転が速い。
「サっちゃんありがと。やっと見えてきた。サエは、SRSの人間として動いてるってことだら? あの人たちが魔術師について調べてるってのは知ってたけど、まさか、私たちに対してこんなことをしてくるなんてね……」
「オイ、一人で納得すんなや」
今まで大人しく聴衆に徹していたセイシが、少し離れたところから声を出す。
「アオイもそうだけど、お前ら、クラスに内緒で何やっとるだ? てか、SRSって何だ? 九組のサエが関係してるのか? 俺らにも分かるように説明しろって!」
珍しく攻撃的な口調になっている。混沌としたこの場が、彼を高揚させているのだろうか。
「私も説明してほしいな」
マコイも口を挟む。切れ長の目と、その上で一直線に揃えられた前髪が特徴的な和風美人である。
「まず、SRSってのが何なのか分からんし、アンタとアオイがそれに参加しとるってのも初耳。クラスのツートップが、みんなに内緒で何やっとるの? それって、SRSってのと関係あるの?」
眉を八の字にして、さらに言葉を重ねるマコイ。ハルカとマコイは親友同士だった筈だ。さっきのマサのケースではないが、彼女もまた、親友に隠し事をされたのがショックなのだろう。
「一言じゃ説明しづらいわ。別に隠してたとかそんなんじゃなしに、言う必要がなかったから言わんかっただけなんだけど……」
「じゃあ教えてよ」
困惑するハルカに、マコイが迫る。
「――今は無理。部外者が多すぎるら? マサはともかく、六組の人もおるし、三年五組の先輩もおるみたいだしね」
ヒトナリとユカ、ケンのことを指しているのだろう。また部外者扱いだ。しかし、それで黙っているヒトナリではない。
「悪いな。俺らも、それを教えてもらいたくてここにいるんだ」
彼の言葉が予想外だったのか、ハルカはただでさえ大きな目を、さらに見開いて驚いている。
「え、何で? アンタ、六組の人間だら? サエとも、SRSとも関係ない筈じゃんか」
「関係ないけど、あるんだよ。どこかの委員長様のおかげで、俺もすっかり巻き込まれてしまったんでな」
露骨な当て擦りだ。
ヒトナリの発言に、ハルカは眉をひそめて怪訝そうな顔をする。
「アオイ――どういうこと?」
ハルカの問い掛けにも、アオイは答えない。ただ、無言で首を横に振っている。
「私だって……部外者じゃ、ないよ」
ヒトナリに便乗する形で、ユカも思い切って発言してみる。
「ユカちゃん……」
諫めるような、咎めるような、それでいて、やはり少し哀しそうな、イズミの声。ユカは、ゆっくりと振り返る。
「イズミ……『文化祭が終わったら全部話す』って、イズミはそう言ったよね? アオイ君も同じことを言うし、ハルカちゃんは『部外者のいるところじゃ何も言えない』なんて言う。それぞれの言い分は、私にも分かる。それぞれの事情があって、それぞれの理由が
あるんだろうって、想像できる」
唇を濡らし、大きく息を吸い込む。
とにかくもう、本当に――限界だったのだ。
「でもね、考えてほしいの。ここには大勢の人間が揃っているけど――全ての状況を把握している人間が、ただの一人でもいるのかな? 私はいないと思う。みんながみんな、別々の思惑の下で行動していて、その誰もが事態の一部分しか見ていない。おまけに、嘘や隠し事、誤解や推測、駆け引きや情報操作――そういった色んな要素がごっちゃになるから、さらに状況は複雑になっていく。そうでしょう? ヒトナリ君の言う通り、私たちは部外者だけど――もう、部外者じゃない。今では立派な当事者だよ。多分、十組の子たちが知らないようなことも、知ってしまっているんだと思う。だけど、それは全体のごくごく一部。今の私は、何が起きてるかまるで分からなくて、気が狂いそうだよ。だから――みんながみんな、知っていることを出し合って、情報をすり合わせるのが大事なんじゃないかな。それだけが、事態を収束させる唯一の道なんじゃない? 私は、そう思うよ」
自分でも驚くほどの長口上を、ほとんど息継ぎもしないで言い切る。傍観者の一人にしかすぎなかったユカの発言に、皆が皆、呆然としている。
だけど、ユカにしてみれば何も唐突ではない。ずっと思っていたことだ。ユカはユカ視点で紡がれた物語しか知らないけど、それはユカが知らないだけで、きっと、幾つもの物語が同時進行で紡がれているのだ。目的も立場も思考パターンもバラバラだけど、全ての登場人物は、十組を中心にして廻っている。この場にいる全員がそうで――この場にいない、サエやミライといったSRSの人間も、そうだ。もしかしたら、ユカの知らない別の生徒も関わっているのかもしれない。
何にせよ、情報の共有が必要だ。
アオイとハルカを交互に見るが、二人とも何も言葉を返してくれない。天井を見上げたり視線を彷徨わせたりしながら、必死で言葉を探している。他の十組の面々も大体一緒だ。やはり、文化祭が終わるまで、『部外者』には何も話せないということだろうか。
イズミに至っては、完璧に顔を俯けてしまっている。前髪が目にかかって、感情を読み取ることが出来ない。
唯一、六組のヒトナリだけが興味深そうな表情を浮かべている。ユカの提案に賛同してくれたのだろうか。数歩こちらに歩み寄り、何か言おうと口を開こうとしている。
だが、結局ヒトナリは何も発することができなかった。
どこからか、拍手の音が聞こえてきたからだ。
ユカに集中していた数多の視線が、一斉に拍手のした方を向く。
ホールの西側――そこに、サエが立っていた。
縦ロールにした明るい髪に濃い目のメイク――元々の顔の作りが派手なものだから、等身大の西洋人形に見えてくる。そんな彼女が、酷薄そうな笑みを顔に貼り付け、拍手をしているのである。
「先輩のご高説、拝聴致しました。素晴らしく建設的かつ合理的な提案ですね。さすが、ミライさんのクラスメイトです」
何だか皮肉に聞こえるのはユカの穿ちすぎだろうか。先程と同様にポカンとする一同を尻目に、サエは悠然とした足取りでホールに入ってくる。いつもは無数の取り巻きが彼女の周りを囲っているのだが、今回は一人である。サエの動きに連動するようにして、マサが彼女の背後に少し距離をおいて移動する。彼女がここに来るのも、織り込み済みだったのだろうか。
「マサ君、お疲れさま」
「……うん」
労いの言葉をかけられたのに、マサは憮然としている。さっきは「お嬢の命令には逆らえない」みたいなことを言っていたが、実際は、さほど親しくも仲良くもないのかもしれない。
そんなマサの態度など全く気にする様子もなく、サエはゆっくりと一同に視線を向ける。
「だいたいの話は伺ったわ。随分と場が混乱しているようね」
「そっちから乗り込んでくるなんて、いい度胸じゃんか。ちょうど、私もアンタに話があったところだで」
気色ばんだハルカがサエの前に立つ。ずっと影に隠れていた蒼白の少女は、サエに近付こうともせず、その場で硬直している。
「あら、ハルカさん。やっとかめね。……サイコさんのことで怒ってるの? それともマサ君のこと?」
「両方だわ。アンタ、何を探っとるの? 何でSRSが私らの邪魔するよ!? サっちゃんに色々言ったみたいだけど――何をどこまで掴んどるよ!? 情報源は何!?」
息つく暇もなく、矢継ぎ早に畳みかける。しかし、サエの態度はどこまでも悠然としている。
「それを話すのは簡単だけど――いいの? それを話して困るのは、貴女がたの方だと思うのだけど?」
余裕たっぷり、といった態度で、口角を上げるサエ。
「…………」
脅迫じみたその言葉に、ハルカは言葉を失う。駄目だ。役者が違いすぎる。
「勘違いしないでね? 私は、貴女たちの味方よ? 大事なお隣さんだし、少しでも皆の力になりたいと思ってるの」
「……お前、何しに来ただよ」
警戒心を微塵も隠さずに、アオイが聞く。彼の声を聞いたのはひどく久しぶりな気がする。
「随分な歓迎ぶりね。そんなに身構えないでよ。味方だって言ってるでしょう? 人がせっかく、この混沌とした場を収束してあげようってのに」
「収束?」
「そう、収束――だって、この状況じゃ、もう収まらないでしょう? そこの、六組の人やミライさんの所の先輩は、この場で全てを知りたいと言うけど、十組のみんなは文化祭が終わるまで待てと言う。それに加え、アオイ君やハルカさんの個人プレーが発覚したせいで、十組内でも混乱が起きている。だけど、アオイ君やハルカさんにしたところで、全てを把握出来ている訳ではない。先輩が仰ったように、全ての情報を共有する必要があるんでしょうね。だけど、十組の子たちはそれを良しとしない――完璧な膠着状態でしょう?」
極めて論理的に状況整理をするサエ。
この場にいる誰もが、言葉を挟めずにいる。そうさせるだけのオーラが、この女帝にはある。反論がないことに気をよくしたのか、サエはさらに饒舌になっていく。
「文化祭まであと三日――本当なら、その準備にかかりきりじゃないといけない時期でしょう? 忙しくて、他のこと考えてる場合じゃない筈よ? だから――ね?」
――この場は、私に預けてもらえないかな。
突然のサエの提案に、ホールは水を打ったような静寂に襲われる。
「……どういうこと?」
ハルカは怪訝そうな表情を隠そうともしない。当たり前だ。
「お前が、SRSの人間として、この件を解決するってことか?」
強張った声でアオイが聞く。
「はァ? 何言っとるだ!? SRSって、マサ使って、サっちゃん振り回して、私らのこと探って邪魔しようとしてただら!? それがここにきて、何で解決するとか言い出すよ!?」
「ハルカさん落ち着いて。SRSは確かに貴女たちを探ってたけど、決して邪魔しようとしてた訳じゃないの。そこの六組の人や、ミライさん所の先輩と同じ――ただ、真相が知りたかっただけ。何度もしつこいようだけど、私たちは貴女たちの味方なの」
「……信用できん」
「裏切るようなことはしないわ。それに、これは取り引きでもあるの。誰にとっても損にならない提案だと思うけど?」
「どういうことだ?」
マサの一件で完全拒否の体勢に入ってしまったハルカとは違い、アオイはまだ聞く耳を持っているようだった。
「さっきも言ったけど、今は文化祭の準備で忙しいでしょう。とても他のことにかまけている時間はない筈。都合がいいことに、十組の人達は皆一様に『文化祭が終わるまで待て』と言ってくれている。だから――期限を、文化祭終了に設けたいと思うのよ。文化祭の終了と同時に、みんなそれぞれの手札をオープンして、情報を共有してもらう。その代わり、SRSは文化祭が終わるまで一切の追及をやめる。SRSと関係がない人達にも、追及しないって約束してもらう。文化祭が終わるまでは、取り敢えず全ての動きをフリーズする――それでどう? 六組の人やミライさんの所の先輩は、今、知りたいんでしょうけど、ここが妥協点だと思って我慢してほしいの。どっちみち、この場では十組の人たちは何も喋らないでしょうし、あと五日すれば真相が分かるんだから――いいですよね?」
サエの目が、まともにユカを捉える。
口調は丁寧だが、断れないだけの迫力がそこにはあった。
と言うか、サエの提案にはユカも賛成だった。確かに、アオイもハルカもイズミも、これ以上追及したところで何も話してはくれないだろう。ここが妥協点と思って諦めるしかない。
……どうでもいいが、この女帝、さっきから『六組の人』とか『ミライさんの所の先輩』としか呼んでくれない。恐らく名前を知らないのだろうが、まあ、それはいい。ほとんど親交がなく、言葉を交わしたのだって今日が初めてなのだ。名前を知らないくらいは、別にどうとも思わない。しかし、ユカのことを『三年五組の先輩』ではなく『ミライさんの所の先輩』と呼ぶのはどうだろう。これはサエに限った話ではない。初対面の人間に自分のクラスを明かすと、ほぼ十割の確率で「ああ、ミライの所の……」だの「ミライさんの所の……」だのと言われる。絶対に、だ。別に『三年五組=ミライ』という訳ではないと言うのに……。
それだけ、ミライのカリスマ性が強いということだろうか。
さすがに、最近ではもう慣れたが。
「アオイ君とハルカさんも、それでいい?」
ユカとヒトナリが無言でいることを肯定のサインと見なしたのだろう。サエの視線は、十組の主要人物へとスライドする。
「俺はそうでいいと思うけど……」
「本当に、信じていいのね?」
あっさりと了承するアオイに対し、ハルカはなかなか疑り深い。
「当たり前よ。文化祭が終わった後だって、私は九組の委員長だし、SRSの一員なんだから。こんな所で信用落とす真似をするはずがないでしょう?」
「……分かった」
微笑みながら駄目押しをするサエに、ハルカは不承不承、頷く。
「OK。じゃあ決まりね。ずいぶんゴタゴタしちゃったけど、取り敢えずこれで収束。私たちは無事、文化祭の準備に集中できるって訳です」
何だかんだで、本当にこの場を収めてしまった。現実には、何一つ分かっていない、何一つ解決していないのにも関わらず――である。サエがしたことは、ただの先延ばしにすぎない。しかし、安心している自分がいるのも、また事実だった。精神的に追いつめられ、疲れていたのだと思う。取り敢えず、一旦休戦だ。しばらくは文化祭に専念しよう――そう思った。
「でも、本当に運がよかったわ。たまたま十組の人、全員が揃ってたから、話もスムーズに進んだし」
完璧に気を抜いていた。だから、聞き流すところだった。
――『全員が揃ってた』?
そんな馬鹿な。ユカは慌てて十組の面々に視線を走らせる。
――これで、全員?
少なすぎる。十組と言うのは大きなクラスで、生徒もそれに比例して多い。優に七十人は越えるのではないだろうか。しかし、この場にいるのは、ざっと見積もって三十人と少し程度だ。半分にも満たない。
誰がいないのだろうと、探してみる。日曜にイズミの家で知らされた例の六人がいないのは最初から気が付いていた。およそ納得できる話ではないが、今そこを掘り下げても仕方がないので、とりあえず置いておく。他に、名前が分かっていて、この場にいない人間は――と、素早く頭の中の十組リストと、目の前の面子を照合する。
すぐに分かった。
あの子が、いないではないか。
「ねえ――ミホちゃんは?」
イズミの袖を引きながら、尋ねた。
そう、ミホがいないのだ。
女子サッカー部のエース、ポニーテールのスポーツ少女。
快活な性格で、割と目立つ方だから、いればすぐ目に付く筈なのだけど……。
「――――」
数瞬遅れて、ユカは気が付く。
ホールが、異様に静まり返っていることに。
サエの提案で一旦は弛緩しかけた空気が、また限界まで張り詰めている。そして、その誰もが――それにはサエやヒトナリなど、クラス外の人間も含まれる――ユカを、信じられないモノでも見るみたいな目で見つめている。
どうやら、失言してしまったらしい。
悠然と鎮座する女神像の前に屹立するモビルスーツという画は、なかなかにシュールだな――痺れる頭の片隅で、ユカはそんなことを思っていたのだった。




