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幕間・C

(前回からの続き)

 とは言え、よくよく話を聞けば、彼女を蘇らせるには、様々な手続き――というか、下準備が必要なようだった。

『まずは、結界を張らないといけません』

 言うにことかいて、結界と来た。

 俺は、そのうさんくさい単語に鼻白む。

 確かに、目の前にいるのは魔術師と呼ばれている存在だが、それにしても結界とは――。

『難しく構える必要はありません。便宜的に結界という言葉を選びましたが、要はただの密閉空間です。物理的な移動が不可能で、外部からの視界を全て遮るような、そんな密閉空間が必要なのです』

 何のために。

『あなたが望む人物を、よみがえらせるためにです』

 それの説明は、こうだった。

 死者蘇生は一度に行うのではなく、ある程度の時間を必要とするらしかった。つまり、死者は一度、特定の場所――つまり結界内で仮の存在としてよみがえり、その場所でしばらく時間を過ごした後、ようやく結界から出て、生者としての存在を得るということだ。

 ワンクッション置くというか、この世へのリハビリというか……とにかく、死者は一度、誰も立ち入らず、誰の目にも触れない密閉空間――結界内でのみ、存在する時間が必要なのだそうだ。

『そこで、あなたにも働いてもらう必要があります』

 結界がどうこう、よみがえりがどうこうに関しては、もちろん魔術師に一任する。俺に与えられた仕事は、その場所選びだった。

「それは、俺も入っちゃダメなんですか?」

『いいえ。そんなことはありません。契約者が入っても、他の誰がその結界内に入っても、よみがえり自体に支障が出るということはありません』

 相変わらず、英語の教科書を和訳したような言葉で、分かりにくいことを言う。

「じゃあ、何故結界は必要なんですか? 別に、普通の部屋でいいじゃないですか」

『ちょっとした混乱が起きるからです。そのことについては後で説明します』

 そう言われれば返す言葉もない。

 俺は別の切り口から質問することにした。

「結界内で仮の存在としてよみがえる人間とは、その……話をすることはできるんですか?」

『もちろんです』

 それは断言する。俺はいまだにそれの顔形を認識することができないのだけど。

『仮の存在は幽霊とは違います。誰の目にも見えるし、話をすることも、触ることもできます。結界内であれば、生身の人間と大差ありません。自我もあるし、思考能力もある。ただ』

「ただ?」

『記憶は、死亡した段階で停止しています。それ以降に起きたことは記憶されていません。そしてそのこと自体を、死者は認識していない。つまり』


 ――自分が死んだことに気が付いていないのです――


 それの言葉に、俺は何と返したらいいか分からない。

『もっとも注意しなければならない点がすれば、そこです。死者には、絶対に自分が死者であると気取られてはいけません。よみがえりが上手くいかなくなる危険性があります』

 言われるまでもないことだった。

 これから復活してもらおうというのに、誰が好き好んでそんなことを告げたりするものか。せいぜい、その時の新聞記事にでも注意すればいい話だろう。

 ……ああ。

「だから、他の人間が結界内に入らない方がいいんですか? よみがえり途中の人間に、本当のことを知らせたりしたら困るから?」

『それは違います』

 いい思いつきだと思ったのだけど、俺の意見は無機質な口調のそれにあっさり却下されてしまう。

『それに関しても、後でまとめて説明しましょう。他に何か、結界を張る場所を決めるにあたって、何か質問はありますか?』

「えっと……物理的な移動が無理で、外から視界が遮られてる場所、ですよね? それは、ずっとそうじゃないとダメなんですか?」

『そんなことはありません。密閉状態であるのはわずかな時間で構いません。しかし、密閉状態が長ければ長いほど望ましいのは確かです。結界は密閉状態でのみ発生します。つまり、密閉状態の間のみ、仮の存在は存在することができるのです。そして、仮の存在を長く存在させる程、蘇生への時間は短くなります。早く復活させたいのなら、できるだけ密閉状態を長く保つべきでしょう』

 俺は考えた。

 誰も入らない、誰も見ない場所――例えば、俺の部屋はどうだろう? 窓にカーテンを引いて、ドアを閉めてしまえば、それでもう結界は完成する。俺の部屋でのみ彼女が復活して、しかも話をすることができるのなら……いや。

「あの、その仮の存在ってのは、自我も思考能力もあるって言いましたよね?」

『仮の存在には、自我も思考能力もあります』

「じゃあ、不自然な場所に出てきたら、当然不審がりますよね?」

「それが不自然な場所なら、そうなりますね」

 俺の部屋に彼女がいるのは不自然だろう。生前、彼女は俺の部屋に来たことなど一度もなかったのだ。『なんで私はここにいるの?』と聞かれても、上手くごまかす自信がない。

「念のために聞きますけど、仮の存在ってのは、当然、結界からは出られないんですよね?」

『原則、そうです』

「出ようとしたら……ってか、出ちゃったらどうなります?」

『よみがえりが上手くいかなくなる危険性があります』

 ダメだ。俺の部屋はダメだ。そもそも、俺の部屋じゃ、いつ母親が来るか分からない。ドアを開け放してくれればそれまでだが、部屋に入ったその後で再びドアを閉められたら、それで結界は再び完成してしまう。母親と彼女が対面してしまったのでは、色々と面倒なことになる。   

 と言うよりも。

「結界内に第三者が入ってきたらどうなるか、教えてもらってもいいですか? それによって、結界を張る場所を変えなきゃならないもんで」

『分かりました。では、次の説明に入りましょう』

                           (続く)

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